ミニ大通の並木から(20019.1〜20019.12)
【ブーケ作り、リース作り】
多くの皆さんは、ブーケやリース作りに必要な事はセンスだと思われているようですが、それは違います。突然、イメージがわいて作れるというのは幻想です。言葉を知らなければ小説が書けないように、花を知らなければ作る事は出来ません。
自分が良いと思ったブーケやリースを糧にして、植生、季節、神話、宗教、民間習俗、そして、市場に流通する期間を把握する事で、より良い仕入れが出来て、美しいブーケやリースが生まれます。知識と経験が必要なのです。
しかし、ブーケやリース作りは、他人を真似る事で簡単に出来てしまう怖さがあります。今から20年前、パリから来た花屋にいわれました。「パリの花屋の真似はわかったから、あなたのブーケを見せて!」とね。(2019.1)
【ミモザをフワフワで】
ここ数年、ミモザをリースにして楽しむ花屋が増えた事もあって、ミモザは輸入品も含めて様々な種類が市場に多く出回るようになりました。とはいえ、ミモザは切り花としては日持ちがあまり良くありません。
雪国の室内ではすぐ乾燥してしまい、その輝かしい黄色はあっという間にくすんでしまいます。だから、仕入れたミモザは水揚げをした後、ビニール袋をで覆って湿度を加えて乾燥を防ぐ事が重要です。こうする事で、蕾もよく開きます。
この写真のように、そんな下ごしらえをしたミモザで作ったリースはフワフワの状態で仕上がるのはいうまでもありません。この春を祝うカーニバルの黄色を手にする時、フワフワで受け取るかどうかで、その喜びは違ってくるのです。(2019.2)
【緑のブーケ】
緑の枝葉で作るブーケの良いところはいくつかあって、まず、眺めているだけで心が安らぐという事。それから、花の質感が強調されて季節がより感じられるという点。また、飾る場所を選ばず、長く楽しめるという事も特筆すべきでありましょう。
とりわけ、春においては、枝の芽吹きや若草色のスノーボール、野菜のような球根花など様々な緑が集まりますから、ブーケ作り本来の醍醐味でもある「相反するいろいろなものを混ぜ合わせる」といった面白さが味わえます。
緑といえば、3月17日はセントパトッリックスデーで、緑を身につけて祝うアイルランドの祝祭日です。緑のブーケを飾って、ギネスを飲みなら、ドロレス・オリオーダンの歌声を聴くのが、私のセントパトリックスデー。(2019.3)
【オレンジ・プリンセス】
チューリップは花弁の特徴によって様々な呼ばれ方をします。一重咲き、八重咲き、パーロット咲き、フリンジ咲き、ユリ咲きなど、花弁の数や形から呼ばれるものもあれば、ビリデ咲き、レンブラント咲きなど、花弁の模様から名付けられたものなどです。
そんな中、この写真のオレンジ・プリンセスは、八重咲きであり、レンブラント咲きという珍しさがあります。花屋ではチューリップのシーズン最後に出回る草丈の短い品種で、花弁にある茶紫の透かし模様には、絵筆で描かれたような美しさがありましょう。
そしてご覧のように、このチューリップとスノーボールの組合せは、春の定番です。イースターのブーケとして、あるいは、サンジョルデイのブーケとして束ねる時、雪どけたミニ大通は春を迎えています。(2019.4)
【ブーケとサイクリング】
ご存知の方も多いかと思いますが、私の趣味はサイクリングで、14年ほど続いています。何がそんなに楽しいのかといえば、ブーケ作りのヒントがこの遊びには隠されているからです。
たとえば、田舎道で樹々や田園風景を眺めたり、季節を感じる花畑に出会ったりしますと、明日作るべきブーケの手本が見つかります。クリスチャン・トルチュがいうように、美しいブーケの組み合わせは身近な場所で既に存在しているのです。
それからもう一つ、天候の変化や道の間違い、パンクなど、予測不可能な事がおこります。その際、冷静な判断が必要となるわけですが、ブーケ作りもまた自然が相手。仕入れる時も束ねる時も、迷いがなくなったのはサイクリングを始めてからなのです。(2019.5)
【料理とブーケ作り】
ブーケのレッスンをしていて気が付いた事の一つに、ブーケ作りは料理に似ているというのがあります。たとえば、予算をもとに、旬の素材を吟味して、組み合わせを考えるという作は、まるで献立を考える気分です。
そして、材料を切り分け、主役、脇役、アクセントとなる花や枝葉をテーブルに並べる下処理は、料理でいうところの下ごしらえ。そう考えていたけければ、初めての方でも段取りを知ればブーケは上手く束ねられるのです。
先日、花婿がブライダルブーケを作る機会がありました。新郎が天ぷらを揚げる仕事をしていたので、折角だから束ねてみましょうとなったのです。初めてとは思えない手際の良さ。やはり、料理とブーケ作りは似ているのです。花嫁をより幸せに導きました。(2019.6)
【フランボワジエについて】
フランボワジエとは、フランス語で木苺の木というほどの意味で、新芽の鮮やかな緑とプリーツ状の葉が美しい花材です。フランス語名で流通しているのは、この枝葉がフランスの花屋で昔から広く使われているからでしょう。
木苺の葉なんて庭にあると思うかもしれませんが、重要と供給で成り立つ花屋では入手が難しいものが多くあります。フランボワジエもそのひとつで、札幌の市場にはこの夏から本州産が少しずつ入荷し始めたのです。
もっとも、北海道でも長沼町の若い生産者がフランボワジエの栽培を始めるようで、先日、出荷してほしい時期や葉の大きさなどをお伝えしました。こういった生産者との繋がりは、ブーケをより季節感のある自然な仕上がりに近づけてくれます。(2019.7)
【グラジオラスのブーケ・ファゴ】
夏から秋にかけて庭を彩るグラジオラスは、長い花茎の先に複数の花をつける事もあって、どちらかといえば、大きな花飾りやブーケに向いています。そのため、日頃は取り扱う事がほとんどありませんが、真夏に作りたくなるのが、グラジオラスのブーケ・ファゴです。
