2010-12-01 11:30:00

ミニ大通の並木から 2010

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【マグノリアのボール】

 

フランスのインテリア雑誌や家具屋の目録をパラパラめくっていると、苔や月桂樹の葉、レンズ豆などで出来たボール型のオブジェがしばしば登場することがあります。その中で私が膝を打ってすぐに作りたい、と思ったのがこのマグノリアのボールです。

 

ポリスチレンの土台に葉を枝で刺して大胆に作られた姿を初めて見た時、まるで森の中から枝葉を拾ってきて、さっと仕上げたような印象を受けました。すなわち、良いブーケや花飾りがそうであるように、見た目がさりげなく自然であることは、オブジェにおいても人を魅了するというわけです。

 

マグノリアのボールはおひとつ、直径20センチ(写真)が¥3,675、直径15センチが¥2,100。そういえば、ユネスコ本部やプラネタリウムなど、パリの街では大きな球体が目に付きます。フランス人は球体が好きなのかなあ。(2010.1)

 

 

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【スノードロップの鉢植え】

 

自宅用として、あるいはちょっとした贈り物として、店に並ぶ季節の小さな鉢植え。今月はスノードロップの登場です。透明なガラス器に3球のグループで植えて土の表面を苔で覆い、まだ雪が残る早春の庭といった雰囲気で仕上げています。

 

もっとも、神話の世界でスノードロップは冬から春への転換の象徴として、天使が雪のひとひらを掴んで息を吹き掛け誕生した花でありましたから、この鉢植えは窓辺に飾って、雪景色とともに眺めるのが一番でありましょう。おひとつ、¥1,050。

 

さて、2月2日はキャンドルマス。冬の終わりを告げるクリスマス最後のカトリックのお祭りですが、私が以前から特別な関心をいだいているのは、たくさんのろうそくの灯だけではありません。教会の祭壇にスノードロップを撒き散らす伝統的な花飾りの習慣です。やってみたい!(2010.2)

 

 

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【花のポストカード】

 

ミニ大通りの並木と対話しながら、店に置く花や枝葉の種類を変えているように、壁際に並ぶ花のポストカードも、撮りためているフィルム写真の中から、ブーケや鉢植え、花飾りなどを季節に合わせて選んでおります。

 

これらの写真は、後で参考にするために10年ほど前から撮っている、いわば私の日記みたいなもの。花は料理でいうルセットのような記録を残しても、再び同じものができるとは限りませんから、常に写真で過去の良い感覚を確認しているというわけです。

 

もっとも、花のポストカードは「ああ、この人が作る春のブーケはチューリップやラナンキュラスをスノーボールと組み合わせる、17世紀のフランドルの画家たちが好みそうな雰囲気だわ」といった花選びの見本にもなりましょう。1枚150円。ちなみにこの写真は2001年の春のブーケから。(2010.3) 

 

 

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【ブーケの宅配】

 

「30cm四方のダンボール箱に、ゼリーで保水した花束を器に飾り、丸めた新聞紙を薄葉紙でくるんだボール状のクッションを箱の中に敷き詰めて固定。天地無用と冷蔵のシールを貼って準備完了!」とまあこんな具合に、札幌市外に花をお届けする場合は器付ブーケを宅配便で発送しております。

 

考えてみれば、スパイラルブーケはもとより花を持ち運びやすくするために生まれた花束ですから、移動で花が崩れるという心配はありません。また、器に入れることで花束を安定した状態で運べますから、器付ブーケが宅配にはぴったりだというわけです。

 

もっとも、気に入ったブーケだからこそ、たとえ遠くであっても届けてほしいということでありますから、いつも通りのものを発送するということが大切でありましょう。なお、花の鮮度を考えて、宅配は翌日到着地域に限ります。予めご了承ください。(2010.4)

 

 

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【シャクヤクのブーケ】

 

シャクヤクはフランスで「聖母のバラ」、イタリアやスペインで「山のバラ」と呼ばれるように、バラのように美しい花として5月の私たちを幸せにしてくれますが、この花をブーケにするとなれば、フランスの花屋がしあわせの印と呼ぶ、少し開きかけの状態で束ねたいところ。

 

そして、伝統的にシレーヌやアルケミラ・モリスと合わせたり、現代的にラズベリーの枝葉を添えてみたり、写真のようにキソケイで庭から摘んだように仕上げれば、その豪華な花姿が良くひき立つというもの。

 

もっとも、最近は切り花の季節感が失われてきていて輸入のシャクヤクが冬に出回ることもありますが、たとえば、毎年5月に開催される自転車ロードレース「ジロ・ディ・イタリア」でのシモーニやクネゴのように、この花もやはり5月の光が良く似合います。(2010.5)

 

 

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【夏のミニ大通り】

 

ミニ大通りは、植物園から道路を挟んで西におよそ900mほどの並木道です。中央分離帯が幅のある遊歩道になっていて、春は桜が楽しめたりしますが、店のある西17丁目には桜がありません。しかし、クルミやドングリ、姫リンゴ、サクランボといった果樹があって、夏から秋は賑やかな並木となります。

 

一般に札幌の街路樹は、その気候風土から強選定をするため、高さが抑えられ枝振りも暴れ、夏でも緑が少ないといわれますが、ミニ大通りの樹木は大きく育っているため、店の前の建物が隠れるほど緑の密度が高く、夏は森の中といったところ。

 

6月ともなれば、店のドアを開け放し、京都は東山のとある宿のごとく、木々の葉音や鳥の鳴き声を店のBGMにするのが私の夏の楽しみです。ちょっと自慢をすれば、風が抜ける店内でブーケが作られる花屋はそんなにないと思うんだなあ。(2010.6)

 

 

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【アジサイを夏のリビングに】

 

以前はオランダから手に入れるしかなかった特別に栽培されているアジサイも、最近は北海道でも作られるようになり、この季節に欠かせない存在になりました。考えてみれば、白やライム色のアジサイは隣家の庭でもそう見掛けませんから、これは夏の贅沢品というわけです。

 

ただ私は、最近流行の、アジサイをバラなんかと丸くまとめるロマンチックなブーケには何だか興味がありません。やはり写真のように、ミントやフランボワーズ、スモークグラスといった夏のアクセントに、その質感が調和するモルセラを加えたバロック風な仕上げが好ましいところ。

 

もっとも、アジサイを夏のリビングに飾れば、それだけで、ロワ-ル地方の宿にいるようなバカンス気分に浸れます。後はロゼワインを片手に、テレビのチャンネルをツール・ド・フランスに合わせたりしてね。(2010.7)

 

 

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【薔薇の香りを楽しんで】

 

花屋の薔薇といえば、香りが弱いという印象がありますが、夏の間はイングリッシュローズのように、香り豊かな品種の薔薇を楽しむことができます。

 

たとえば、象牙色のフェアー・ビアンカは、オールドローズやミルラの香りです。房咲きですから、ブーケはもちろんのこと、1枝を部屋に飾るだけでもロマンチックな気分に浸れます。

 

