2008-12-01 11:30:00

ミニ大通の並木から(2007.12~2008.12)

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【ヒヤシンスの鉢植え】

 

ヨーロッパの夏の窓辺を飾るのがゼラニウムの鉢植えならば、冬の部屋を彩るのがヒヤシンスの鉢植えです。その強い香りは好き嫌いもありますが、水耕栽培で育てた経験のある私たちにとっては、馴染み深い花でありましょう。

 

写真は私がこの時期に作るヒヤシンスの鉢植えです。大山木の葉で包んだ鉢に球根が少し見えるようにヒヤシンスを1本飾り、苔をあしらいます。こうすれば、花がしっかり支えられ、土も隠せるというわけです。

 

もっとも、このようなヒヤシンスの鉢植えはヨーロッパの花屋ではよく見掛けられます。フランスの花の本に「ヒヤシンスは鉢植えに1本が最も美しい」とあったのも納得です。

 

ちなみに、このヒヤシンスの鉢はクリスマスの頃に蕾であれば、新年にちょうど咲いてきます。年末年始のちょっとした贈り物にも最適です。(2007.12)

 

 

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【ろうそくの花器】

 

2001年の春、「花器の提案」というギャラリーの企画展に参加することになって制作したのがろうそくの花器です。パラフィンろうを型に流し固めて作りました。

 

花器の形は大きさの異なる4種の四角柱。花や枝葉を飾る実用性と、積み木のように積み重ねて使うことを考えました。また、規則的な形だと手作りならではの歪みがより明確となります。プラリネのチョコレート、とまではいかなくても、ひとつひとつ微妙に違うのがこの花器の愛らしいところ。

 

もっとも、湯煎に掛けたり、時間と温度によって仕上がりが変わるなど、その作業はチョコレート作りと似てなくもありません。

 

先日、あの時の展示で買ったというお客様から、また作ってほしいと依頼を受けて、再び作り始めたろうそくの花器。注文をいただいたことはもちろんのこと、ずっと使ってもらえていたことが嬉しくて嬉しくて。おひとつ¥1,785(小)からの受注製作ですが、店頭にも今は少しだけ並んでいます。(2008.1)

 

 

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【「四月の花器」を使ったレッスン】

 

写真は先日のレッスン、「四月の花器」を使ったデコレーションで見本に作ったものです。チューリップとヒヤシンスの花に、ネコヤナギ、ロウバイ、ユーカリの枝葉を飾り、アクセントにレモンを添えています。

 

この「四月の花器」に花や枝葉を飾ることで、花と器のバランスや色合わせのコツが良くわかります。もちろん、花器はレッスン時にこちらでお貸ししていますので、「四月の花器」をお持ちでなくても、レッスンにご参加いただけますのでどうぞご安心を。

 

ちなみに、「四月の花器」にはパリの花屋クリスチャン・トルチュが一目見て50個注文したとか、ポンピドゥー・センターのコレクションになっているとか、私も12年間愛用しているといったエピソードがあるわけですが、一度この花器を使ってみれば、さもありなんと納得されることでしょう。(2008.2)

 

 

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【クロッカスの鉢植え】

 

花はその種類によって、切り花やブーケとして楽しめるもの、庭で眺めたり鉢植えとして楽しむべきものがありますが、切り花にはあまり向かないクロッカスの花はまさに後者でありましょう。春が近づくと私は写真のように白いクロッカスを少し小振りのテラコッタの鉢に飾ります。

 

テラコッタとはイタリア語で焼いた土というほどの意味ですから、クロッカスのように背丈のない大地との距離が近い植物には良く似合います。たしかイギリスの花屋ジェーン・パッカーの言葉だったと記憶しますが「テラコッタは土を連想させる」というわけです。

 

クロッカスの花は、ヨーロッパではかつて結婚式に飾る習慣があったように、始まりの象徴でもあります。庭で群生する美しい姿も素敵なものですが、この小さな一鉢が部屋の中に春を運んでくれることでしょう。おひとつ¥660、3月が旬です。(2008.3)

 

 

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【スズランのブーケ】

 

ご存じの方も多いと思いますが、5月1日はスズランの日といって、この日にスズランを手にした人にはその1年、幸せが訪れるといいます。フランスではスズラン売りが街に現れるようで、街で売るスズランを早朝の森で摘む場面がある映画は「クリクリのいた夏」だったでしょうか。

 

写真は今から10年ほど前に作ったスズランのブーケです。ちょうどアジアンタムの葉を添え始めた頃で、現在よりも少し控えめではありますが、スズランのブーケは昔からこんな雰囲気で作っています。もっとも、当時はスズランの日を知る人も少なく、毎年買いに来てくれたのは忍路のパン屋さんぐらいだったでしょうか。

 

さて、今年のスズランのブーケはレッスンに併せて4月29日(火)から店頭に並びます。写真より小さい束なら、おひとつ¥1,890。今年も幸せが届きますように。(2008.4)

 

 

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【ブーケ・マリアローザ】

 

母の日は日本では5月の第2日曜日ですから、私が毎年、母の日に作るブーケはもっぱら薔薇が主役です。北海道で栽培された薔薇がちょうど出回り始める時期でもありますし、申すまでもなく、薔薇はスパイラルブーケに適した花でもあります。

 

また、シャクヤクが「山の薔薇」と呼ばれることや、スノーボールのように学名に薔薇の意味であるロゼウムと付いた花が多くあることからも、薔薇がしばしば美しさの比喩となっていることが判ります。ヨーロッパで母の日に薔薇を贈るのも、そのためかもしれません。

 

表題にあるマリアローザとは、5月にイタリアで3週間開催される自転車ロードレースの勝者が着用するローズ色のジャージ名で、5月の薔薇のブーケを私は勝手にこう呼びます。200人の集団が自然の中を走る自転車ロードレースもまた薔薇のように美しいもの。とまあ今年も私の5月は薔薇でいっぱい!(2008.5)

 

 