この写真にように、切り分けたグラジオラスを垂直に束ねて、パニカムを少しだけ添えて仕上げます。ファゴとはフランス語で薪や薪束というほどの意味で、ブーケは自立しますから、水のはったお皿に置けば暑い季節でも一週間ほど楽しめるというわけです。
もっとも、このブーケは1995年にクリスチャン・トルチュが雑誌でも紹介していたことがありますから、ご存知の方もいるかもしれません。グラジオラスだからこそ出来る美しいブーケです。(2019.8)
【出張レッスンについて】
出張レッスンの始まりは、今から20年ほど前の事で、ギャラリーからの誘いで参加した企画展示がきっかけです。併設するカフェにおいて、飲み物付きで、スパイラルブーケ作りを体験していただくというものでした。
その当時、花を教えるといえば、場所は文化センターなどで、内容は資格取得やデザインを目的とする事が一般的だった時代です。その日限りのその場所で、季節を楽しんだこの時のレッスンは、どこか自由で新しさもあって、私の気質にぴたりと一致しました。
その後も遠く地方に出向いたり、野外で行なったり、料理教室と一緒だったり、ありとあらゆる場所で行なってきた出張レッスン。来月は厚真町の古民家を訪れて、板の間に座って秋のリースを作ります。(2019.9)
【シクラメンについて】
プリニウスの時代には薬草として、バロック時代のヨーロッパでは食用だったシクラメン、正確にはペルシア由来のシクラメン・ペルシカムも、今では秋から春までを彩る観賞用の鉢植えとして多くの品種が出回っています。
株の大きなものであれば、茎を螺旋状に引き抜いて切り花として小さなブーケに。また、美しく乾燥する白い花はリースの素材にもなります。むろん、葉を巻いたガラス器に入れて飾れば、ちょっと洒落た贈り物にもなるわけです。
ちなみに、秋のコッツウォルズなどではシクラメンの絨毯が見られますが、あれは原種でヨーロッパ由来のシクラメン・ヘデリフォリウムです。その名の通り、葉の形がアイビーに似ていて、私たちが知るこの写真のシクラメンとは種類が異なります。(2019.10)
【モミのガーランドについて】
ガーランドとは、紐に植物を括りつけた花飾りのひとつです。その歴史は古く、紀元前からあったといわれており、花網、花輪、花冠などの意味があります。今日ではクリスマス飾りとして、私たちに馴染み深いのはいうまでもありません。
たとえば、毎年11月中旬、アメリカのオレゴン州から上質なモミ枝が市場に入荷します。多くの花屋はこのモミを使って、リースやスワッグ、そしてこの写真のように、ガーランドを準備するわけです。
リトアニア産の細く目立たない麻紐を用いて長さ70センチ程に束ねて仕上げれば、壁飾りとしてはもちろんの事、卓上飾りとしてもお使いいただけます。おひとつ、¥5,500。期間を決めての予約販売です。(2019,11)
【ヤドリギの幸せ】
フランスの新年には、ヤドリギを飾る習慣があります。寒さに凍えた妖精がこの植物に移り住む逸話があるからだそうで、家に招き入れれば幸運が訪れるというわけです。
そんなエピソードを思い浮かべながら、今年もヤドリギを仕入れました。切り分けられるのは鮮度が良い証です。妖精が沢山居るにちがいありません。小分けにして販売しております。
さて、お陰様でミニ大通りに根を付けて12年が経ちました。皆さまには感謝の気持ちでいっぱいです。来年もどうぞ宜しくお願いいたします。
えっ、この秋の怪我で髭が剃れずにいたところ髭面が似合うと言われて調子に乗っているでっしょうって?まあ、そんなことはいいっこなしよ。(2019.12)
ミニ大通の並木から(20018.1〜20018.12)
【柿渋染めの花鋏入れ】
レッスン中のある時、花鋏入れが話題に上りました。買った時の箱に収めていたり、タオルに包んでいたり、ペンケースを転用したりと、皆さんお気に入りがなかなか見つからないご様子。そこで、出来上がったのがこの柿渋染めの花鋏入れです。
製作を依頼したのは柿渋染めの専門、キクチジュンコさんで、どれひとつとして同じものがないのも魅力的。素敵に仕上げていただきました。何でも、フランスや東欧などの丈夫な古布を素材にしているそうで、しっかりした作りは花鋏を安全に持ち運べます。
また、見えない内張の仕上がりがお見事なのは、キクチさんのお人柄でありましょう。10周年を記念したオリジナル商品ではありますが、まずはレッスン参加者のお手元へ。(2018.1)
【白磁の花器】
この白磁の花器は開店10周年を記念して出来上がったオリジナル商品です。製作を依頼したのは、ブーケレッスンがご縁で知り合った陶の専門、内藤美弥子さんで、どれひとつ同じものがないのも魅力的、素敵に仕上げていただきました。
何でも、ロクロを引かず、型も使わず、削る事で磁土を成形しているそうで、なるほど、この静謐で歪みのある輝きや、接地面の美しさ、そしてどこか古くて新しい印象は、そういった独自の技法から生まれているというわけす。
白磁の花器はおひとつ、¥9,720から。控え目ながらも芯の通った彫刻的な佇まいは、20世紀イタリアの画家、ジョルジョ・モランディが好んで描きそうではありませんか!きっと、花をより美しく飾っていただけます。(2018.2)
【スイートピーについて】
プラントハンターがシチリア島でスイートピーを見つけたのは19世紀のこと。それゆえ、この花は聖書やバロック絵画には登場しません。イギリス王、エドワード7世が好んだように、アール・ヌーヴォーの時代に流行し、今日の花屋に並んでいます。
和名は麝香連理草。連理草が夏の季語であるように、初夏の野原で這いつくばるのが本来の姿です。ところが、日本では卒業式シーズンに合わせて春に出回りますから、つい花屋はチューリップなどと束ねてしまいます。
でも、この花の美しさが際立つのは、芍薬やバラとの組み合わせです。もし3月に束ねるなら、スイートピーを主役にして、それも25本は使ってシチリアの田園を意識すれば大丈夫。香り漂う素敵なブーケが出来上がります。(2018.3)
【母の日アンケート】
