2011-12-01 11:00:00

ミニ大通の並木から 2011

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【ヤドリギ】

 

私の冬の楽しみの一つはヤドリギ探しです。歩きながら、あるいは車を運転しながら落葉樹を見上げてはこの寄生植物を探します。見つけた時は、名高いフランス文学者のごとく「あ、ギーだよ。」とフランス語で叫ぶか、万葉の歌人のごとく「ほよ」と古名をいいながら、その姿や実の色を観察します。

 

そんなこともあって、先日依頼された「森の分室」と称した花飾りでは迷うことなくヤドリギを飾りました。古代ケルト人のドルイドやアイヌの人々が崇めてきた縁起の良いこの植物によって、神々しい冬の森の空間に仕上がったというわけです。

 

ちなみに、店の近くにヤドリギは近代美術館敷地内の樹木にありますが、残念ながらミニ通りの樹木にはありません。でもミニ大通りの花屋にはございます。ただしこちらのヤドリギは高価なこともあって仕入れるといつも店内に宿ったままなんだなあ。(2011.1) 

 

 

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【ミモザを窓辺に飾って】

 

ミモザは、パリのスーパーでおじさんが黒いラッピングをして売っている印象が強いし、他の花材との組み合わせが不向きなこともあって、以前はあまり扱わない花でした。ところがこの時期、ウインドーにミモザを飾ってみますと、雪の積もったミニ大通りに黄色い小粒が輝いて、これがすこぶるよろしい。

 

春の訪れといいますか、少し大袈裟にいえば、店内に南仏コート・ダジュールの暖かさが運ばれてきた、という感じになります。もっとも、福寿草がそうであるように、雪の中で見る黄色は、北国に住む私たちの気分を良くしてくれる情景でもありましょう。

 

そういえば、1968年のグルノーブル冬季五輪の記録映画『白い恋人たち』で、ミモザだけを束ねた表彰式のブーケを観ることができます。旬の花だといえばそれまでですが、あの色が銀世界に映えることを、フランスの花屋もきっと知っていたにちがいありません。(2011.2)

 

 

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【白い花あそび】

 

「うちの店でレッスンをしていただけませんか?器やアンティークのものに、ちょっとした花あしらいを提案してほしいんです。」

 

「なるほど、それは面白そうですね。春は始まりの季節ですし、やってみましょう。」

 

「良かった、宜しくお願いします。」

 

「それで、レッスンが11時開始でしたら、その後は2Fのカフェでランチですか?」

 

「はい、タルティーヌをご用意しようかと。」

 

「タルティーヌ!良いですね。少し温めた1センチ厚のカンパーニュに、菜の花のソースを塗って、サン・ジャックやディル、ピンクペッパーをのせたりしてね。」

 

とまあこんな具合で、ランチ付きの出張レッスン「白い花あそび」が始まります。(2011.3) 

 

 

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【春のミニ大通】

 

たしか、バルザックかミシェル・ブラスのどちらかが著書で「自然はたゆまなく繰り返す」といっていたように、もうすぐミニ大通りにも春がやって来ます。4月の始めまであった雪がなくなり、いつの間にか木々の芽吹いた緑が目立ち始め、5月の連休には桜やレンギョウに彩られるというわけです。

 

もっとも、ミニ大通に桜は西11丁目から西16丁目まで植えられていて、どういうわけか、店のある西17丁目には樫やクルミ、姫リンゴといった果樹しかありません。まあ、私がいる場所ですから、樹々に咲く花も白や緑ということなのでありましょう。

 

では、ミニ大通の花屋はどうかといえば、春が訪れますと初夏の花が旬になります。冬に春の花があるように、花屋は一足先の季節を提供するものだからです。写真のように、4月の中旬から母の日の頃のブーケでは、薔薇、ウツギ、ソケイが主役です。むろん、5月1日はスズランが今年も主役ですけどね。(2011.4)

 

 

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【ムング豆のボール】

 

ポリスチレンにムング豆を張り付けて作るこのオブジェは、今から15年ほど前にフランスで出版された子供向けの花の絵本でも紹介されていたことがありますから、ご存じの方もいるかもしれません。

 

その作り方は単純で、まず直径10センチほどの球体を両面テープで覆い、次に皿に盛ったムング豆の上で転がしながらある程度まで豆を球体に張り付けます。そして、隙間をひとつひとつ埋めていき、仕上げにエスプレッソ粉ほどに砕いた木屑をまぶして豆の隙間が目立たなくなったら完成です。

 

少し手間はかかりますが、パズルが出来上がったような爽快感が味わえるのがこのオブジェ作りの楽しいところ。ムング豆のボールはおひとつ、¥1,890。こういったオブジェは花や緑を引き立たせる役割がありますから、フランスでは子供向けの本にだって登場するのでありましょう。(2011.5) 

 

 

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【夏至祭のリース】

 

クリスマスが太陽を励ます冬至の行事であるならば、夏至祭はその対極にあって、強まる太陽に感謝する日であることはいうまでもありません。すなわち、どちらも生命の祝祭であるわけですが、それなら、夏至の日にもリースがあって良いのではないか、ということで出来上がったのがこの夏至祭のリースです。

 

プリニウスの時代からある花装飾のごとく、リースは環状に束ねたアイビーに木棒を付けたのが特徴で、夏至祭の時に広場に立つマイバウムを模しています。壁や扉に掛けるのではなく、花瓶や鉢植えにさして空間を飾れば、部屋の中で夏至祭の気分となりましょう。

 