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【ブーケ・シャンペトル】

 

オート麦などの禾本科植物が出回り始めると、ブーケ・シャンペトルの登場です。シャンペトルとはフランス語で「田園の」というほどの意味で、パリの花屋で見かけるブーケの一つで、シャスタ・デージーやスカビオサ、リシアンサスといった田園に咲く背丈のある花がよく似合います。

 

また、ブーケは小さくまとめず、抱えるほどの大きさで仕上げた方がより田園の雰囲気になりましょう。もっとも、このブーケには田舎で摘んだ雑草を組み合わせるやり方がありますが、私は様々な経験から、近年は花市場で手に入る栽培されたもので作ることにしております。

 

写真は2年前の夏に作った花嫁のブーケ・シャンペトルです。花の茎もオート麦で包みましたから、麦を100本は使ったでしょうか。きっと花嫁が歩くたびに、カサカサと麦の祝福の声が聞こえたにちがいありません。(2008.6)

 

 

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【ラベンダーのブーケ】

 

夏のテーブル飾りに重宝するこのラベンダーのブーケ。白と緑のブーケしか作っていなかった以前の花屋「レ・フルール」でも作っていましたから、見覚えのある方もいらっしゃるでしょう。誰でも簡単に作れるブーケですから、ここでその作り方をご紹介いたします。

 

材料は、乾燥したラベンダーが400本と、直径5cm、高さ12cm程の円筒型グラスです。作り方は、両面テープを使ってグラスのまわりをラベンダーで覆います。この時、花の高さを揃えることが大切で、しっかりと覆ったら後はラフィアで縛って完成です。

 

もうずいぶん昔、パリの花屋が作っていたのを、見よう見まねで作り始めたこのブーケ。ラフィアを2箇所縛るのが私のゆずれないところ。今年も7月下旬から私が作ったものが店内に並びます。おひとつ,¥4,200。予約も承ります。(2008.7)

 

 

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【日々、ブーケを作り置くこと】

 

ヨーロッパの小さな花屋を見習って、開店以来、日々、ブーケを作り置いています。いわば、見本ともなる本日のブーケといったところですが、小さな花屋にとっては、品揃えや店飾り以上に、出来上がったブーケがその店を知る指標となるからです。

 

たとえば、こういう色合わせをするのかとか、季節の花で勝負しているのかとか、流行にとらわれず田舎風の仕上げなのかとか、夏は殺菌作用があるミントを加えているのか、といったその店ならではの考えも、ひとつのブーケから読みとれます。

 

ちなみに、私が作り置くのは白い花のものと、写真のように季節がもたらす色のもので、この日はモーブ色のリシアンサス(トルコギキョウ)のシャンペトル風ミント添え。イギリスの庭師の服を連想させる上品な夏の色合いは、グラインドボーン音楽祭にも持って行けそうでしょ、皆さん!(2008.8)

 

 

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【果実が入ったブーケ】

 

ハプスブルク家の宮廷画家、アルチンボンドの『四季』は人間の横顔を植物で組み合わせた肖像画です。春は花、夏は禾本科植物や野菜、秋は果実、冬は枯れ枝や常緑樹で描いています。マニエリスム時代の嗜好として、私たちの四季のイメージを追い求めた結果というわけです。

 

9月に入れば、色付き始めた姫リンゴ、木イチゴ、山ブドウ、千成ホオズキ、ククミスの果実が夏の間はちょっと退屈だった店内に、自然の楽しさを思い出させてくれます。そのまま器に飾ってもガラス皿に並べるだけでも絵になる果実は、自然から私たちへの秋の贈り物というわけです。

 

誕生日、発表会、敬老のお祝い、結婚記念日、送別会、招かれた時の手土産、ツール・ド・北海道の表彰式。この時期のブーケに果実が入っていれば、贈られた人はきっと喜ぶに違いありません。(2008.9)

 

 

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【マグノリアのリース】

 

マグノリアの葉を土台に巻き付けて、花や針葉樹を飾ったりするのが、私が唯一作っているリースです。ご覧のように、マグノリアの葉は枝で固定して、試験管は枝に引っ掛け、針葉樹は巻き付けた葉の隙間に差し込みます。つまり、接着剤やワイヤーなど不要で出来上がります。

 

もっとも、リースはプリニウスの時代では贈り花であって、今日でいうブーケのようなものでした。いわばマラソン選手に贈られる月桂樹や夏至祭のツェッペルのように、素材を束ねたり重ねたりして、自然な雰囲気で作る事が大切というわけです。

 

写真は、実際にバレエの発表会に届けたもので、ユーチャリスの花を飾って仕上げました。壁掛けにもテーブル飾りにもなるこのリース。今年は10月下旬より店頭に並びます。ちなみにここでいうマグノリアは大山木。東京の原美術館そばに大きいのがあったなあ。(2008.9)

 

 

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【ネズの入荷】

 

店の近くにある近代美術館のヤドリギが現れるようになれば冬の始まりです。季節の花が少なくなるこれからの季節、ブーケの主役はむしろ常緑樹なのかもしれません。

 

実の成る木蔦やミルト、個性的な蕾を付けるユーカリやスキミア、暖かみを感じるモミやヒバなど、その多くは野山からの収穫で野趣に溢れ、初冬のブーケには欠かせない存在です。花材のジビエとでもいいましょうか。

 

中でも楽しみなのは、イタリアの魔女除けのお守りとして、グリム童話として、ビョークの映画として、あるいは、蒸留酒ジンの香り付けとして私たちに馴染み深い西洋ネズの枝葉が、この時期に少しだけ入荷することです。

 

写真は、房咲き水仙と常緑樹を束ね、フェネスサカモトの音楽を聴きながら、ネズの入荷を待ち望む11月、冬の朝。(2008.11)

 

 

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【ミニ大通りの花屋】

 

静寂な冬の並木。小鳥のさえずりがBGMとなる春の並木。木漏れ日が気持ち良い夏の並木。ヒメリンゴやクルミが賑わう秋の並木。ミニ大通りを眺めながら、ブーケを作り始めて一年が経ちました。