それから、シャクヤク咲きで牡丹色のイブピアッチェ。まるでローズガーデンに迷いこんだような強い香りがあります。写真のように、山ゴボウや、八重咲きのコスモス、フランボワーズなんかと田舎風に束ねれば、もし夏のピクニックにブーケを持って行くことになった時にも、ぴったりでありましょう。

 

もとより、薔薇は西アジアの暑い地域が原産の花ですから、夏こそ薔薇の香りを楽しんで。(2010.8)

 

 

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【シンフォリカルポス】

 

舌を噛みそうな名前のシンフォリカルポスは秋のブーケや花飾りに、ちょっとした田舎の趣を与えてくれます。考えてみれば、花屋に出回るこういった愛らしい小さな白い実を持つものは他にハゼやペルネチアの鉢植えぐらいかもしれません。

 

もっとも、この白い実はバラやリシアンサスと喜んで混ざり合ってくれますが、とりわけ、くすんだ緑色のアジサイと束ねますと秋の田舎が感じられます。ちょっとだけ束ねて、自宅用、あるいは秋の手土産としても素敵ですから、きっといつの日かこの組み合わせが流行すると信じて、毎年9月には写真のように店内に並んでいるというわけです。

 

シンフォリカルポスといえば、岩見沢市の宝水ワイナリーからローズガーデンに抜ける道路沿いの田舎で、秋の白い光を浴びている姿を目にすることができます。そう、この道は私の秋のサイクリングコース!(2010.9)

 

 

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【秋に作る蘭の鉢植え】

 

たとえば、ファレノプシスにせよ、パフィオ・ペディルムにせよ、バンダにせよ、蘭と聞くと、皆さんの中には、季節を問わずホテルやちょっと洒落た感じの現代風の花屋に並んだ、コスモポリタンな花と思われる方も多いかも知れません。

 

あるいは、19世紀フランスの作家ユイスマンスが小説に書いているように、暖房のガラスの宮殿に住む高貴な花、造花を真似た自然な花という印象もありましょう。

 

私もそんなイメージがありましたから、写真のような蘭の鉢植えをパリの花屋で知った時、ずいぶん感心しました。ネコヤナギの枝、マグノリアの葉を加えるだけで、こんな素敵なものができるなんてね!

 

秋に作る蘭の鉢植えはおひとつ¥4,200。ネコヤナギとマグノリアが出回る10月の終わりに今年も登場します。(2010.10)

 

 

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【モミのガーランド】

 

申すまでもなく、クリスマスは12月25日だけを突然お祝いするわけではありません。シュトレンなんぞを少しずつ食べながら、気分を盛り上げていくものです。然れば、花屋も11月はリースやクランツを作るなど、クリスマスの準備が始まります。

 

私の準備はといいますと、良いヤドリギを探して、マグノリアのボールを用意して、ヒヤシンスの球根を集めて、そしてこのモミのガーランドを作るというわけです。モミの枝を手のひらほどに切り分けて、リトアニア産の細く目立たない麻紐で長さ70センチほどに束ねて仕上げます。

 

もっとも、これはアドヴェントを知らせる印でもありますから、1ヶ月ほど楽しめることも大切です。おひとつ、¥2,100。木蔦やイレックスが溢れ、ジュニパーの香りが漂い、店内が冬の森となる今月中旬に登場いたします。(2010.11)

 

 

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【クリスマスのリース】

 

静かなミニ大通りで店を構えて良かったことは、鳥の鳴き声を聞きながら花を束ねられるだけではありません。訪れた人とのゆったりとした会話の中から生まれる新しいアイデアがあります。

 

モミ、ネズ、ヒムロスギ、そして雪を冠ったような蕾のユーカリ・グロボラスをラフィアで束ねただけのクリスマス・リースもそんな時間に思い付きました。森の良い香りが楽しめて、いつものブーケと同様に凝った印象がないように仕上げます。直径20センチ。おひとつ、¥2,100。

 

さて、早いものでミニ大通りでブーケを作り始めて3年が経ちます。有り難うございました。来年も宜しくお願い致します。

 

えっ、このリースといい最近やっと世の中の人の嗜好や希望がわかってきたようですね!なんて、そんなこといいっこなしよ。(2010.12)

2009-12-01 11:30:00

ミニ大通の並木から 2009

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【小さなブーケ】

 

小さなブーケにはいろいろな考え方や作り方がありまして、最近もっぱら見掛けるのがブーケをそのまま小さくしたようなミニサイズの花束。でも私の好みにぴたりと一致するのは小さな花や果実だけを束ねたものです。

 

スミレ、デージー、スズラン、忘れな草、野いちご、ナスタチウム、シクラメン.....

 

大きく束ねられないからこそ小さな束にして色や香りを楽しむ考え方、そして花の周りに葉を王冠のようにぐるりと添えた作り方。もうずいぶん昔に訪れたフランスの花屋にはこんな心を贅沢にさせる愛らしいブーケが60フランほどで並んでいたというわけです。

 

そんなことを思い出して作る小さなブーケはおひとつ¥1,260。写真の小さな赤いバラなんぞは相手に負担のかからない還暦祝いのちょっとした贈り物にも最適です。(2009.1)

 

 

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【雪どけの花器】

 

トリュフチョコレートを作る時のトランペの要領で、円筒形の透明なガラス器にパラフィンろうを薄くコーティングすれば新作『雪どけの花器』の完成です。白い不透明な外観と液状のような質感から「雪どけ」と名付けましたが、理由はそればかりではありません。

 

たとえば、ヒヤシンス、チューリップ、ラナンキュラス、スイセンといった春の花をこの花器に飾れば、まるで雪どけの中から咲いているような雰囲気にもなるからです。それは、フクジュソウやフキノトウが雪どけの中から姿を現すような、雪国の早春の情景でもありましょう。

 

大きさは高さ11センチ、直径6センチほど。ベッドサイドに飾るような小さなブーケならちょうど良く飾れます。おひとつ¥630。

 

この写真を見る限り、ヒヤシンスとチューリップは何だか嬉しそう。ブロカントに収まったスノードロップはちょっと悔しそう。(2009.2)

 

 

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【花の定期契約】

 

あらかじめ飾る場所や花器を相談して花を飾る花の定期契約。現在は週に1度、店から徒歩圏内にある鍼灸院と手作り石鹸の工房にお届けしています。いずれもミニ大通の近くなので、何かあった時にも馳せ参じられるというわけです。

 

もっとも、それぞれの店主に代わって季節を運ぶわけですから、こういう時の花飾りは、誤解を恐れずに申せば、花屋が技術を見せてしっかり飾りました、ではいけません。あたかも店主が飾ったように、何気なくそこに季節が感じられる雰囲気になることが大切です。でもそれがなかなむずかしいのではありますが・・・。

 

ちなみに、花の定期契約のことをアボンヌモンともいったはずで、ちょっと調べようと思ったら、今年復活した自転車選手、ランス・アームストロングが今テレビで見事な走りをしている真っ最中。フランス語の勉強はまたこの次にしてと。(2009.3)

 

 

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【花のレッスン】

 

2004年4月のこと。私が花のレッスンを始めることを知った周囲は不安がりました。そこで、「スパイラルブーケの難しい花材の組み合わせと分量は予め用意するのだから大丈夫」と説明したところ、いやはや、この私が人に教えることが心配なんだといいます。とまあそんな与太話はこれぐらいにして。