先日、インスタグラムを利用して、アンケートを行いました。白とピンク、2種類のブーケから母の日に贈るならどちらの色かという質問です。結果は44:56でピンクが白をわずかに上回りましたが、ほぼ同等といえましょう。
きっと、どちらも愛情豊かなバラのブーケである事と、日本で作出されたこのロゼット咲きのバラは、感謝を伝えるのに相応しい美しさがあるからかも知れません。贈っても、贈られても、そして束ねても幸せな気分になるわけです。
白ならシェドゥーブル、ピンクならアムルーズ・トワやエレガント・ドレスといった品種を選んで、スノーボールと空木の枝葉を加えれば、母の日に贈るブーケが今年も出来上がります。(2018.4)
【ライラックのブーケ】
ペルシア語で花を意味する「lilak」が語源のライラックは、現在のイランが原産で、冷涼な地域で育つ花木です。私の住む札幌では市を象徴する木でもあり、新緑が美しくなる5月の終わりとなれば、その芳醇な香りが街に漂います。
花屋では、冬の間からオランダ産が並びますが、これからの時季に、少しだけ出回る地物のライラックをたっぷり使ったブーケは年に1度の喜びであり、札幌の花屋の特権でもありましょう。
この写真のように、美しいリラ色を引き立たせるべく、リョウブとスノーボールの緑を加えて束ねるのがここ数年のお気に入りです。出来上がったブーケをミニ大通のベンチに置いたら、ハート型をした葉とともに、緑溢れる5月の札幌に幸せを与えてくれます。(2018.5)
【スモークツリーのリース】
スモークツリーは雌雄異種の落葉樹で、花屋には初夏から秋に出回ります。とりわけ、その名が示す通り、開花後の花柄が煙状になった雌木においては、かれこれ30年ほど前から、初夏のフラワーデザインの花材として欠かせない存在です。
ただ誤解を恐れず申せば、このヒマラヤ原産の花木はユーカリのように存在感があり、花柄は20センチほどありますから、ブーケにするよりもリースにする方がその良さは引き立ちます。また、彩度の低い赤や緑の色の花柄が美しく乾燥する事も魅力的です。
その作り方は簡単で、環状にしたサンキライの枝に、葉を取り除いた花柄を絡めれば、スモークツリーのリースはあっという間に出来上がます。直径約27センチで、おひとつ、¥5,400。飾る場所を選ばない、涼しげな夏のリースです。(2018.6)
【花冠について】
写真はつい最近仕上げた花嫁の花冠で、子供の頃にタンポポやシロツメクサを摘んで遊んだ事や、トーベ・ヤンソンのムーミンに出てくるスノークのお嬢さん、あるいは、チェコの映画「ひなぎく」を思い出しながら作りました。
要領はリース作りと同じで、環状にしたサンキライの土台に、スモークツリー、ミズキ、カモミール、グロゼイユ、クレマチス、アイビーの順に絡めれば、その姿は、さしずめ花のティアラといった趣です。持てばブーケとして、置けば卓上飾りとして楽しめるのも花冠の魅力でありましょう。
そういえば、花冠は英語でカローラといいますが、日本の大衆車に同様の名前がありました。花冠が古代ローマから人々にとって身近な存在だったので、そう名付けられたのかもしれません。初期のエンブレムはCの文字の上に3つの花、花冠のデザインでした。(2018.7)
【ヒマワリのブーケ】
俳句でいう季語のように、ブーケにおいてもその季節に相応しい花、誰もがその季節を感じる花というのがあって、夏といえば、ヒマワリもそのひとつです。漢字では向日葵、日回と書き、外国語や学名でも太陽と関連しているように、太陽の眩しい季節が良く似合う花でありましょう。
もっとも、ヒマワリはキク科の花で、暑い時期ですと器の水が濁って茎が腐りやすくなるため、水替えの手間が増えますから、わざわざブーケにするまでもないと考えたくなります。ところが、最近の切花向けのヒマワリは色や形も豊富で、束ねたくなる品種も少なくありません。
写真は「ホワイトナイト」という新品種で、少し白を感じるこのヒマワリは、西洋潅木の若い果実と良く合います。とても涼しげで、もう少し生産量が安定したら、レッスンのプログラムに加わえて、皆さんにも束ねていただきたいものです。(2018.8)
【私の花器コレクション・9】
この黒いモノリス型の花器は、石神照美さんの作品です。高さは15センチほどで使いやすく、この無機質な陶の質感は花の美しさを引き出します。また、何も飾らなければ、曖昧な壁として空間にこっそり佇むのも石神さんならではです。
石神さんといえば、小さな白い家や塔が並ぶ、パースペクティブな展示があります。それは例えるなら、ヴィム・ヴェンダースの映画「ベルリン・天使の詩」の天使のごとく、陶の街を俯瞰しながら優しく見守るという仕掛けです。
もっとも、そんな事を述べていたら、この夏、石神さんの個展にそのヴェンダース監督が訪れて、彼女の花器を手にしたというドイツの土産話が届きました。なるほど、先の映画に習えば、きっと石神さんも、かつては天使だったにちがいありません。(2018.9)
【ブーケ・サファリについて】
この写真は、つい最近仕上げた花嫁のためのブーケです。依頼では、ススキの仲間であるパンパスグラスを主役に、スワッグとして残せる事が条件でしたから、それならばと、長く楽しめて美しく乾燥する花束、ブーケ・サファリとして仕上げました。
もとより、フランスの花屋で1990年代に一斉を風靡したこのスタイルは、南アフリカの土着的な花を取り入れるのが特色です。日持ちがするので、当時はどちらかといえば、店先に並ぶ作り置きのブーケといった印象でしたが、近ごろは、壁飾りにもなるブーケとして見直されてきた事は、皆さんも良くご存知でありましょう。
ちなみに、サファリとはスワヒリ語で「長い旅」というほどの意味ですから、この一見すると風変わりに見える花束は、二人の門出をより後押ししたにちがいありません。(2018.10)
【ローズヒップのリース】
ローズヒップとはバラの果実のことで、ヒップそのものが「ノイバラの果実」という古い英語から派生した単語です。ドッグローズやハマナスなど、野生のバラ、とくに一重咲きのバラに多く見られます。