 

はたしてこの一年、「森の中でこっそり咲く花を見つけたような気分」の花屋になっていたのかどうか心配ですが、おかげさまで二度目のクリスマスを迎えることができます。有り難うございました。

 

写真は、エゾ松やネズが店内を包み、キャンドルの灯とクリスマスローズの鉢植えが暗闇に浮かぶ、12月のミニ大通りの花屋です。

 

えっ、ヤドリ木が飾られてないって?そんなこと言いっこなしよ。来年も宜しくお願いいたします。(2008.12)

2008-03-01 11:30:00

ブーケおぼえがき(2007.1~2007.11)

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【おもてなしのブーケ】

今日、新築の家の台所が食卓と向き合うように配置されうようになったのも、人を家に招く機会がふえているからでしょうか。そんな場面で活躍するおもてなしのブーケは、誰もがその季節を感じられるように作っています。すなわち、茶席に花を飾る習慣と一緒で、もてなす時にブーケがあることが大切です。

 

料理人のアラン・パッサールは、食べることは幸福を知ること、といっています。おもてなしもパッサール風にいえば、幸福を知る時間、ということになるのかもしれません。パリのバスティーユにある本屋や札幌の名画座を訪れた時、季節の花に迎えられて心が和むのも、その空間にブーケが飾ってあるからでしょう。

 

さて、来月からワークショップを自宅で行う私としては、気の利いた北欧家具もないここアトリエでのおもてなしに悩む毎日です。季節の花があるのは当たり前。まあ、エスプレッソマシンぐらいは新品にしてと。(2007.1)

 

 

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【スイートピーのブーケ】

 

2月から4月に作るスイートピーのブーケは、ジャスミンやスノーボールの花、ピスタキアの枝葉とともに束ねています。ブーケの組み合わせというのは、新しい花材を知ったりすることで毎年変わってくるものですが、この時期のスイートピーのブーケに関してはもう何年も変わることはありません。

 

もっとも、スイートピーのブーケといえば、初夏のイギリスやフランスで見られるシャクヤクや薔薇の花との組み合わせが一般的です。しかしスイートピーはイタリア・シチリア島が原産の花だと考えた時、同じ熱帯のつる性植物のジャスミンとこんな風に合わせるのも良いかなと思っています。

 

ところで、写真では背景にプラムの木があるからなのかも知れませんが、このブーケは白、薄桃、若草の色どりで、ひなまつりにもぴったりな気がするのは私だけでしょうか。(2007.2)

 

 

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【送別会や発表会のブーケ】

 

送別会や発表会。その主役に贈るブーケは、部屋に飾って楽しむ前に集いの演出としての役割もあります。すなわち「チューリップよ」「この薔薇みたいな花はラナンキュラスね」と一目で束ねた花がわかるブーケほど効果的。

 

でもそれは、ただ同じ花を束ねるだけではありません。花が自然の中で咲いているように、いくつかの枝葉も組み合わせて、花を緑の中で引き立たせます。なぜなら、私たちが一目見てエレガントに感じるブーケほど、束ねた花の種類は少なく、枝葉の種類は多いものだからです。

 

そういえば、昨年のベルリン・フィルのジルヴェスターコンサートで指揮者と3人の歌手に贈られたブーケも、白いチューリップに枝葉を組み合わせたもので、舞台に4つ並んで良い見栄え。私がテレビに向かって拍手していたのはいうまでもありません。(2007.3)

 

 

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【葉で巻いた器のタンバルブーケ】

 

葉で巻いた器に花束を飾ったタンバルブーケを初めて見たのは私が花屋になる前のこと。1998年の雑誌で、たしかクリスチャン・トルチュがやっていたと記憶しています。器を葉で巻く斬新さと、古いフランドル派の絵画のようなやさしい花の姿に、私は一目惚れしてしまったというわけです。

 

タンバルとはフランス語で円筒型というほどの意味で、このブーケは円筒型の器に葉を巻き、丸く作った花束を器にセットして出来上がります。今日、母の日や誕生日などの贈り物にタンバルブーケが選ばれるようになったのも、そのまますぐに飾ることができ、葉の器がどんな場所にも避け込むからなのかもしれません。

 

もっとも、私が12年間作り続けているように、タンバルブーケは作っても楽しいものです。花束を器にセットした時のあの満足感。ワークショップで作った経験がある方なら、この気持ちはおわかりでしょう。(2007.4)

 

 

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【母の日に、アンデルセンのブーケ】

 

アンデルセン童話には「亜麻」や「樅」といった植物の話がいっぱいあって、花好きをおおいに喜ばすわけですが、アンデルセンが私を童話よりも喜ばしたのは、彼がよく自分でブーケを作って人に贈っていたというエピソードです。

 

たぶん19世紀中庸の花屋はまだ庶民が利用できる存在ではなかったからでしょうが、私はこの素敵な話を知ってこうも考えます。贈る人自らが作ったブーケは、花屋がどんなに上手に作ったブーケよりも、贈られた人を驚かし、もっと喜ばすにちがいありません。

 

すなわち、ブーケ作りで一番大切なことは、私がこの場で述べるような理屈ではなく、心を込めて作ることでありますから、贈る人自らが作る、いわばアンデルセンのブーケは、母の日によろしかろうと思います。そういえば、母の日に子供がブーケを作る習慣があるのはルーマニアだったかなあ。(2007.5)

 

 

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【初夏の森のブーケ】

 

小振りの薔薇やベルテッセッン、それに宿根のスイートピーといった小さな花を集め、羊歯などの身地近な葉と組み合わせた花束。これを白樺の樹皮で覆った器に飾るのが初夏の森のブーケです。

 

季節の贈り物として、あるいはピクニックや野外での結婚式のように、太陽の下で食事をする場面に飾れば、あたりの自然とぴったり調和します。すなわち、6月の北海道はヨーロッパのようにそよ風が気持ち良い気候ですから、この時期に作るブーケは青空や草むらが良く似合うのが特徴です。