 

この花のレッスンは、資格を取るとか、人前で発表するとか、明日の花屋を育てるとか、ではありません。森の中で、田園で、自分の庭で、プリニウスの博物誌やユイスマンスの植物話を思い出すなんぞしながら、花や枝葉を摘み、鼻歌混じりにブーケが作れるようになることが目的です。本当かなあ。

 

スパイラルブーケには〈ブケ・ア・ラ・マン〉という呼び方があります。フランス語で「手の中で出来上がるフラワーアレンジ」というほどの意味で、すなわち、これは手が学ぶレッスンでもあるわけです。(2009.4)

 

 

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【私の庭づくり】

 

庭づくりは、いわば永遠のデコレーション。依頼をうければまずはその場所を訪れます。そして第一印象を元に、hibariというピアノ曲なんかを聴きながら、古代バビロニア人の空中庭園のごとく想像を膨らませて、まだ見ぬ庭の完成図を描きます。

 

たとえば、フィンランドの地名が店名のカフェの庭には亜麻やクランベリーで北欧の森の雰囲気に。軟石が鎮座するフランス料理店の中庭にはハーブを添えてオーブラックの大地のように。カフェが併設するお宅の庭には店名にちなみ徒然草に登場する禾本科植物を中心とした素朴な野原を、という具合。

 

そして、今度は現実的に、北海道の気候風土や日照条件に合う植物を選び、5月下旬から植栽してひとまずできあがり。あとは自然におまかせです。お気付きのように、店、ブーケ、花飾りと同様に、私は庭においても、花や色がいっぱいにはならないんだなあ。(2009.5)

 

 

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【高さのある器付きブーケ】

 

葉を巻いた器にブーケをセットした器付きブーケも、夏から秋の間に限っては旬のデルフィニウムの花で、高さのあるものが登場です。たとえば、写真のように、トクサを巻いた器に、デルフィニウムを田園調に束ねたブーケを飾るといった具合。すなわち、丸い花なら丸いブーケにするように、高さのある花なら高さのあるブーケにするわけです。

 

デルフィニウムといえば、皆さんの中には、今から20年ほど前、高橋永順さんによってその美しさを知った方もいるのではないでしょうか。実のところ、私もそんな一人で、野草風のアレンジに憧れましたっけ。

 

ちなみに、フランス語で田園風というほどの意味のブーケ・シャンペトルを作る上でも、デルフィニウムは欠かせない存在ですが、詩人の春山行夫さんによれば、フランスでこの花の花言葉は「野原の喜び」です。

永順さんも知っていたのかなあ。(2009.6) 

 

 

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【夏の自然】

 

夏の自然といえば、数年前に訪れた札幌の白旗山を思い出します。そこは、あらゆる緑が溢れる中、ひっそり群生する野苺、風に揺れるヤナギラン、草むらで踊るイケマ、光輝く水たまり、とまるでタルコフスキーの映画『ストーカー』の一場面のような、田舎とも違う非日常を感じる場所でありました。

 

それからというもの、私は夏のブーケや花飾りを作る時はさまざまな緑の交錯を心掛け、花や果実はそのアクセントと考えています。面白いことに、夏の緑はごちゃごちゃに混ぜ合わせても大丈夫。ご覧のとおり、時には野菜だってブーケになるわけです。

 

もう一つ、夏の自然といえば、ツール・ド・フランスがあります。自転車ロードレースのテレビ中継ではその土地の自然を満喫できますから、私は毎年フランスの夏の自然も味わっているようなもの。もっとも、今年は新城選手がアタックなんぞした日には、もう景色どころではありませんね、皆さん!(2009.7)

 

 

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【シリンダー型のガラス器】

 

たとえば、シンプルな形の白い食器は、季節や料理を選ばない何にでも合う一枚として、皆さんのご家庭にもあるかと思います。そんな白い食器のように、使い勝手の良いフラワーベースといえば、このシリンダー型のガラス器です。

 

今の季節なら、アジサイやモルセラが良く似合うでしょうし、季節の果実を飾っても素敵かなあ。もっとも、ツェツェの名高い「四月の花器」や、ジェフ・リーサムの花飾りのごとく、いくつか並べれば、現代風の洒落たデコレーションも簡単に出来上がります。恐るべき、シリンダー型のガラス器たち。

 

写真の高さ25cmはおひとつ、¥1,470。ちょっとしたブーケも飾れる大きさです。また、私の花飾りで最近よく登場する高さ80cmはおひとつ、¥10,815。こちらは床に置いて、ドウダンツツジなんぞを飾れば、ご自宅にも夏の森が訪れます。(2009.8)

 

 

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【私の花飾り】

 

花飾りの依頼を受けた時、まず確認することが二つあります。一つはその目的です。たとえば、結婚式やパーティー、発表会なら華やかな雰囲気に。教会なら厳粛に。作品展や店飾りなら周りを引き立たせる控え目な印象に。といった花飾りが求められます。

 

もう一つは、花飾りの分量です。事前に飾る場所を訪れたら、人の導線にそって花が必要なところを探し出します。そして、飾る期間や環境、準備できる花材や花器を考えた上で、スケッチを描くというわけです。もっとも、どんな条件であっても、私の花飾りになっていることが大切でもあります。

 

写真は今月始めに行った結婚披露宴の花飾り。長さ113mの客席を白い花とキャンドルで包みました。もとより、私はホテル内の花飾りから今の仕事を始めたので、これは私の原点のようなもの。ところが今回は筋肉痛に。花飾りは経験とともに、体力も必要です。(2009.9)

 

 

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【2つのガラス器】

 

細長いグラスの上下2箇所をラフィアで結べば、新作の花器『2つのガラス器』の完成です。繋げたことで、ただのグラスが飾りやすいフラワーベースに変化しました。まあ、ガラス器に葉を巻くのと同様に、身近にあるものを花器に仕上げるのは私の好むところ。

 

たとえば、2つ繋げれば安定感が生まれますから、グラス1つでは倒れる豆柿の枝葉なんぞも、しっかり飾ることができます。また、グラスの内径は5.5センチあって、小さなブーケも収まります。そして高さが使いやすい15センチで、名高い「四月の花器」と同じというわけです。

 

写真は結婚式の花飾りで、この花器にアイビーを絡めたところ。結婚を象徴するアイビーで2つのグラスを結ぶなんて洒落てるでしょ。おひとつ¥420。アイビー付きは¥840。今月のレッスンでは、これを使ったデコレーションもご紹介致します。(2009.10)

 

 

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【クリスマスローズの鉢植え】

 

セドリック・クラピッシュの映画「パリ!」の中で、冬のバルコニーいっぱいに咲いていた白い花こそ、クリスマスローズの鉢植えです。申すまでもなく、この花は寒空とクリスマスの季節を好み、私たちの心を豊かにしてくれますから、アドヴェントには欠かせない存在でありましょう。

 

しかしながら、私の住む札幌では近づくクリスマスの時期は朝晩の冷え込みが厳しくなる為、あの映画のようにバルコニーで、あるいはフランスの作家コレットのように雪の積もる庭でこの花と対面する、というのはちょっと難しい。無暖房の室内に飾って楽しむのが一番良いみたい。