その赤い果実は、プリニウスの時代から、薬用や美容、あるいは食用として私たちは恩恵を受けてきましたが、今日の花屋においては、リース作りの素材としても欠かせない存在です。
この写真のように、さまざまな種類のローズヒップで仕上げたリースは、直径25センチほどで、おひとつ、¥4,320。昨年から作り始めたこのリースは、晩秋から近づくクリスマスまで、季節の移ろいを感じながら楽しめます。(2018.11)
【ユーカリの蕾】
オセアニアが生んだ特異な植物のユーカリの旬は11月からクリスマス頃です。その語源が「良い蕾」というほどの意味で、蕾はがくと花弁が合着し蓋状になっていて果実のようにも見えます。
これが、花屋にとっても「良い蕾」で、ブーケやリースのアクセントになるのはいうまでもありません。たとば、この写真のように、針葉樹と束ねれば、緑のブーケ、あるいはスワッグとして大いに楽しめるのです。
さて、お陰様でミニ大通りに根を付けて11年が経ちました。皆さまには感謝の気持ちでいっぱいです。来年もどうぞ宜しくお願いいたします。
えっ、6月から8月まで日曜日も休みにしたのは、自転車に乗るためでしょうって?まあ、そんなことはいいっこなしよ。(2018,12)
ミニ大通の並木から(20017.2〜20017.12)
【私の花器コレクション・1】
パリの花屋、クリスチャン・トルチュのために、イギリスのデザイナー、ジェームス・ヒーリーが1995年に発表した花器が「カナル」です。その名の通り、特徴的な長さと、幅の狭さは運河を連想させます。伝統的な屋根葺きの技術を応用した、この現代の亜鉛バケツは扱いが容易で、私のお気に入り。
サイズも様々あって、縦型のものはまるで、キューブリックの名高い映画「2001年宇宙の旅」に出てくるモノリスのような存在感があります。もっとも、この写真の、私が20年ほど愛用しているものは、お客様からのパリ土産で、横型の一番小さいサイズなのですが、今でも古さを感じさせません。
結局、良い花器というのは、質感とデザインに優れている事は申すまでもなく、長く使い続けられる事なのでありましょう。ちなみに、この花器をデザインしたヒーリーはその後、香水ブランドを立ち上げ、現在は香水デザイナーとして日本でもお馴染みです。(2017.2)
【私の花器コレクション・2】
この21本の試験管が連なった「四月の花器」は、パリを拠点に活動する二人組、ツェツェ・アソシエのデビュー作であり、代表作です。「四月」の名の通り、花や枝、葉を自由気ままに飾るだけで、蝶々が舞うような雰囲気に仕上がります。
皆さんもご記憶にあるように、クリスチャン・トルチュがカンヌ映画祭の晩餐会で使用した事で、この花器は世界中で知られるようになったわけですが、なるほど、飾る場所を選ばない、というのもこの花器の魅力でありましょう。
写真のものは、もう20年以上使っているもので、メッキが剥がれて錆ついてますが、その経年劣化は味わい深く、花をより生き生き見せてくれています。それは、一つの花器を長く愛用してきた事へのご褒美なのかもしれません。(2017.3)
【私の花器コレクション・3】
フィンランドの建築家、アルヴァ・アールトが1937年のパリ万国博の為にデザインしたガラス花器が、この「サヴォイ・ベース」です。波を意味するアールトの名のとおりのその曲線は、80年経っても古さを感じさせません。
MOMAのパーマネントコレクションとして、現在でも、製造販売が続いていて、色や大きさも多様にあります。サイズを問わず、不規則な四つの窪みに花がきっちりと収まりますから、飾りやすいというのもこの花器のもう一つの魅力です。
ちなみに、これまで紹介した花器は模倣品が多く出回っているのに対して、このサヴォイ・べースの模倣品はみかけない気がします。きっと、あまりにも世界で有名なフラワーベースだからなのでしょう。(2017.4)
【私の花器コレクション・4】
今から20年ほど前、当時の店近くのインテリアショップで購入したのがこのアノニマスな花器です。ちょうどセール品で、残っていた二つを衝動買いしましたからとても安価だっと思います。
高さが30センチ、素材はテラコッタでラフに色が塗られていますが、その自然な仕上がりは飾る場所や花を選びません。また、司教の僧服の袖のごとく下が膨らんでいて、こういった形は花を飾りやすいと言う事を知ったのもこの花器と出会ったからです。
旬の枝や花を仕入れた時、少し背の高いブーケを束ねた時、このアノニマスな花器は今でも重宝しています。時おり、譲って欲しいといわれてはお断りしておりますが、手に入るのであれば販売したいと思うほど使いやすいのです。(2017.5)
【私の花器コレクション・5】
西洋料理にナイフとフォークを広め、フランス菓子にマカロンを伝えたのは、その昔、フィレンツェを支配したイタリアの名門貴族メディチ家ですが、この写真にあるような花器を庭にもたらしたのもメディチ家です。メディチ花器と呼ばれています。
何でも、その形は保有していた古代ギリシャの大理石製花器に由来しているようで、王妃マリー・デ・メディチが造成したパリのリュクサンブール公園ではお馴染みの花器です。この公園を舞台にした、エリック・ロメールの映画「パリのランデブー」でも美しく登場していました。
現在、メディチ花器は多くの複製品が作られていて、私も白い鉄製のものを使っています。たしかに、その古典過ぎるデザインは場所を選びますが、店内に庭の雰囲気を醸し出す花器として、ロメール好きとして、これは持っておきたい花器なのです。(2017.6)
【私の花器コレクション・6】
三つの穴が空いた、ラグビーボールを一回り小さくしたほどの吹きガラスに、花や枝葉を挿して天井から吊り下げて使う「なまけものの花器」は「四月の花器」と同じ、ツェツェ・アソシエがデザインしたものです。
その名は、生涯のほとんどを樹にぶら下がって過ごす動物ナマケモノに由来します。ツェツェによれば、この花器はナマケモノのように葉っぱが大好きなようで、なるほど、緑を主体に少し大ぶりに飾りますと、小さな空間に森の佇まいが出来上がるというわけです。