 

ちなみに、このブーケはサイクリングの途中で立ち寄った札幌のとなり、当別町の夏至祭で、クネッケに鰊のオイル漬けをのせて食べながら、その場に飾られていた白樺のマイストングや小さな花のシェッペルを眺めた時、「あっこの組み合わせ!」と思いつきました。(2007.6)

 

 

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【乾燥ラベンダーのタンバル】

 

「夏にブーケを東京まで送ってくれませんか」という依頼があって提案したのがこのラベンダーのタンバルです。香りと色が次の夏まで楽しめることを考えた結果、北海道砂川市の畑で収穫後すぐに乾燥させた新鮮なラベンダーを使って作っています。

 

タンバルというように、これは約400本のラベンダーを円筒型の器に覆った花飾りです。その扇形は畑のラベンダーの姿を連想させるかもしれません。また、年によって香りや色がワインのように異なるのも、このタンバルの楽しみ方でありましょう。

 

ラベンダーと聞くと、入浴剤にしたローマ人、香水にしたベネディクト派の僧侶、室内で踏んで香りを楽しむプロヴァンスの習慣を思い出す方も多いでしょうが、毎年7月下旬頃にタンンバルを作っている私のことも、みなさん、どうぞお忘れなく。(2007.7)

 

 

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【お供えのブーケ】

 

お供えのブーケは何日か飾ることができるように、冬から春はラナンキュラスの花に常緑樹、夏から秋はリシアンサスの花に香草や実付きの枝葉で作っています。いずれも、その季節に合わせた花もちの良い組み合わせです。

 

たとえば、昨年のお盆に作ったタンバルブーケは、リシアンサス、樫、ピスタキア、ユーカリの花束をハランの器に飾っています。若いドングリが立秋を過ぎた時期の控え目なアクセント。すなわち、花を供えるということは季節をお知らせすることでもあるわけです。

 

ちなみに花束の場合は、供花用の器は高さがあることが多いので、田園風に花丈を少し長めに仕上げています。フランスの花屋でブーケ・シャンペトルと呼ばれているものです。(2007.8)

 

 

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【結婚記念日のブーケ】

 

結婚記念日のブーケは薔薇の花に季節の枝葉、それにアイビーの葉を添えて作っています。白い薔薇には相思相愛、アイビーには結婚の愚意があるからで、愛情を固めるようにブーケはできるだけ丸く、ロマンチックに仕上げています。

 

また、結婚記念日のブーケは自宅に限らず、レストランの予約席に決められた時間に届けることが多いことを考えますと、このブーケは大切な日を過ごす演出の役割もあるのかもしれません。

 

そういえば、昨年まで味わうことができた「釣り竿」という意味がある私のお気に入りのレストランで、給仕がいつも以上に笑顔で迎えてくれた日がありました。その日は予約をして、私は花束を抱えて訪れたから、きっと私の結婚記念日だと思われたにちがいない。(2007.9)

 

 

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【この秋の新しいブーケ】

 

近ごろ、私の住む北海道では、マルセイユ・エロンやコールラビ、イタリア・カボチャなど、これまで輸入品でしか知らなかった果物や野菜が作られるようになりましたが、このことは花き栽培にもいえて、新しい花材が登場しています。

 

たとえば、この秋から新鮮な北海道産が出回るようになったコティナスもそのひとつです。スモークツリーの葉といった方がわかりやすいかもしれませんが、その鳶茶ともいうべき葉色は、薔薇やリシアンサスの花と組み合わせれば、大人しやかな秋のブーケができあがります。

 

実際、コティナスは鮮度が良くないと水が下がりやすいため、使うことを控えていましたから、こういった花材が北海道でも栽培されるようになってきますと、私は何だか追い風を感じずにはいられない、とついつい思ってしまいます。そうだと良いんだけれど。(2007.10)

 

 

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【買う楽しみのブーケ】

ブーケにはいろいろな楽しみ方があります。贈る楽しみ、貰う楽しみ、飾る楽しみ、作る楽しみ。でも、忘れてはならないのは買う楽しみです。すなわち、パン屋のようにわざわざ買いにいく花屋というのは、きっとそこに買う楽しみがあるからにちがいありません。

 

写真はもうずいぶん昔、パリのクリスチャン・トルチュで買った厳冬のブーケです。まだ田舎臭さがあった時代であることが、たっぷり束ねた木蔦からみてとれます。玉村豊男さんが汚れた素焼きの鉢を一目見て「ただものではない」と述べたように、美しいディスプレイが評判だったころでした。

 

この時私は、3週間毎日この店を観察して、ブーケには買う楽しみがあることを知ります。私も含め、この店を訪れる人がみなニッコリとするわけです。クリスチャン・トルチュは20年前の雑誌のインタヴューでこう述べています。「人々は花を買うために花屋に来るのではありません。夢を求めてくるのです」

2007.11

2008-02-01 11:30:00

ブーケおぼえがき(2006.1~2006.12)

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【冬の庭のブーケ】

 

ヴィクトル・ユゴーが19世紀に身近になった温室を「冬の庭」と消したように、今日の私たちはこのガラスの工夫によって、雪が積もる中でもブーケを眺められます。

 

みなさんが真冬のこの時期に手にする春の球根植物や、冬でも温暖な地中海に浮かぶサルディーニャ島に自生する銀梅花(ミルト)の枝葉は冬の庭に欠かせないものです。たとえば、16世紀にフランシス・ベーコンはロンドンにおける理想の庭園として、1月はミルトの温室栽培をすでに掲げていました。

 

さすがは英国人。庭園趣味が昔から宜しく、きっとミルト酒で体を温め述べたに違いありません。そこで私はベーコンに冬の庭のブーケに心づくしの言葉を添えて贈ります。

「冬でも夏のごとく温かなお部屋であっては、あっという間に咲き終わることもございます。ご注意を!」(2006.1)