 

写真のように、鉢は藁で巻いてあたかも中世の絵画のような印象で仕上げたクリスマスローズの鉢植えはおひとつ¥3,990。モミやネズの枝葉で店内が針葉樹の森となる11月中旬から今年も並びます。(2009.11)

 

 

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【球根型のろうそく】

 

太陽の化身としてクリスマスの時期にかかせないろうそく選びも、ブーケの傍らで灯すとなれば案外難しいものです。たとえば、香りがあっては花の邪魔になりますし、ファンシーな色や形も避けたいところ。しかし、ありきたりのものでは面白くありません。

 

そこで、北海道美幌町でコーヒーとろうそくを提供する「喫茶室豆灯」に特注して作っていただいたのがこの球根型のろうそくです。ゆかしい色合いに、自然の生命力を感じるフォルムに、思わず手に取りたくなるのは私だけではないでしょう。おひとつ(大)¥650、(中)¥480、(小)¥320。

 

さて、おかげさまでミニ大通りでブーケを作り始めてもうすぐ2年目を迎えます。有り難うございました。来年も宜しくお願い致します。

 

えっ、今年はこっそり休んでサイクリングをしていたなんて、そんなこといいっこなしよ。(2009.12)

2008-12-01 11:30:00

ミニ大通の並木から 2007、2008

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【ヒヤシンスの鉢植え】

 

ヨーロッパの夏の窓辺を飾るのがゼラニウムの鉢植えならば、冬の部屋を彩るのがヒヤシンスの鉢植えです。その強い香りは好き嫌いもありますが、水耕栽培で育てた経験のある私たちにとっては、馴染み深い花でありましょう。

 

写真は私がこの時期に作るヒヤシンスの鉢植えです。大山木の葉で包んだ鉢に球根が少し見えるようにヒヤシンスを1本飾り、苔をあしらいます。こうすれば、花がしっかり支えられ、土も隠せるというわけです。

 

もっとも、このようなヒヤシンスの鉢植えはヨーロッパの花屋ではよく見掛けられます。フランスの花の本に「ヒヤシンスは鉢植えに1本が最も美しい」とあったのも納得です。

 

ちなみに、このヒヤシンスの鉢はクリスマスの頃に蕾であれば、新年にちょうど咲いてきます。年末年始のちょっとした贈り物にも最適です。(2007.12) 

 

 

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【ろうそくの花器】

 

2001年の春、「花器の提案」というギャラリーの企画展に参加することになって制作したのがろうそくの花器です。パラフィンろうを型に流し固めて作りました。

 

花器の形は大きさの異なる4種の四角柱。花や枝葉を飾る実用性と、積み木のように積み重ねて使うことを考えました。また、規則的な形だと手作りならではの歪みがより明確となります。プラリネのチョコレート、とまではいかなくても、ひとつひとつ微妙に違うのがこの花器の愛らしいところ。

 

もっとも、湯煎に掛けたり、時間と温度によって仕上がりが変わるなど、その作業はチョコレート作りと似てなくもありません。

 

先日、あの時の展示で買ったというお客様から、また作ってほしいと依頼を受けて、再び作り始めたろうそくの花器。注文をいただいたことはもちろんのこと、ずっと使ってもらえていたことが嬉しくて嬉しくて。おひとつ¥1,785(小)からの受注製作ですが、店頭にも今は少しだけ並んでいます。(2008.1)

 

 

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【「四月の花器」を使ったレッスン】

 

写真は先日のレッスン、「四月の花器」を使ったデコレーションで見本に作ったものです。チューリップとヒヤシンスの花に、ネコヤナギ、ロウバイ、ユーカリの枝葉を飾り、アクセントにレモンを添えています。

 

この「四月の花器」に花や枝葉を飾ることで、花と器のバランスや色合わせのコツが良くわかります。もちろん、花器はレッスン時にこちらでお貸ししていますので、「4月の花器」をお持ちでなくても、レッスンにご参加いただけますのでどうぞご安心を。

 

ちなみに、「四月の花器」にはパリの花屋クリスチャン・トルチュが一目見て50個注文したとか、ポンピドゥー・センターのコレクションになっているとか、私も12年間愛用しているといったエピソードがあるわけですが、一度この花器を使ってみれば、さもありなんと納得されることでしょう。(2008.2)

 

 

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【クロッカスの鉢植え】

 

花はその種類によって、切り花やブーケとして楽しめるもの、庭で眺めたり鉢植えとして楽しむべきものがありますが、切り花にはあまり向かないクロッカスの花はまさに後者でありましょう。春が近づくと私は写真のように白いクロッカスを少し小振りのテラコッタの鉢に飾ります。

 

テラコッタとはイタリア語で焼いた土というほどの意味ですから、クロッカスのように背丈のない大地との距離が近い植物には良く似合います。たしかイギリスの花屋ジェーン・パッカーの言葉だったと記憶しますが「テラコッタは土を連想させる」というわけです。

 

クロッカスの花は、ヨーロッパではかつて結婚式に飾る習慣があったように、始まりの象徴でもあります。庭で群生する美しい姿も素敵なものですが、この小さな一鉢が部屋の中に春を運んでくれることでしょう。おひとつ¥660、3月が旬です。(2008.3)

 

 

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【スズランのブーケ】

 

ご存じの方も多いと思いますが、5月1日はスズランの日といって、この日にスズランを手にした人にはその1年、幸せが訪れるといいます。フランスではスズラン売りが街に現れるようで、街で売るスズランを早朝の森で摘む場面がある映画は「クリクリのいた夏」だったでしょうか。

 

写真は今から10年ほど前に作ったスズランのブーケです。ちょうどアジアンタムの葉を添え始めた頃で、現在よりも少し控えめではありますが、スズランのブーケは昔からこんな雰囲気で作っています。もっとも、当時はスズランの日を知る人も少なく、毎年買いに来てくれたのは忍路のパン屋さんぐらいだったでしょうか。

 

さて、今年のスズランのブーケはレッスンに併せて4月29日(火)から店頭に並びます。写真より小さい束なら、おひとつ¥1,890。今年も幸せが届きますように。(2008.4)

 

 

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【ブーケ・マリアローザ】

 

母の日は日本では5月の第2日曜日ですから、私が毎年、母の日に作るブーケはもっぱら薔薇が主役です。北海道で栽培された薔薇がちょうど出回り始める時期でもありますし、申すまでもなく、薔薇はスパイラルブーケに適した花でもあります。

 

また、シャクヤクが「山の薔薇」と呼ばれることや、スノーボールのように学名に薔薇の意味であるロゼウムと付いた花が多くあることからも、薔薇がしばしば美しさの比喩となっていることが判ります。ヨーロッパで母の日に薔薇を贈るのも、そのためかもしれません。

 

表題にあるマリアローザとは、5月にイタリアで3週間開催される自転車ロードレースの勝者が着用するローズ色のジャージ名で、5月の薔薇のブーケを私は勝手にこう呼びます。200人の集団が自然の中を走る自転車ロードレースもまた薔薇のように美しいもの。とまあ今年も私の5月は薔薇でいっぱい!(2008.5) 