今から10年前、現在の場所に移る時、真っ先に思いついたのが、作業テーブルの上にこの花器を吊り下げる事でした。以来、「なまけものの花器」は店の一番高い場所から、お客様と私を見守っています。(2017.7)
【私の花器コレクション・7】
フランスのセラミスト、ジョルジュ・ジューヴを知るきっかけにもなったこの黒いセラミックの花器は、山本アッシュさんの作品で、2011年に開かれた彼の個展で購入しました。たしか作品名は「marumero」だったと記憶しています。
もっとも、一般に黒い花器というのは存在感が強すぎる事から、花屋はとかく敬遠するものですが、この金属のような鈍い光と重量感、そして、完全でありながらも不完全でどこか有機的な形をしたこの花器と出会った時、そんな迷いは一瞬で無くなりました。
また、口径が四センチ、高さが三十二センチという花器の大きさは使いやすく魅力的で、バラ、アジサイ、ダリア、アマリリス、ユーチャリスなどを現代的に美しく飾る事ができます。(2017.8)
【私の花器コレクション・8】
このメディチ花器はこの夏、古くからのお客様から譲っていただいた私の最新コレクションです。高さが55センチ、幅が35センチ、大人一人がやっと持てる重さで、人工大理石で出来ています。
ご覧のように、直径が手のひらより大きいアジサイもたっぷりと飾れる大きさで、嫌味のないレリーフ模様に使い込まれた質感が味わい深く素晴らしい限りです。今では店内に古くからあったかのごとく、すっかり馴染んでおります。
これからが旬の、大振りのダリアや実り豊かな枝葉などを飾る上で重宝するのは間違いありません。また、同じものがもう一つありますから、店の入口に常緑樹を対に飾ってみるのも素敵でありましょう。大切に使い続けたいと思います。(2017.9)
【冬仕度のリース】
リースは乾燥した後も季節を問わず飾って楽しむ事ができますが、ミモザは早春、トケイソウは初夏、といった具合に、その種類によって作る時季が限られます。この新作のリースもまた、深まる秋から雪が降る頃の限定品です。
春に植えて程よく成長した2種類の白妙菊に、オーストラリアから届いたユーカリの蕾付き枝葉を、環状にしたサンキライの土台に絡めています。冬の始まりを思わせる美しい銀葉から冬支度のリースと名付けました。
写真のものは直径約50センチで、おひとつ、¥10,800。直径約25センチは、おひとつ、¥4,320。秋冬を通して楽しむ事ができますが、もとより、クリスマスの撮影用として誕生したものですから、クリスマスのリースとして飾っても素敵です。(2017.10)
【モミのツリー】
アンデルセンの童話「モミの木」にあるように、西洋でクリスマスといえば、森から切り出したモミの木を室内に飾ることが一般的ですが、最近は写真のようなモミのツリーというのも見
かけるようになりました。
まるでドイツの北バイエルン地方に伝わる精霊フィングストを思い出すこの緑の飾りは、生命力を表す新鮮なモミの枝葉を逆さにしながら、木の棒を軸にピラミッド状に麻紐を用いて束ねて仕上げていきます。すなわち、これもブーケの一種というわけです。
モミのツリーは高さが40センチほどでおひとつ、¥7,560。もっとも、中世からクリスマスツリーはキリスト教における三位一体の象徴でもりますから、このように三角形のもの飾るという事が重要になります。(2017.11)
【真鍮のトレー】
年末の定番品、ヒヤシンスの鉢植えと球根型のろうそくに適する鉢皿や燭台として出来上がったのがこの真鍮のトレーです。
製作を依頼したのは真鍮の専門家、ヒウラユカさんで、どれひとつとして同じものがないのも魅力的。素敵に仕上げていただきました。スクエア形がおひとつ、¥2,160から。遊び心あるドーナツ形はおひとつ¥6,480。
さて、お蔭様でミニ大通りに根を付けて10年が経ちました。皆さまには感謝の気持ちでいっぱいです。来年もどうぞ宜しくお願い致します。
えっ、このトレー以外にある10周年記念のオリジナル商品の発表は来年になったんでしょうって?まあ、そんなことはいいっこなしよ。(2017.12)
ミニ大通の並木から(20016.2〜20016.12)
【ミモザのスワッグ】
どういうものか、私はミモザが文句なしに大好きで、春が近づくこの時期になりますと、迷う事なく手に取ってしまいます。思いつくままに、その理由をあげるとするならば、まず、ヤドリギやスズランなどがそうであるように、市場に並ぶのが一瞬で、旬をはっきりと感じる花だからです。
それからもう一つ、銀色がかった葉と鮮やかな金色の房とのコントラストに、心が躍ってしまいます。前にも述べましたが、雪景色の中でしばらく過ごしておりますと、この花色がまるで南仏の太陽のごとく、眩しく見えるというわけです。
そんな北国に、このミモザのスワッグは、いわば春を告げる壁飾り。お互い大木で、原産地も同じオーストラリアであるユーカリと螺旋状に束ねて仕上がります。長さは50センチほどで、おひとつ、¥5,400。リースとはまた違った楽しみ方でもありましょう。(2016.2)
【私のブーケ作り】
今からちょうど25年前、ブーケ作りを始めた頃は、形やデザインに重きを置いておりましたが、多分、レッスンがきっかけだと思うのですが、いつの頃からか、料理を作るように、束ねる時は手際よく、準備はしっかりと、季節感や素材の組み合わせを意識するようになりました。
考えてみれば、旬を楽しむブーケも料理も、味わえば、そのもの自体は無くなってしまいますが、心には残るものなのです。料理は素材65%、調理25%、感性10%、といったのは料理人のアラン・デュカスですが、私が作りたいブーケにも、この言葉がぴたりと一致します。
たとえば、写真のブーケの場合。素材は春の花と葉と枝で、調理、すなわち技術はスパイラルに束ねる事です。そして、感性は季節を感じるアクセントを意味します。この場合、芽吹いたシモツケの枝と若草色のスノーボールがあるからこそ、春の訪れが感じられるブーケが作れるわけです。(2016.3)