 

 

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【リボンをひもとくまでのブーケ】

 

ブーケを包装することの意味、豊かさを考えたとき、私が思いつくのがチョコレート屋さんの包装です。ピエール・マルコリーニ、ジャン=ポール・エヴァン、リシャールなどの包装には丈夫な素材、美味しさを引き立たせる色使いがあります。チョコレートは食べてなくなるいわば幸福な時間を過ごす繊細なものですから、中身を守る包装なわけです。 

 

私が自然の色を持つクラフト紙と薄用紙でブーケを包装していますのも、これと同じ意味があります。自然の色とは、素材そのままの色のことです。日本の伝統的な住まい、数寄屋、書院の室内で花が良く映えますのも、素材そのままの色の建築だからです。

 

そしてブーケの包装で大事なことがもう一つ。以前は嫌っていたリボンを8年ほど前から使い始めました。どうやら、リボンをひもとき包みを開ける作業は、贈られた人の密かな楽しみでもあるようです。(2006.2)

 

 

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[誕生日のブーケ]

 

誕生日のブーケは、自分の誕生日に贈られるものであったり、誰かの誕生日に贈るものであったり、自分で自分に贈ることであったりします。すなわち、自分の誕生日に花があることは誰もが嬉しいことであり、誕生日のブーケの良いところは、1年に1度、その季節が祝ってくれることかもしれません。

 

春なら、ラナンキュラスとスノーボールでみずみずしく、夏なら、薔薇とミントの良い香りが、秋なら、薔薇と果実の豊かさで、冬ならラナンキュラスと常緑樹が温かく祝います。もっとも、新しい生命の始まりである出産祝いなら、春の花か蕾の花の出番です。

 

こころみに、3月生まれの私も、ラナンキュラスとスノーボールで誕生日のブーケを束ねてみたところ、気分も春めいて参りました。誕生日のブーケは自分で作っても嬉しいものです。(2006.3)

 

 

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【オランダからの春のブーケ】

 

じつのところクリスチャン・トルチュは双子でもうひとりはリヨンで花屋をやっている!なんて4月の嘘にだまされた後は、ちょっと、ご近所の花屋を覗いてみてください。日本の手鞠花によく似た若草色の花、スノーボールがきっと並んでいるはずです。

 

スノーボールは苺と同じく、オランダで生まれ世界に広まった園芸植物で、花の絵の宝庫、17世紀オランダの静物画にも登場します。若草色は、日本では中世より春を告げる色、ヨーロッパではよみがえる春の色ですから、春のブーケには欠かせない花というわけです。

 

ちなみに、属名ビバーナムは、ラテン語で木というほどの意味で、スノーボールはY字を積み重ねた樹形をしています。そういえば、ブルーノ・ムナーリの美しい絵本には、Y字を積み重ねて木を描くエスプリがありましたっけね。(2006.4)

 

 

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【母の日のブーケ】

 

母の日のブーケは、5月の第2日曜に家族が一つになる贈り物。薔薇、スノーボールの花、時には豆の花も用いて作っています。薔薇を用いますのは、フランス、フィンランドなど多くの国で母の日に薔薇を贈る習慣があるからですが、理由はそればかりではありません。

 

たとえば、カーネーションはブーケにするより、アメリカのエピソードのごとく1輪で飾る方が美しいですし、百合などの大きく豪華な花は路線が違いますし、鉄線や蘭だとちょっと趣味的ですし、枯れないのも困ります。やはり、贈られて喜ばれる花のチャンピオン!5月は薔薇の季節というわけです。

 

母の日といえば、料理研究家の辰巳芳子さんは母の日の献立に、5月はピースの季節、とピース御飯を紹介しています。母の日は本来、家族の平和を願った母たちの運動でしたから、母の日にピース御飯をいただきますと、もう一つの味わいを感じるものです。(2006.5)

 

 

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【夏至祭のブーケ】

 

トーベ・ヤンソンの名高い「ムーミン」に出てくるニョロニョロを、覚えていらっしゃるでしょうか。スナフキンが蒔いた白い種から、まるでイブ・タンギーのシュールレアルな絵画のように現れ、自ら放電する不思議な生物ですが、このニョロニョロが生まれる時こそ、夏至祭の前夜です。

 

夏至祭は、一年で一番強まる夏至の太陽に感謝して火を灯す、北欧で盛んな夏まつり。前夜には薬草摘みの習慣があり、強い太陽を浴びた夏至の薬草には特別な効能が備わるとされています。つまり、ニョロニョロは、夏至を意味したトロール(妖精)というわけです。

 

最近、夏至祭はキャンドル・ナイトと姿を少し変えて、私たちに身近になってきましたが、この日のブーケは、フィンランドの夏至祭の花である小さな薔薇を用いて作っています。むろん、シダやヨモギなどの薬草を加えて、伝統的な雰囲気に仕上げても良いでしょう。(2006.6)

 

 

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【パリのブーケ】

 

パリのブーケといえば、みなさんは花の頭が揃った丸い形のブーケをまず思い出すことでしょう。すなわち、今から30年ほど前にパリの花屋が復活させた、茎を螺旋状に束ねて作るヴィクトリア朝時代の様式。スパイラルブーケとも呼ばれていますね。

 

しかし、私をして言わしむれば、組み合わせが作りだす簡潔な季節感こそ、パリのブーケです。夏ならば、薔薇にミント、フランボワーズをつつましく添えて出来上がり。少ない種類で季節と主役をはっきりさせる、いわば、日本の生け花や茶花にも見られる考え方が、パリのブーケの本質だと私は思うわけです。

 

ところで、私が初めて見たパリのブーケは、自転車ロードレース、ツール・ド・フランスの表彰式。勝者となったミゲール・インデュラインが夏のシャンゼリゼ大通りで掲げたものでした。──今年はジルベルト・シモーニに掲げてほしい。私のこの夏の願い事。(2006.7)

 

 

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【真夏のブーケ】

 