 

 

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【ブーケ・シャンペトル】

 

オート麦などの禾本科植物が出回り始めると、ブーケ・シャンペトルの登場です。シャンペトルとはフランス語で「田園の」というほどの意味で、パリの花屋で見かけるブーケの一つで、シャスタ・デージーやスカビオサ、リシアンサスといった田園に咲く背丈のある花がよく似合います。

 

また、ブーケは小さくまとめず、抱えるほどの大きさで仕上げた方がより田園の雰囲気になりましょう。もっとも、このブーケには田舎で摘んだ雑草を組み合わせるやり方がありますが、私は様々な経験から、近年は花市場で手に入る栽培されたもので作ることにしております。

 

写真は2年前の夏に作った花嫁のブーケ・シャンペトルです。花の茎もオート麦で包みましたから、麦を100本は使ったでしょうか。きっと花嫁が歩くたびに、カサカサと麦の祝福の声が聞こえたにちがいありません。(2008.6)

 

 

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【ラベンダーのブーケ】

 

夏のテーブル飾りに重宝するこのラベンダーのブーケ。白と緑のブーケしか作っていなかった以前の花屋「レ・フルール」でも作っていましたから、見覚えのある方もいらっしゃるでしょう。誰でも簡単に作れるブーケですから、ここでその作り方をご紹介いたします。

 

材料は、乾燥したラベンダーが400本と、直径5cm、高さ12cm程の円筒型グラスです。作り方は、両面テープを使ってグラスのまわりをラベンダーで覆います。この時、花の高さを揃えることが大切で、しっかりと覆ったら後はラフィアで縛って完成です。

 

もうずいぶん昔、パリの花屋が作っていたのを、見よう見まねで作り始めたこのブーケ。ラフィアを2箇所縛るのが私のゆずれないところ。今年も7月下旬から私が作ったものが店内に並びます。おひとつ,¥4,200。予約も承ります。(2008.7)

 

 

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【日々、ブーケを作り置くこと】

 

ヨーロッパの小さな花屋を見習って、開店以来、日々、ブーケを作り置いています。いわば、見本ともなる本日のブーケといったところですが、小さな花屋にとっては、品揃えや店飾り以上に、出来上がったブーケがその店を知る指標となるからです。

 

たとえば、こういう色合わせをするのかとか、季節の花で勝負しているのかとか、流行にとらわれず田舎風の仕上げなのかとか、夏は殺菌作用があるミントを加えているのか、といったその店ならではの考えも、ひとつのブーケから読みとれます。

 

ちなみに、私が作り置くのは白い花のものと、写真のように季節がもたらす色のもので、この日はモーブ色のリシアンサス(トルコギキョウ)のシャンペトル風ミント添え。イギリスの庭師の服を連想させる上品な夏の色合いは、グラインドボーン音楽祭にも持って行けそうでしょ、皆さん!(2008.8)

 

 

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【果実が入ったブーケ】

 

ハプスブルク家の宮廷画家、アルチンボンドの『四季』は人間の横顔を植物で組み合わせた肖像画です。春は花、夏は禾本科植物や野菜、秋は果実、冬は枯れ枝や常緑樹で描いています。マニエリスム時代の嗜好として、私たちの四季のイメージを追い求めた結果というわけです。

 

9月に入れば、色付き始めた姫リンゴ、木イチゴ、山ブドウ、千成ホオズキ、ククミスの果実が夏の間はちょっと退屈だった店内に、自然の楽しさを思い出させてくれます。そのまま器に飾ってもガラス皿に並べるだけでも絵になる果実は、自然から私たちへの秋の贈り物というわけです。

 

誕生日、発表会、敬老のお祝い、結婚記念日、送別会、招かれた時の手土産、ツール・ド・北海道の表彰式。この時期のブーケに果実が入っていれば、贈られた人はきっと喜ぶに違いありません。(2008.9)

 

 

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【マグノリアのリース】

 

マグノリアの葉を土台に巻き付けて、花や針葉樹を飾ったりするのが、私が唯一作っているリースです。ご覧のように、マグノリアの葉は枝で固定して、試験管は枝に引っ掛け、針葉樹は巻き付けた葉の隙間に差し込みます。つまり、接着剤やワイヤーなど不要で出来上がります。

 

もっとも、リースはプリニウスの時代では贈り花であって、今日でいうブーケのようなものでした。いわばマラソン選手に贈られる月桂樹や夏至祭のツェッペルのように、素材を束ねたり重ねたりして、自然な雰囲気で作る事が大切というわけです。

 

写真は、実際にバレエの発表会に届けたもので、ユーチャリスの花を飾って仕上げました。壁掛けにもテーブル飾りにもなるこのリース。今年は10月下旬より店頭に並びます。ちなみにここでいうマグノリアは大山木。東京の原美術館そばに大きいのがあったなあ。(2008.9)

 

 

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【ネズの入荷】

 

店の近くにある近代美術館のヤドリギが現れるようになれば冬の始まりです。季節の花が少なくなるこれからの季節、ブーケの主役はむしろ常緑樹なのかもしれません。

 

実の成る木蔦やミルト、個性的な蕾を付けるユーカリやスキミア、暖かみを感じるモミやヒバなど、その多くは野山からの収穫で野趣に溢れ、初冬のブーケには欠かせない存在です。花材のジビエとでもいいましょうか。

 

中でも楽しみなのは、イタリアの魔女除けのお守りとして、グリム童話として、ビョークの映画として、あるいは、蒸留酒ジンの香り付けとして私たちに馴染み深い西洋ネズの枝葉が、この時期に少しだけ入荷することです。

 

写真は、房咲き水仙と常緑樹を束ね、フェネスサカモトの音楽を聴きながら、ネズの入荷を待ち望む11月、冬の朝。(2008.11)

 

 

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【ミニ大通りの花屋】

 

静寂な冬の並木。小鳥のさえずりがBGMとなる春の並木。木漏れ日が気持ち良い夏の並木。ヒメリンゴやクルミが賑わう秋の並木。ミニ大通りを眺めながら、ブーケを作り始めて一年が経ちました。

 

はたしてこの一年、「森の中でこっそり咲く花を見つけたような気分」の花屋になっていたのかどうか心配ですが、おかげさまで二度目のクリスマスを迎えることができます。有り難うございました。

 

写真は、エゾ松やネズが店内を包み、キャンドルの灯とクリスマスローズの鉢植えが暗闇に浮かぶ、12月のミニ大通りの花屋です。

 

えっ、ヤドリ木が飾られてないって?そんなこと言いっこなしよ。

 

来年も宜しくお願いいたします。(2008.12)

2008-03-01 11:30:00

ブーケおぼえがき 2007

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【おもてなしのブーケ】

 

今日、新築の家の台所が食卓と向き合うように配置されうようになったのも、人を家に招く機会がふえているからでしょうか。そんな場面で活躍するおもてなしのブーケは、誰もがその季節を感じられるように作っています。すなわち、茶席に花を飾る習慣と一緒で、もてなす時にブーケがあることが大切です。

 