【アジアンタムについて】
ギリシア語で「乾いた」というほどの意味に由来するアジアンタムは、春に鉢植えとして出回りますから、この時期には欠かせない存在です。花飾りとしてはもちろんの事、この写真のように、ブーケに加えますと、繊細で明るい緑色が、長い冬から抜け出した私たちの気分を明るくしてくれます。
もっとも、プリニウスの博物誌によれば、アジアンタムは水中に投げ入れても常にその葉は乾いたままだといっているうように、このシダ植物は、切って使いますと数時間で枯れてしまいます。したがって、少し手間ではありますが、必ず根を付けたままで束ねることが欠かせません。
そこで、アジアンタムの鉢植えを仕入れたら、まず鉢から抜いて、土をほぐして水の汚れがなくなるまで根洗いを行います。毎年、この下準備が始まりますと、スズランの日や母の日が近づいてきた事を実感するわけです。
(2016.4)
【キソケイについて】
漢字で黄素馨と書き、英語でイエロージャスミンと呼ばれるキソケイは、ジャスミンの仲間でヒマラヤが原産です。仄かな香りがする常緑の低木として、花市場では、春の終わりから夏に出回りますが、5月頃には、花が咲いたものが入荷して、花屋を喜ばせます。
この写真のように、その小さな黄色は、華やかで優しい雰囲気のバラとの相性が良く、淡いピンク色を引き立ててくれますし、旬のシャクヤクやスイートピーと束ねても素敵です。また、手に入りやすく、使いやすい花材でもあります。
キソケイといえば、数年前の5月下旬、銀閣寺を目指し、傘をさして哲学の道を歩いていたところ、覚えのある香りが漂ってきました。視線を横にすると、川面に垂れたこの黄色が、雨の京都を訪れた私を迎えてくれたのです。それは私の住む札幌では知る事が出来ない、初夏の美しい光景でした。(2016.5)
【アネモネあれこれ】
アネモネといえば、冬の花屋に並ぶ、赤、青、紫、白といった色の花を思い浮かべますが、実のところ、アネモネにはあれこれ仲間がいて、四季を通して見る事ができます。
たとえば、その黄色で春を知らせる福寿草や、ギリシア神話に美少年として登場する赤花のアドニス属も、名前は違えどアネモネです。また、夏から秋の庭を飾るヴァージニアや、秋明菊もその学名はアネモネであることはあまり知られておりません。確かに、葉の感じは異なり、背丈のある花姿ではありますが、花だけを注目しますと、アネモネである事に納得致します。
そして、この写真のアネモネ・カナデンシス。カナデンシスとはカナダ原産というほどの意味で、初夏に咲く可憐なアネモネになります。夏至が近づく頃、森から摘み取ったように、小さなブーケにして楽しむのが私のお気に入りです。(2016.6)
【ローズマリーについて】
ラテン語で「海のしずく」というほどの意味があるように、ローズマリーは波の音が聞こえる範囲で良く育つ常緑の小低木です。プリニウスの時代には既に冠婚葬祭で用いられていたようですから、この植物は昔から私たちにとって身近な存在なのかもしれません。
たとえば現代でも、薬草として民間療法や料理に使う事もありますし、香水の起源でもあるハンガリー水といえば、この植物の蒸留酒です。また、ヤナーチェクの歌劇「イエヌーファ」の舞台演出に、ローズマリーの鉢植え
は欠かせない存在でありましょう。
もっとも、この写真のように、ローズマリーはリースとしても楽しめます。直径が35センチほどの野趣溢れる仕上がりは、壁掛けはもとより、卓上に飾っても素敵です。おひとつ、¥6,480。受注製作になります。(2016.7)
【洋種ヤマゴボウについて】
白と緑のブーケというのは面白いもので、初夏の頃だと涼しく感じていたものが、暑さが増すに連れると大して感じなくなる事があります。そんな時に重宝するのが、洋種ヤマゴボウの存在です。この写真でお気づきのとおり、マゼンタに近い茎の色がどういうわけかブーケの印象をより涼しく見せてくれます。
とりわけ、その小さな白い花序は垂れ下がっているのも大変よろしく、スカビオサや人参の花といった草花はもちろんの事、アジサイとも美しく調和するのは嬉しい限りですし、深いボルドー色のダリアなんぞと束ねますと、夏の洗練されたブーケも出来上がります。
別名、アメリカヤマゴボウともいうように、この花は北アメリカ原産の多年草で、明治時代に日本に伝わった帰化植物です。在来種である食用のヤマゴボウとは別物でその根は食べられません。区別するために洋種と付きます。ちなみに、食用の方はキク科でこちらはヤマゴボウ科です。(2016.8)
【コスモスについて】
コスモスといえば、秋の七草のように万葉の時代から野原に咲いていると想像しがちですが、実際は違っていて、この花はメキシコ原産の植物です。明治後期に伝わった日本では、大正時代にはハイカラな花として流行し、今では秋の花として、私たちをノスタルジックな情緒へと誘い出します。
この写真のように、パニカムやススキといった禾本科植物を加えたブーケは満月と一緒に楽しめるこの季節の定番です。もっとも、キク科で頭状花序のコスモスを束ねる時には、あえて花の高さを揃えない方がより自然な印象に仕上がるというのはここだけの話。
ちなみに、名前の由来である、ギリシア語のコスモス・ビピンナツスには「秩序ある美しい飾り」というほどの意味があります。どうやら、花ではなく羽根状の葉姿の事を指しているようで、名付けたスペインの先人とは何だか友達になれそう。(2016.9)
【アナベルのリース】
アメリカノリノキの園芸種であるアナベルは、以前この欄で述べたように、乾燥した花姿も綺麗ですから、リースとしても楽しめます。壁掛けにしたとしても、卓上に飾ったとしても、その移ろいゆく秋の緑が、部屋の中を華やかに演出してくれる事はいうまでもありません。
この写真のように、環状にしたサンキライの枝を土台として、アナベルを敷き詰めるように絡めれば、自然な雰囲気のリースが出来上がります。とりわけ、近年出回り始めた八重咲きの品種、ヘイズスターバーストだけで作りますと、その星形の小さな装飾花が目を惹く事でありましょう。