真夏のブーケは、リシアンサスの花に、ジャスミンの葉、それにミントを必ず用いて作っています。前にも述べたように、ミントといったハーブには、夏の暑いさかりに花が萎れる要因の一つ、水中のバクテリアを抑える働きがあるからです。

 

考えてみれば、ハーブは人間にとっても夏の暑いさかりの人気者。たとえば、ヨーロッパの教会では、9種類のハーブを清めて病気を癒し健康を守るという中世からの習慣がありますし、私が夏まけ対策としていただくモロッコの紅茶、ベルギーのビール、イギリスの鰻料理にもハーブは欠かせない存在です。

 

そういえば、フランスのハーブ村として名高いミリーラフォレ村には、コクトーのよく知られた礼拝堂壁画があります。あの壁画で、いわけない猫がミントのそばで見上げているのは、リンドウ科のゲンチアナというハーブ。リシアンサスの仲間です。(2006.8)

 

 

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【緑のブーケ】

 

料理人が初めて出会った美味しい料理に対して、その内容に興味をいだくように、私もまた、初めて見るブーケに対して、その組み合わせに興味をいだくことがあります。中でも特別の感心をいだくのが緑だけの組み合わせ。贈り物としては一般的でないにせよ、私がこの緑のブーケに引き込まれることはしばしば。

 

フランスの花屋が作った夏の草花による緑のブーケ。同じ土地で育つもの同士を組み合わせることの大切さを実感します。ノルウェーの花屋が作った様々な針葉樹と常緑樹による緑のブーケ。四季が持つ力強さと雪の白との美しい対比が今でも心に残ります。

 

詩人の春山行夫さんによれば、フランスで緑のブーケは植物学の寓意だそうで、なるほど、緑のブーケを眺めておりますと、葉の濃淡や質感の違いが良く見えるものです。ちなみに、パリには緑のブーケを得意とする「緑の葉」という名前の花屋があります。(2006.9)

 

 

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【深まる秋のブーケ】

 

私の住んでいる札幌の、秋の移ろいはまあ早いもので、紅葉はわずかの間にしか楽しむことができません。それはブーケにもいえて、ミラビフローラの花と紅葉した金葉小手毬、スキミアの枝葉を組み合わせた深まる秋のブーケが作れるのも2週間ほどでしょうか。

 

もっとも、紅葉した枝葉はすぐに落葉するか乾燥してしまうので、私はブーケに取り入れないようにしているのですが、この金葉小手毬はわりと丈夫なこともあって、数年前から用いるようになりました。やはり、秋の日本人の感性に紅葉はぴたりと合致するものです。

 

深まる秋に、ルイ14世が葡萄やミラベルの果実、ダリアの花を菜園や庭園で眺めていた頃、松尾芭蕉は紅葉を眺めていたことを考えれば、以前、私はフランスの花屋が作るブーケを手本に秋にはダリアとアジサイばかり束ねていたことが、今はちょっとはずかしい。(2006.10)

 

 

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【初冬のブーケ】

アイルランドの歌手、エンヤの名盤『ケルト』をBGMにして、薔薇、リシアンサス、ラナンキュラスの花に、白妙菊の葉と木蔦、銀梅花などの常緑樹を束ねる初冬のブーケは、ベロアのような白妙菊の銀色の葉や、革質で光沢がある常緑の葉が、セーターや外套のごとく、寒い季節に似合う花束です。

 

また、ブーケに付ける器も羅紗に似た手触りの針葉樹や、革質の月桂樹、スエード調の大山木の葉で覆い、冬のはじめに暖かい感じに仕上げます。

 

さて、11月11日はヨーロッパのあちこちで大人たちは今年収穫したワインを最初に味わい、子供たちは行灯をかざし歌い歩く聖マルチン祭。冬のはじまりです。外套に身を包み白馬に乗って冬を告げる聖マルチンのように、私は銀色の葉を用いたブーケで、今年も皆さんに冬のはじまりをお知らせしています。

(2006.11)

 

 

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【タンバルブーケを囲んで】

 

バロック音楽が新たな解釈で演奏されるように、歳暮に作るブーケも新たな解釈で作っています。クリスマス、お正月と家族が集う季節でもありますから、誰もが知る薔薇やクリスマスローズの花に、松、柊、銀梅花、白妙菊、杜松とプリニウスの時代から縁起が良いとされてきた枝葉を束ねています。

 

また、タンバルブーケになりますと、これも長寿や幸運の寓意がある樅の枝葉で覆った器で、ちょっと豪華な雰囲気です。そして12月は、この器付き花束を多く作っています。届いてそのまますぐに飾れることが、師走に喜ばれる贈り方なのかもしれません。

 

そのタンバルブーケを囲んで、この一年をつつがなく過ごせたことに感謝する祝いの席。ご馳走をいただく特別な時に、花もしつらえますと、ジェズアルドの歌曲のように、卓上がさまざまな願いで彩られることでしょう。(2006.12)

2008-01-01 11:30:00

ブーケおぼえがき(2004.12~2005.12)

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[クリスマスのブーケ]

 

もう何年もの間、クリスマスといえば、薔薇、ラナンキュラス、アネモネの花に、樅、西洋ネズ、木蔦、銀梅花(ミルト)、柊(イレックス)、椿といった常緑樹を用いたブーケを作っていますが、とりわけ樅と柊には誰もがクリスマスを感じることでしょう。

 

クリスマスは、常緑樹を飾って太陽を励ます、もともとヨーロッパにあった冬至祭が発展したものですから、冬でも枯れない常緑樹の濃い緑色の葉を寒い冬の夜に眺めていると、不思議と気持ちが暖かくなります。

 

ただ、この常緑樹の濃い緑色の葉を用いたブーケは、とかく印象が暗く重くなりがちです。以前は季節を少し意識し過ぎていたせいもあってか、冬のブーケは暗く重くて当然と思っていたのですが、最近は「あれはやはり寂し過ぎた」と考えを改めて、冬であっても若草色のスノーボールの花を加えることにしました。(2004.12)             