料理人のアラン・パッサールは、食べることは幸福を知ること、といっています。おもてなしもパッサール風にいえば、幸福を知る時間、ということになるのかもしれません。パリのバスティーユにある本屋や札幌の名画座を訪れた時、季節の花に迎えられて心が和むのも、その空間にブーケが飾ってあるからでしょう。

 

さて、来月からワークショップを自宅で行う私としては、気の利いた北欧家具もないここアトリエでのおもてなしに悩む毎日です。季節の花があるのは当たり前。まあ、エスプレッソマシンぐらいは新品にしてと。(2007.1)

 

 

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【スイートピーのブーケ】

 

2月から4月に作るスイートピーのブーケは、ジャスミンやスノーボールの花、ピスタキアの枝葉とともに束ねています。ブーケの組み合わせというのは、新しい花材を知ったりすることで毎年変わってくるものですが、この時期のスイートピーのブーケに関してはもう何年も変わることはありません。

 

もっとも、スイートピーのブーケといえば、初夏のイギリスやフランスで見られるシャクヤクや薔薇の花との組み合わせが一般的です。しかしスイートピーはイタリア・シチリア島が原産の花だと考えた時、同じ熱帯のつる性植物のジャスミンとこんな風に合わせるのも良いかなと思っています。

 

ところで、写真では背景にプラムの木があるからなのかも知れませんが、このブーケは白、薄桃、若草の色どりで、ひなまつりにもぴったりな気がするのは私だけでしょうか。(2007.2)

 

 

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【送別会や発表会のブーケ】

 

送別会や発表会。その主役に贈るブーケは、部屋に飾って楽しむ前に集いの演出としての役割もあります。すなわち「チューリップよ」「この薔薇みたいな花はラナンキュラスね」と一目で束ねた花がわかるブーケほど効果的。

 

でもそれは、ただ同じ花を束ねるだけではありません。花が自然の中で咲いているように、いくつかの枝葉も組み合わせて、花を緑の中で引き立たせます。なぜなら、私たちが一目見てエレガントに感じるブーケほど、束ねた花の種類は少なく、枝葉の種類は多いものだからです。

 

そういえば、昨年のベルリン・フィルのジルヴェスターコンサートで指揮者と3人の歌手に贈られたブーケも、白いチューリップに枝葉を組み合わせたもので、舞台に4つ並んで良い見栄え。私がテレビに向かって拍手していたのはいうまでもありません。(2007.3)

 

 

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【葉で巻いた器のタンバルブーケ】

 

葉で巻いた器に花束を飾ったタンバルブーケを初めて見たのは私が花屋になる前のこと。1998年の雑誌で、たしかクリスチャン・トルチュがやっていたと記憶しています。器を葉で巻く斬新さと、古いフランドル派の絵画のようなやさしい花の姿に、私は一目惚れしてしまったというわけです。

 

タンバルとはフランス語で円筒型というほどの意味で、このブーケは円筒型の器に葉を巻き、丸く作った花束を器にセットして出来上がります。今日、母の日や誕生日などの贈り物にタンバルブーケが選ばれるようになったのも、そのまますぐに飾ることができ、葉の器がどんな場所にも避け込むからなのかもしれません。

 

もっとも、私が12年間作り続けているように、タンバルブーケは作っても楽しいものです。花束を器にセットした時のあの満足感。ワークショップで作った経験がある方なら、この気持ちはおわかりでしょう。(2007.4) 

 

 

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【母の日に、アンデルセンのブーケ】

 

アンデルセン童話には「亜麻」や「樅」といった植物の話がいっぱいあって、花好きをおおいに喜ばすわけですが、アンデルセンが私を童話よりも喜ばしたのは、彼がよく自分でブーケを作って人に贈っていたというエピソードです。

 

たぶん19世紀中庸の花屋はまだ庶民が利用できる存在ではなかったからでしょうが、私はこの素敵な話を知ってこうも考えます。贈る人自らが作ったブーケは、花屋がどんなに上手に作ったブーケよりも、贈られた人を驚かし、もっと喜ばすにちがいありません。

 

すなわち、ブーケ作りで一番大切なことは、私がこの場で述べるような理屈ではなく、心を込めて作ることでありますから、贈る人自らが作る、いわばアンデルセンのブーケは、母の日によろしかろうと思います。そういえば、母の日に子供がブーケを作る習慣があるのはルーマニアだったかなあ。(2007.5) 

 

 

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【初夏の森のブーケ】

 

小振りの薔薇やベルテッセッン、それに宿根のスイートピーといった小さな花を集め、羊歯などの身地近な葉と組み合わせた花束。これを白樺の樹皮で覆った器に飾るのが初夏の森のブーケです。

 

季節の贈り物として、あるいはピクニックや野外での結婚式のように、太陽の下で食事をする場面に飾れば、あたりの自然とぴったり調和します。すなわち、6月の北海道はヨーロッパのようにそよ風が気持ち良い気候ですから、この時期に作るブーケは青空や草むらが良く似合うのが特徴です。

 

ちなみに、このブーケはサイクリングの途中で立ち寄った札幌のとなり、当別町の夏至祭で、クネッケに鰊のオイル漬けをのせて食べながら、その場に飾られていた白樺のマイストングや小さな花のシェッペルを眺めた時、「あっこの組み合わせ!」と思いつきました。(2007.6)

 

 

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【乾燥ラベンダーのタンバル】

 

「夏にブーケを東京まで送ってくれませんか」という依頼があって提案したのがこのラベンダーのタンバルです。香りと色が次の夏まで楽しめることを考えた結果、北海道砂川市の畑で収穫後すぐに乾燥させた新鮮なラベンダーを使って作っています。

 

タンバルというように、これは約400本のラベンダーを円筒型の器に覆った花飾りです。その扇形は畑のラベンダーの姿を連想させるかもしれません。また、年によって香りや色がワインのように異なるのも、このタンバルの楽しみ方でありましょう。

 

ラベンダーと聞くと、入浴剤にしたローマ人、香水にしたベネディクト派の僧侶、室内で踏んで香りを楽しむプロヴァンスの習慣を思い出す方も多いでしょうが、毎年7月下旬頃にタンンバルを作っている私のことも、みなさん、どうぞお忘れなく。(2007.7)

 

 

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【お供えのブーケ】

 

お供えのブーケは何日か飾ることができるように、冬から春はラナンキュラスの花に常緑樹、夏から秋はリシアンサスの花に香草や実付きの枝葉で作っています。いずれも、その季節に合わせた花もちの良い組み合わせです。

 

たとえば、昨年のお盆に作ったタンバルブーケは、リシアンサス、樫、ピスタキア、ユーカリの花束をハランの器に飾っています。若いドングリが立秋を過ぎた時期の控え目なアクセント。すなわち、花を供えるということは季節をお知らせすることでもあるわけです。

 

ちなみに花束の場合は、供花用の器は高さがあることが多いので、田園風に花丈を少し長めに仕上げています。フランスの花屋でブーケ・シャンペトルと呼ばれているものです。(2007.8)

 

 

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【結婚記念日のブーケ】

 

結婚記念日のブーケは薔薇の花に季節の枝葉、それにアイビーの葉を添えて作っています。白い薔薇には相思相愛、アイビーには結婚の愚意があるからで、愛情を固めるようにブーケはできるだけ丸く、ロマンチックに仕上げています。