アナベルのリースは直径が約30センチほどで、おひとつ、¥4,320。もとより、この花はアジサイの仲間として北米の野山に自生していたわけですから、リースの形はあまり整えず、歪んだドーナツ状に仕上げた方が、その魅力はより一層引き出されます。(2016.10)
【クリスマスのリースその2】
クリスマスは、太陽を励ます生命力の祝祭として、もともとヨーロッパにあった冬至祭が発展したものですから、そのリースは冬でも美しい常緑の植物で作る事がやはり重要です。むろん、毎年私が作っているモミを使ったクリスマスのリースもその定義によりますが、今年はもう一つ、新しいリースを作りました。
環状にしたサンキライの枝を土台として、コニファー、スキミア、野イバラの順に絡めて仕上げたのが、クリスマスのリースその2です。スキミアはモミと並んで、イギリスではクリスマスを象徴する植物ですが、その臙脂色の蕾は、雪の中で一際引き立つ事はいうまでもありません。
ご覧の直径約50センチ(写真)のものがおひとつ、¥18,900。直径約30センチはおひとつ、¥10,800。ご予約のみでの販売です。扉飾りだけではなく、卓上飾りとしてもお楽しみいただけます。(2016.11)
【インスタグラムについて】
皆さんも良くご存知の通り、昨年の夏から、写真共有サービスのインスタグラムを始めました。きっかけは、レッスン内容をお知らせするのに便利だと、知人に勧められたからですが、写真好きの私がすぐに魅せられしまった事は申すまでもありません。
洋の東西を問わず、ひとつのブーケについて、会話ができるというのも面白さの一つで、花屋にとっては21世紀のショーウインドー。1日1枚、投稿しておりますので、これからも引き続きお楽しみください。
さて、おかげさまで、ミニ大通りに根を付けて9年が経ちました。皆さまには感謝の気持ちでいっぱいです。来年もどうぞ宜しくお願い致します。
えっ、そのインスタグラムで、憧れの花屋、クリスチャン・トルチュからの唯一のコメントが、花以外の事だったでしょうって?まあ、そんなことはいいっこなしよ。(2016.12)
ミニ大通の並木から(20015.2〜20015.12)
【ベビーティアーズについて】
属名のソレイロリアは、プラントハンターの名前にちなみますが、私たちに馴染み深い呼び方は、世界一小さな花が咲くことから名付けられた、ベビーティアーズでありましょう。コルシカやサルディーニャといった地中海の島に自生していたこの常緑つる性植物は、その若草色が春の訪れを感じさせてくれます。
この写真のように透明なガラスの器に入れると土の色が引き立って緑がより美しい姿です。また、透明なガラスだからこそ、水やりも、土が乾いたら湿らせれば良く、管理の点からもこれが最適な仕様であることはいうまでもありません。おひとつ、¥830。
ちなみに、イタリアではこの植物の育て方を表すかのごとく「ほったらかす」、イギリスではその緑を称えて「アイリッシュ・モス」というようです。ひとつの植物に様々な名前がある場合、それだけ多くのひとびとに愛されている証でもあります。(2015.2)
【春の訪れ】
香りの良い、異なる3種のピンク色のバラと、ミモザ色、杏色、桃色のチューリップ、桜色のスイートピー、若草色のスノーボール、豆の花、ローズゼラニウムを束ね、ハランを巻いた器に、クラリネビウムの葉を一緒に飾ったこのブーケ。
実は先日、東京で開催された、クリスチャン・トルチュのレッスンで私が製作したものです。ガラスの器に葉を巻いて花器にする事。花と葉を螺旋状に束ねる事。季節感を考え、自然な技術、雰囲気で仕上げる事。その全てがこのブーケに詰まっております。
今から24年前、私はこういった彼の新しいブーケに衝撃を受け、花の世界に引き込まれました。でも、直接指導を受けたわけではない、いわゆる独学なので、いつか本人に自分が作ったブーケを見てもらいたいと思い続けていたわけです。その夢がこの日、やっとかないました。私の心に春が訪れたのです。(2015.3)
【母の日に作るブーケ】
母の日にブーケを作るのは、今年で25回目になります。籠に盛ったフラワーアレンジメントから始まって、給水スポンジを用いずにスパイラルブーケを作るようになり、その器も葉で覆い、器付ブーケの形に落ち着いたのが、今から20年ほど前。
また、そのブーケも、スズランを提案した時代もあれば、蕾のシャクヤクを使って咲かなかったり、アスパラを器に巻いて萎びさせてしまったり、1種類の花と緑だけで寂し過ぎたりと、失敗が無かったとはいえません。
でもそのような経験があったからこそ、母の日に作るブーケは、季節の素材で美しく作るのはもちろんのこと、貰って嬉しくなるようなものに仕上げられるようになりました。もっとも、このようなロゼット咲きのバラであれば、誰が手にしても喜ばれることでしょう。(2015.4)
【シャクヤクについて】
ヨーロッパの花屋がシャクヤクを「5月のバラ」と呼ぶように、5月に入るとこの花はバラ以上の美しさと華やかさで私たちを楽しませてくれます。中でも私のお気に入りは、花弁の多い八重咲きの品種です。たとえば、この写真のようにバラに少し加えて束ねますと、とてもエレガントなブーケに仕上がります。
フランス風にピヴォワンヌといえば、ギリシア神話の医薬神パイアンがその語源であることに気が付きますが、芍薬とも書くように、この花は西洋でも東洋でも古くから薬草として用いられてきました。もっとも、5月の花屋にとっては、人の心をときめかす薬草といったところでしょうか。
ちなみに、退廃する貴族を描いたルキノ・ヴィスコンティの映画「山猫」では、満開のシャクヤクがクローズアップされる場面が出てきます。その花弁がもうすぐ散ってしまう、華やかさと儚さを併せ持つのも、この花の魅力です。
(2015.5)
【デルフィニウムについて】
ギリシア人は蕾の形からイルカを示すデルフィン、イギリス人はヒバリの蹴爪というほどの意味のラークスパー、日本では飛燕草という具合に、この花には様々ないいまわしがありますが、私の感覚にぴたりと一致するのはフランスでの花ことば「野原のよろこび」です。