 

 

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[厳冬のブーケ]

 

ヨーロッパの民間習俗では、大寒を過ぎた1月25日が冬の折り返しで、この日から、雪の下に眠る植物が春に向けた活動を始めると語り伝えられていますが、厳冬の季節、雪国の人々はスキーなどして雪と戯れる一方で近づく春にとかく敏感なのです。

 

たとえば園芸家は、雪の積もった庭を眺めながらも、今年の庭つくりの準備をしていますし、古くからゲルマン人は、仮面行事によって冬を追い払い、春を近づけようとしています。冬はもうこりごりで、春への強い思いがあるからでしょう。

 

ですから、厳冬の季節は、ラナンキュラス、アネモネ、スノーボールの春の花に、木蔦、銀梅花、月桂樹、ピスタキアといった枝葉を用いたブーケを作っています。私の場合は、外の雪景色を眺めながら、春のブーケを作り始めているのです。(2005.1)      

 

 

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[ヴァレンタインデーのブーケ]

 

今から10年ばかり前、パリの花屋「クリスチャン・トルチュ」の陳列窓がチューリップで埋め尽くされていたのは、ヴァレンタインデーが近づいた頃で、フランス人がこの花に「恋の告白」を意味付けていることを知ったのは、それからずっと後のことでした。

 

もっとも、古代のペルシア人が、チューリップを持って求婚をしていた史実もありますから、この花はヴァレンタインデーにぴったりでありましょう!

 

ヴァレンタインデーのブーケは、チューリップ、スノーボールの花に、木蔦、銀梅花、ピスタキアといった枝葉を用いて作っていますが、チューリップは、多種多様ありますが、マニエリスムの絵画に見られるような、量感がある八重咲き、パロット咲きを選びます。

 

というもの、チューリップの茎は良く伸びますから、数日後、ブーケは技巧を凝らした絵画のような趣になるからです。(2005.2)

 

 

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[春のブーケ]

 

春のブーケには、ラナンキュラス、ジャスミン、スノーボールの花に、うら若いこぶし、ピスタキア、木蔦といった枝葉など、ペルシアや中国の植物を用いて作っていますのも、春の花の名前や春の行事には、中国を経て、遠くペルシアがこっそり隠れているからなのです。ちょっと探してみましょう。

 

名前においては、ラナンキュラスが英語では「ペルシアのキンポウゲ」、ジャスミンやライラックの名はペルシア語から生まれていますし、桃の学名は「ペルシアのプルヌス」で、英語のピーチは「ペルシア」が語源です。

 

行事においては、東大寺二月堂のお水取りが、古代ペルシア文化と浅からぬ関係があることは、みなさんもよく御存じでしょうし、桃の節句、彼岸会、花見が見てとれるイランの正月は、おもしろいことに、ペルシアの時代から春分の日に始まるのでした。(2005.3)

 

 

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[スズラン祭のブーケ]

 

その愛しい姿や香りの他にも、スズランのブーケの良いところは、スズランが、あらゆる神話的、宗教的伝統を持たない花であることです。つまりスズランのブーケは誰にでも贈ることができるのです。

 

また、スズランのブーケは誰にでも簡単に作ることができます。スズランが10本でもあれば、花と葉を分けた後、花だけをまず束ねてから、周りに葉を添えればブーケは完成しますし、これにアジアンタムの葉を添えれば、スズランが森を思い出したかのように生き生きしてきますから不思議です。

 

もっともスズランは有毒植物なので、とかく敬遠する人もいるでしょう。でもこの花の一番の毒は「5月1日のスズラン祭にスズランを贈りあって幸せになろう」と毎年言い続けている私のように、人々を虜にしてしまうことなのです。(2005.4)

 

 

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[初夏のブーケ]

 

毎年、5月の半ば頃から6月にかけて、初夏の季節には、薔薇、クレマチス、宿根スイートピーの花に、ミント、リョウブといった枝葉を用いたブーケを作っています。主役となる薔薇の花は中央に数輪まとめて、あたかも庭や野山で摘んだ雰囲気です。

 

といいますのも、この時期、私の住んでいる札幌は、ライラックや林檎、ニセアカシアの花が街に薫り、庭のテラスで食事をしたり、野山に出かけるのにはぴったりの気候になるからです。一年でもっとも美しい季節といっても良いでしょう!

 

ところで、札幌と同じように、スウェーデンとフランスも、5月の半ばから太陽の調子が良くなりますが、驚いたことに、母の日は5月の最終日曜日です。それぞれ、自然と遊ぶことが上手な国ですから、もしかすると、母の日を初夏の美しい季節の日曜日に、わざわざ選んだのかもしれません。(2005.5)

 

 

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[花嫁のブーケ]

 

花嫁のブーケ作りで大切なことは、まず花嫁にぴったりの花を見つけ出すことです。これまでにも、春の花嫁にはアジアンタムの葉を添えたスズランを、夏と秋の花嫁にはミントや果実を加えた薔薇を、冬の花嫁にはジャスミンやスノーボールと一緒のラナンキュラスを見つけ出しています。

 

それからもう一つ、結婚の象徴でもあるアイビー(木蔦)を用いること、これも大切です。私の場合、アイビーは束ねた花の茎をたっぷり覆う用い方をしています。こうすれば束ねた花がしっかり保護されるとともに、優雅な装飾として仕上がるからです。

 

たとえば、ポネルやゼッフィレッリ演出の歌劇を御ご覧になったことがある方なら、アイビーの装飾がいかに優雅であるかおわかりでしょう。アイビーはギリシャ神話で酒神ディオニューソスですから、私たちを優雅な気分に酔わすことも大好きなのです。(2005.6)

 

 

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[夏のブーケ]

 

夏のブーケは、もっぱら、プレーリーの、いわば乾燥した夏の草原の花であるリシアンサス(トルコ桔梗)に、ミントの葉を用いて作っています。たとえ暑い日ざかりであっても、この組み合わせのブーケは、香りとともに長く楽しむことができるからです。