 

また、結婚記念日のブーケは自宅に限らず、レストランの予約席に決められた時間に届けることが多いことを考えますと、このブーケは大切な日を過ごす演出の役割もあるのかもしれません。

 

そういえば、昨年まで味わうことができた「釣り竿」という意味がある私のお気に入りのレストランで、給仕がいつも以上に笑顔で迎えてくれた日がありました。その日は予約をして、私は花束を抱えて訪れたから、きっと私の結婚記念日だと思われたにちがいない。(2007.9)

 

 

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【この秋の新しいブーケ】

 

近ごろ、私の住む北海道では、マルセイユ・エロンやコールラビ、イタリア・カボチャなど、これまで輸入品でしか知らなかった果物や野菜が作られるようになりましたが、このことは花き栽培にもいえて、新しい花材が登場しています。

 

たとえば、この秋から新鮮な北海道産が出回るようになったコティナスもそのひとつです。スモークツリーの葉といった方がわかりやすいかもしれませんが、その鳶茶ともいうべき葉色は、薔薇やリシアンサスの花と組み合わせれば、大人しやかな秋のブーケができあがります。

 

実際、コティナスは鮮度が良くないと水が下がりやすいため、使うことを控えていましたから、こういった花材が北海道でも栽培されるようになってきますと、私は何だか追い風を感じずにはいられない、とついつい思ってしまいます。そうだと良いんだけれど。(2007.10)

 

 

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【買う楽しみのブーケ】

 

ブーケにはいろいろな楽しみ方があります。贈る楽しみ、貰う楽しみ、飾る楽しみ、作る楽しみ。でも、忘れてはならないのは買う楽しみです。すなわち、パン屋のようにわざわざ買いにいく花屋というのは、きっとそこに買う楽しみがあるからにちがいありません。

 

写真はもうずいぶん昔、パリのクリスチャン・トルチュで買った厳冬のブーケです。まだ田舎臭さがあった時代であることが、たっぷり束ねた木蔦からみてとれます。玉村豊男さんが汚れた素焼きの鉢を一目見て「ただものではない」と述べたように、美しいディスプレイが評判だったころでした。

 

この時私は、3週間毎日この店を観察して、ブーケには買う楽しみがあることを知ります。私も含め、この店を訪れる人がみなニッコリとするわけです。クリスチャン・トルチュは20年前の雑誌のインタヴューでこう述べています。「人々は花を買うために花屋に来るのではありません。夢を求めてくるのです」(2007.11)

2008-02-01 11:30:00

ブーケおぼえがき 2006

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【冬の庭のブーケ】

ヴィクトル・ユゴーが19世紀に身近になった温室を「冬の庭」と消したように、今日の私たちはこのガラスの工夫によって、雪が積もる中でもブーケを眺められます。みなさんが真冬のこの時期に手にする春の球根植物や、冬でも温暖な地中海に浮かぶサルディーニャ島に自生する銀梅花(ミルト)の枝葉は冬の庭に欠かせないものです。

 

たとえば、16世紀にフランシス・ベーコンはロンドンにおける理想の庭園として、1月はミルトの温室栽培をすでに掲げていました。さすがは英国人。庭園趣味が昔から宜しく、きっとミルト酒で体を温め述べたに違いありません。そこで私はベーコンに冬の庭のブーケに心づくしの言葉を添えて贈ります。

 

「冬でも夏のごとく温かなお部屋であっては、あっという間に咲き終わることもございます。ご注意を!」(2006.1)

 

 

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【リボンをひもとくまでのブーケ】

ブーケを包装することの意味、豊かさを考えたとき、私が思いつくのがチョコレート屋さんの包装です。ピエール・マルコリーニ、ジャン=ポール・エヴァン、リシャールなどの包装には丈夫な素材、美味しさを引き立たせる色使いがあります。チョコレートは食べてなくなるいわば幸福な時間を過ごす繊細なものですから、中身を守る包装なわけです。

 

私が自然の色を持つクラフト紙と薄用紙でブーケを包装していますのも、これと同じ意味があります。自然の色とは、素材そのままの色のことです。日本の伝統的な住まい、数寄屋、書院の室内で花が良く映えますのも、素材そのままの色の建築だからです。

 

そしてブーケの包装で大事なことがもう一つ。以前は嫌っていたリボンを8年ほど前から使い始めました。どうやら、リボンをひもとき包みを開ける作業は、贈られた人の密かな楽しみでもあるようです。(2006.2) 

 

 

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【誕生日のブーケ】

誕生日のブーケは、自分の誕生日に贈られるものであったり、誰かの誕生日に贈るものであったり、自分で自分に贈ることであったりします。すなわち、自分の誕生日に花があることは誰もが嬉しいことであり、誕生日のブーケの良いところは、1年に1度、その季節が祝ってくれることかもしれません。

 

春なら、ラナンキュラスとスノーボールでみずみずしく、夏なら、薔薇とミントの良い香りが、秋なら、薔薇と果実の豊かさで、冬ならラナンキュラスと常緑樹が温かく祝います。もっとも、新しい生命の始まりである出産祝いなら、春の花か蕾の花の出番です。

 

こころみに、3月生まれの私も、ラナンキュラスとスノーボールで誕生日のブーケを束ねてみたところ、気分も春めいて参りました。誕生日のブーケは自分で作っても嬉しいものです。(2006.3)

 

 

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【オランダからの春のブーケ】

じつのところクリスチャン・トルチュは双子でもうひとりはリヨンで花屋をやっている!なんて4月の嘘にだまされた後は、ちょっと、ご近所の花屋を覗いてみてください。日本の手鞠花によく似た若草色の花、スノーボールがきっと並んでいるはずです。

 

スノーボールは苺と同じく、オランダで生まれ世界に広まった園芸植物で、花の絵の宝庫、17世紀オランダの静物画にも登場します。若草色は、日本では中世より春を告げる色、ヨーロッパではよみがえる春の色ですから、春のブーケには欠かせない花というわけです。

 

ちなみに、属名ビバーナムは、ラテン語で木というほどの意味で、スノーボールはY字を積み重ねた樹形をしています。そういえば、ブルーノ・ムナーリの美しい絵本には、Y字を積み重ねて木を描くエスプリがありましたっけね。(2006.4)

 

 

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【母の日のブーケ】

母の日のブーケは、5月の第2日曜に家族が一つになる贈り物。薔薇、スノーボールの花、時には豆の花も用いて作っています。薔薇を用いますのは、フランス、フィンランドなど多くの国で母の日に薔薇を贈る習慣があるからですが、理由はそればかりではありません。

 

たとえば、カーネーションはブーケにするより、アメリカのエピソードのごとく1輪で飾る方が美しいですし、百合などの大きく豪華な花は路線が違いますし、鉄線や蘭だとちょっと趣味的ですし、枯れないのも困ります。やはり、贈られて喜ばれる花のチャンピオン!5月は薔薇の季節というわけです。

 