この写真のように、ヴェロニカ、オルラヤ、グリーンミスト、ワイルドオーツと束ねれば、夏の日差しを浴びた田園が手の中で出来上がります。いい換えてみれば、このシャンペトル風の素朴なブーケそのものが「野原のよろこび」ともいえましょう。
もっとも、農事歴では、郭公が鳴くと種を蒔く季節といいますが、花屋ではデルフィニウムがちょうど出回り始めます。郭公が鳴いたら田園風のブーケの始まりというわけです。ちなみに、この花は秋の草花と組み合わせても、また素敵なブーケに仕上がります。(2015.6)
【亜麻について】
アンデルセンの童話にも「亜麻のこころ」というのがあるように、この花はヨーロッパの北国で昔からリネンや紙を作るべく栽培されてきた植物で、「最上級に有用な」というほどの意味の学名がついています。また、強く成長する植物であることから、病や悪魔を退ける活用の仕方もありました。
ただ、切り花には向いておらず、亜麻を楽しむとすれば、地植えか、この写真のように、苗を柳で編んだ籠などに入れて飾るのが最適です。花色は青が多いのですが宿根だと白も見つかります。もっとも、亜麻色に乾燥させてリースにしても素敵でありましょう。
ちなみに、私の住む北海道でも亜麻は身近な植物で、美しい亜麻畑が広がる当別町では毎年7月に亜麻まつりが開催されています。札幌から自転車で1時間。ツールドフランスをテレビ観戦して気分が高まったら、夜明けとともにさあ出発です。(2015.7)
【リースあれこれ】
プリニウスの時代であれば、リースは今日でいうところのブーケのような存在でありましたから、その組み合わせ方や花材については、乾燥後の事を考える必要があるにせよ、決まりがあるわけではありません。とりわけ、緑の移ろいを楽しむようなものであれば、あれこれできるというわけです。
写真は、最近作りおろした10種類のリースになります。これは作家さんからのご依頼品で、木彫の動物と組みわせて展示する趣向だった事もあり、どれもが一点物でありました。テーマに沿って、ボマルツォのバロック庭園を妄想して仕上げたわけですが、そのほとんどが初めて作ったものばかり。
中にはビギナーズラックな出来栄えがあった、というのはここだけの話として、時には「視界を遮る生い茂った緑」とか「静寂と危険な気配」といったお題をいただき、考えて作るリースもまた新鮮な喜びがございます。
(2015.8)
【アナベルについて】
アジサイの仲間であるアナベルは、北アメリカ原産の落葉低木、アメリカノリノキの園芸種です。手毬状に付けた花房は日本のアジサイに良く似ておりますが、茎は細く葉も薄いので、その違いはすぐにわかるかと思います。私の住む北海道では、夏から秋の庭や公園でも最近はよく見かけるようになりました。
このアナベルの魅力はその花色と花姿です。花色は蕾から咲き進むにつれて、緑から白に、白から再び緑に、そして緑から赤茶へという具合に変化していきます。また、乾燥した花姿も綺麗ですから、リースを作って楽しむというのも素敵な考え方でありましょう。
写真は、ちょうど1年前のレッスンで、八重咲きのアナベル「スターバーストグリーンホワイト」で束ねた田園風のブーケです。たしか、この日は即興でテーブル飾りも実演しました。アイビーとククミスを加えて仕上げた緑のマリアージュ、といった雰囲気で。(2015.9)
【秋バラについて】
バラの切り花が美しい時期は年に2度訪れます。ひとつは、春の終わりから7月にかけ一番花は、大輪なものが多いのが特徴です。そしてもうひとつは、本格的に秋が始まる10月頃で、秋バラという言い方をします。
その特徴といえば、初夏のものと比べて花が一回り小さい分、寒暖差によって色合いがはっきりしている印象です。紅茶でいうところの、セカンドフラッシュ、あるいはオータムナルというわけで、深い味わいがありますから、バロックブーケのように、多種の花材を束ねるには好都合になります。
中でも、私がもっとも手にする品種はシェドゥーブルで、その名の通り、白いバラの中では「傑作」です。微香ではありますが、花弁の多さや、クラッシックな咲き方はとても気品が溢れています。この写真のように、秋の果実や草花と合わせますと生きた17世紀のオランダ絵画が楽しめるわけです。(2015.10)
【ナンキンハゼのリース】
ナンキンハゼは、私の住む北海道では馴染みが薄い樹木の為、美しい新緑や紅葉については写真でしか知りません。けれども、晩秋に市場に僅かながらに出回る、茶色い実が裂けた後の、蝋を含んだ白い種の姿でしたら身近な花材です。
この写真のように、土台にしたウンリュウヤナギに、鳥の巣のように絡めて作るナンキンハゼのリースは、私が作るリースの中で、もっとも長く楽しめることでしょう。なぜなら、葉や実で作るリースとは異なり、この硬質な白い種は乾燥しても大きな変化がなく、四季を通して楽しめるからです。
直径約35センチのナンキンハゼのリースは、おひとつ、¥8,640。数が限られる為、ご予約のみの販売になります。因みに、漢字では南京櫨と書きますが、南京には珍しいもの、小さくて可愛いものという意味があるようです。
(2015.11)
12月【スワッグについて】
スワッグとは、「花綱飾り」というほどの意味で様々な形状がありますが、ここで、ご紹介するのはブーケを逆さかに吊るしたような作り方です。写真は、クリスマス向けに仕上げたものですが、少し立体的なことに気づかれたでしょうか。
実は、これもスパイラルブーケになっていて、枝葉を螺旋状に束ねる事で、自然な雰囲気の壁飾りに仕上がります。おひとつ、¥5,400。
さて、おかげさまで、ミニ大通りに根を付けて8年が経ちました。皆さまには感謝の気持ちでいっぱいです。来年もどうぞ宜しくお願い致します。
えっ、最近のレッスンでは、元ラガーマンとして、花よりもラグビーの話ばかりしてるでしょうって?まあ、そんなことはいいっこなしよ。(2015.12)