 

実際、リシアンサスには香りがありませんが、ミントの清涼感ある良い香りは、水替えの際に、あるいは夕涼みの際に、気持ち良く漂ってきます。しかもミントには殺菌作用があって、花器の水が清潔に保たれますから、まさに夏のブーケにおいて、ミントは英仏の花言葉通り「美徳」となるわけです。

 

もっとも、大きな夏のブーケを作る場合には、さらに銀梅花の枝葉や禾本科植物を加えています。プレーリー草原に近づく趣です。しかし、どういうわけか、どこを調べても、プレーリーに咲くリシアンサスの姿は未だに見つからないので、私はその原産風景をゆかしく思っています。(2005.7)

 

 

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[私のなかのクリスチャン・トルチュ]

 

私が最も好きな、パリ6区オデオン交差点に面した花屋クリスチャン・トルチュが、どうやらその役目を20年で終えるらしい。むろん、好きな花屋がなくなるのは寂しい気持ちですが、誤解を恐れずに申せば「やっと終わったか」という気持ちがあります。

 

クリスチャン・トルチュを知ったのは1989年頃の雑誌の紹介記事です。1種類の白い花に幾種もの葉が混ざりあったあスパイラルブーケはもとより、すべてにおいて衝撃でした。 

ところが残念なことに、私を含め世界中の花好きが彼の店に押しかけてしまったことで、店の雰囲気もスタッフが作るブーケの雰囲気もこの20年で随分と変わりました。たとえば、カール・フュシュが今でもしっかり受け継いでいる、あの洗練された田舎臭い雰囲気は1998年頃から薄れていたのです。

 

でも私は思います。クリスチャン・トルチュは、きっと静かな場所で、今度は小さな花屋を始めるにちがいない。なぜなら彼が作るブーケだけはこの20年、変わっていないのですから。(2005.8)

 

 

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[薔薇のブーケ]

 

薔薇といえば、「イギリスのオースチン作出の薔薇が庭にあるわ」「ベルギーの舞踊集団ローザスのダンスが好きでね」「イタリアの自転車競技で優勝ジャージの名はマリア・ローザさ」「ブルガリア旅行のお土産で薔薇水をもらったの」とまあヨーロッパの芸術文化と結び付くイメージがあります。

 

これは、薔薇が古代ローマからシンボリズムの王者であり、とりわけ中世には、聖母マリアの花となったからでしょう。でも私なんぞはやっぱり原産地と結び付いて、薔薇といえば、イランの古都イスパハーンやシラーズで咲く中近東の薔薇を思い浮かべます。

 

夏から秋にかけての薔薇のブーケは、フランボワーズの果実やミントの葉を束ねたエキゾティックな雰囲気のものです。そういえば、フランスのパティシエ、ピエール・エルメの菓子「イスパハーン」も、フランボワーズの果実を挟んだマカロンの上に薔薇の花びらが飾られていましたね。(2005.9)

 

 

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[秋のブーケ]

 

さて、秋のブーケについて書くのはむずかしい。組み合わせがその年の気候によりけりだからで、薔薇、リシアンサス、スキミアの花に、ミルト、ピスタキアの枝葉を用いて作る他にも、気候が良ければ、コスモスの花に、色づいた実や枝葉を用いて作ることだってあります。

 

といいますのも、私は季節ごとに田舎や峠を自転車で巡っているのですが、秋風の中の田舎の主役はやはり、ダリア、コスモス、果樹であり、峠の主役はむろん、紅葉なのです。

 

なかでも、コスモスは秋の私たちの心にぴったりくる花でしょう。巌谷國士さんは紀行文で、グラナダのヘネラリーフェ離宮でコスモスを見て、どこか懐かしさを感じだと述べられておりましたが、私もペダルを踏みながら楚々たるこの花を田舎で見ていると思わずこう叫びたくなります。「この花がダリアとともにメキシコ生まれだなんて!」(2005.10)

 

 

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[冬のブーケ]

 

申すまでもなく、白い花、枝葉、実、銀色の葉は、四季をわかず、私が作るブーケの基本要素になりますが、これらの花材が豊富に集まる11月から4月といえば、アイルランドやウェールズに住むケルト民族の冬とも一致していて、私は何だか嬉しく思っています。

 

ケルト民族のおもしろさに私が初めて目を開かされたのは、一年を冬と夏の二季に考えるケルト暦を知ってからです。厳しい気候が春や秋を隠してしまったのでしょう。落葉した立ち木にヤドリギが現れる11月に冬が始まり、スズランが萌えでる5月に夏が始まります。

 

そして特筆すべきは、11月が新しい年の始まりでもあることです。もとより、ハロウィーンはケルト暦の大晦日でありましたから、私の場合、おとなしやかにこの一年のブーケを回顧して、新たなブーケを迎える準備に勤しむ日というのは、ちと大げさな話。(2005.11)

 

 

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[新年のブーケ]

 

古くからの習慣が薄れてきたとしても、松を飾って新年を迎えるご家庭はまだ多いことでしょう。松は生命の誕生を祝う木でもありますから、日本だけに限らず、西洋の人たちも冬至の頃から松を飾り続けて新年を迎えます。降誕を祝い、松に蝋燭を飾り付けたのが、そう、クリスマスツリーの始まりでした。

 

事実、松は日本の風景の中だけではありません。西洋の松も、私などには間接的に親しいものとなっています。たとえば、北欧やギリシャの神話にも、タルコフスキーの映画にも象徴的に登場しますし、レスピーギはイタリアに松が生えていることを交響詩「ローマの松」で私たちに教えてくれました。

 

もとより、私が新年のブーケに用いる松は東洋種より手触りが柔らかい西洋種です。あらずもがなの説明をしておけば、料理の盛り付けでパセリとイタリアンパセリの違いくらい、西洋種はブーケをやさしくしてくれます。(2005.12)