母の日といえば、料理研究家の辰巳芳子さんは母の日の献立に、5月はピースの季節、とピース御飯を紹介しています。母の日は本来、家族の平和を願った母たちの運動でしたから、母の日にピース御飯をいただきますと、もう一つの味わいを感じるものです。(2006.5)

 

 

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【夏至祭のブーケ】

トーベ・ヤンソンの名高い「ムーミン」に出てくるニョロニョロを、覚えていらっしゃるでしょうか。スナフキンが蒔いた白い種から、まるでイブ・タンギーのシュールレアルな絵画のように現れ、自ら放電する不思議な生物ですが、このニョロニョロが生まれる時こそ、夏至祭の前夜です。

 

夏至祭は、一年で一番強まる夏至の太陽に感謝して火を灯す、北欧で盛んな夏まつり。前夜には薬草摘みの習慣があり、強い太陽を浴びた夏至の薬草には特別な効能が備わるとされています。つまり、ニョロニョロは、夏至を意味したトロール(妖精)というわけです。

 

最近、夏至祭はキャンドル・ナイトと姿を少し変えて、私たちに身近になってきましたが、この日のブーケは、フィンランドの夏至祭の花である小さな薔薇を用いて作っています。むろん、シダやヨモギなどの薬草を加えて、伝統的な雰囲気に仕上げても良いでしょう。(2006.6) 

 

 

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【パリのブーケ】

パリのブーケといえば、みなさんは花の頭が揃った丸い形のブーケをまず思い出すことでしょう。すなわち、今から30年ほど前にパリの花屋が復活させた、茎を螺旋状に束ねて作るヴィクトリア朝時代の様式。スパイラルブーケとも呼ばれていますね。

 

しかし、私をして言わしむれば、組み合わせが作りだす簡潔な季節感こそ、パリのブーケです。夏ならば、薔薇にミント、フランボワーズをつつましく添えて出来上がり。少ない種類で季節と主役をはっきりさせる、いわば、日本の生け花や茶花にも見られる考え方が、パリのブーケの本質だと私は思うわけです。

 

ところで、私が初めて見たパリのブーケは、自転車ロードレース、ツール・ド・フランスの表彰式。勝者となったミゲール・インデュラインが夏のシャンゼリゼ大通りで掲げたものでした。──今年はジルベルト・シモーニに掲げてほしい。私のこの夏の願い事。(2006.7)

 

 

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【真夏のブーケ】

真夏のブーケは、リシアンサスの花に、ジャスミンの葉、それにミントを必ず用いて作っています。前にも述べたように、ミントといったハーブには、夏の暑いさかりに花が萎れる要因の一つ、水中のバクテリアを抑える働きがあるからです。

 

考えてみれば、ハーブは人間にとっても夏の暑いさかりの人気者。たとえば、ヨーロッパの教会では、9種類のハーブを清めて病気を癒し健康を守るという中世からの習慣がありますし、私が夏まけ対策としていただくモロッコの紅茶、ベルギーのビール、イギリスの鰻料理にもハーブは欠かせない存在です。

 

そういえば、フランスのハーブ村として名高いミリーラフォレ村には、コクトーのよく知られた礼拝堂壁画があります。あの壁画で、いわけない猫がミントのそばで見上げているのは、リンドウ科のゲンチアナというハーブ。リシアンサスの仲間です。2006.8)

 

 

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【緑のブーケ】

料理人が初めて出会った美味しい料理に対して、その内容に興味をいだくように、私もまた、初めて見るブーケに対して、その組み合わせに興味をいだくことがあります。中でも特別の感心をいだくのが緑だけの組み合わせ。贈り物としては一般的でないにせよ、私がこの緑のブーケに引き込まれることはしばしば。

 

フランスの花屋が作った夏の草花による緑のブーケ。同じ土地で育つもの同士を組み合わせることの大切さを実感します。ノルウェーの花屋が作った様々な針葉樹と常緑樹による緑のブーケ。四季が持つ力強さと雪の白との美しい対比が今でも心に残ります。

 

詩人の春山行夫さんによれば、フランスで緑のブーケは植物学の寓意だそうで、なるほど、緑のブーケを眺めておりますと、葉の濃淡や質感の違いが良く見えるものです。ちなみに、パリには緑のブーケを得意とする「緑の葉」という名前の花屋があります。(2006.9)

 

 

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【深まる秋のブーケ】

私の住んでいる札幌の、秋の移ろいはまあ早いもので、紅葉はわずかの間にしか楽しむことができません。それはブーケにもいえて、ミラビフローラの花と紅葉した金葉小手毬、スキミアの枝葉を組み合わせた深まる秋のブーケが作れるのも2週間ほどでしょうか。

 

もっとも、紅葉した枝葉はすぐに落葉するか乾燥してしまうので、私はブーケに取り入れないようにしているのですが、この金葉小手毬はわりと丈夫なこともあって、数年前から用いるようになりました。やはり、秋の日本人の感性に紅葉はぴたりと合致するものです。

 

深まる秋に、ルイ14世が葡萄やミラベルの果実、ダリアの花を菜園や庭園で眺めていた頃、松尾芭蕉は紅葉を眺めていたことを考えれば、以前、私はフランスの花屋が作るブーケを手本に秋にはダリアとアジサイばかり束ねていたことが、今はちょっとはずかしい。(2006.10)

 

 

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【初冬のブーケ】

アイルランドの歌手、エンヤの名盤『ケルト』をBGMにして、薔薇、リシアンサス、ラナンキュラスの花に、白妙菊の葉と木蔦、銀梅花などの常緑樹を束ねる初冬のブーケは、ベロアのような白妙菊の銀色の葉や、革質で光沢がある常緑の葉が、セーターや外套のごとく、寒い季節に似合う花束です。

 

また、ブーケに付ける器も羅紗に似た手触りの針葉樹や、革質の月桂樹、スエード調の大山木の葉で覆い、冬のはじめに暖かい感じに仕上げます。

 

さて、11月11日はヨーロッパのあちこちで大人たちは今年収穫したワインを最初に味わい、子供たちは行灯をかざし歌い歩く聖マルチン祭。冬のはじまりです。外套に身を包み白馬に乗って冬を告げる聖マルチンのように、私は銀色の葉を用いたブーケで、今年も皆さんに冬のはじまりをお知らせしています。(2006.11)

 

 

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【タンバルブーケを囲んで】

バロック音楽が新たな解釈で演奏されるように、歳暮に作るブーケも新たな解釈で作っています。クリスマス、お正月と家族が集う季節でもありますから、誰もが知る薔薇やクリスマスローズの花に、松、柊、銀梅花、白妙菊、杜松とプリニウスの時代から縁起が良いとされてきた枝葉を束ねています。

 

また、タンバルブーケになりますと、これも長寿や幸運の寓意がある樅の枝葉で覆った器で、ちょっと豪華な雰囲気です。そして12月は、この器付き花束を多く作っています。届いてそのまますぐに飾れることが、師走に喜ばれる贈り方なのかもしれません。

 

そのタンバルブーケを囲んで、この一年をつつがなく過ごせたことに感謝する祝いの席。ご馳走をいただく特別な時に、花もしつらえますと、ジェズアルドの歌曲のように、卓上がさまざまな願いで彩られることでしょう。(2006.12)