夏至祭のリースは、おひとつ、¥1,260。リースの直径は約18センチですが、棒の長さは90センチと、ちょっと持ち運びにくいのはご愛嬌。ちなみに、ガラスチューブで保水しておりますから、夏至の前夜に摘んだ聖ジョンの草をここに飾っても素敵です。(2011.6)

 

 

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【オリーブの鉢植え】

 

部屋の中に置く緑の鉢植えを選ぶ時、大切なのはその環境に適したものを選ぶことです。たとえば、私が住む北海道の室内の場合、夏は湿度が低く、冬は暖かく乾燥しています。いわゆる、高温多湿な亜熱帯地域が原産の観葉植物なんぞは、案外育てるのに手間が必要かもしれません。

 

そこで、オリーブの鉢植えの登場です。皆さんも良くご存じのように、平和の象徴であるオリーブは地中海性気候の植物で、1年中暖かさと乾燥を好みます。すなわち、北海道の室内環境と似たところがあって、これが育てやすいというわけです。

 

オリーブの鉢植えはおひとつ、¥5,250。忘れない程度の水やりで管理できます。クネゴの復活を信じてツール・ド・フランス観戦で家を空けるという方も嬉しいかぎり。もっとも、私は今年もテレビで観戦。(2011.7)

 

 

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【トルミネアの鉢植え】

 

たとえば、ミシェル・ブラスのミルクジャムが冷蔵庫に入っていれば、いつものパンがより美味しくなるように、このトルミネアの鉢植えがあれば、家の中で花をちょっと飾る際、葉を鉢から摘んであしらうだけで、その花飾りは美しく洒落た感じに仕上がります。

 

まあ、その昔はクリスチャン・トルチュがスイートピーの小さなブーケを作る時に、最近ではカトリーヌ・ミュレーがテレビのフラワーレッスンで用いていたように、トルミネアは、夏の光を思わせるその明るいマーブル模様の葉で私たちの気分を良くしてくれる、というわけです。

 

トルミネアの鉢植えはおひとつ、¥1,260。花飾りやブーケ作りにおいて、常備しておくと便利な魔法の葉っぱです。ちなみに、庭に植える場合、この植物は北米西海岸の森林の下草だといいますから、湿り気のある日陰が適しています。(2011.8)

 

 

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【ダリアのブーケ】

 

たしかに、切り花にしたダリアは長く楽しめるわけではありません。けれども、季節の花を楽しんだり、贈ることを考えるならば、ダリアはやはり魅力的です。とりわけ、秋に向けてさまざまな実が目立ち始めるこの時期は、その華やかさが一層増してきます。

 

たとえば、小さなナスやリンゴ、野バラ、山ゴボウ、シンフォリカルポス、ホオズキなどと束ねたダリアのブーケは、いかにも秋の田舎の風景といったところ。もっとも、花嫁向けであれば、写真のように白いポンポン咲きに、ドングリなんかでまとめるとちょっと素敵でありましょう。

 

そう、ダリアといえば、エミール・クストリッツァの映画『黒猫・白猫』を思い出す人も多いかもしれません。ラマの音楽にのせて、秋の陽光に輝くダリア畑。私はブーケを束ねる時、その花が咲いている情景を頭の中に描きますが、ダリアに関してはいつもこの場面。

 

写真は今から10年ほど前に作ったダリアのブライダルブーケです。白いポンポン咲きのダリア、アイビー、ドングリの組み合わせは、今見直してみても新鮮な気分。もっとも、最近では黒い“黒蝶”など、ダリアも束ねたい品種がずいぶん増えました。(2011.9)

 

 

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【出産祝いのブーケ】

 

出産は新しい命の始まりでもありますから、そのお祝いのブーケではラナンキュラスやシクラメン、スイートピーなど春の花を加えて作るのが基本です。でも、だからといって、季節感がなくなってもいけませんので、夏から秋の頃にはバラで、それも大輪は避けて、蕾や小さなものを使うようにしています。

 

また、ブーケの色合いについては、私に依頼すると、とかく白と緑になりがちですが、大切なのはフレッシュであること。そして愛情や優しさが感じられる印象に仕上げることでありましょう。出産祝いのブーケはおひとつ、¥5,250から。

 

写真は秋に作ったもので、小さなバラに姫リンゴを加えて、器は藁で巻いています。申すまでもなく、お祝いのブーケは、そのまま飾ることができるように器を付けた方が贈られた相手には喜ばれるもの。とりわけ、出産祝いにはこの手法がぴったりです。(2011.10)

 

 

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【モスのボール】

 

球体のオブジェについては、以前に、マグノリアの葉やムング豆を素材にしたものをご紹介しましたが、そもそも、こういった飾り物として最初に作ったのがこのモスのボールです。モスとはいわゆる苔のことで、これもポリスチレンを土台にして仕上げます。

 

使っている苔は自然乾燥させた、トルコ産で板状のシートモスと、オランダ産で塊状のプールモスと呼ばれているものです。とりわけ、凹凸感を持つプールモスのボールなんぞは、「法然院を思い出すわ」と京都の美しい苔を知る方なら心が動くにちがいありません。

 

モスのボールはおひとつ、シートモス製だと直径25センチ(大)が¥5,250、直径15センチ(小)が¥3,150。プールモスだと直径20センチが¥7,350。

 

ちなみに、生命を象徴する苔もクリスマスに飾る緑のひとつです。(2011.11)

 

 

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【新年の松飾り】

 

松の枝を藁で包み、アクセントに南京黄櫨の白い実を飾れば新年の松飾りの完成です。写真のように、壁に掛けるのも良いものですが、そのまま横に置いて、床や卓の室礼にもなりましょう。松飾りはおひとつ、¥880。今月13日から店で販売致します。

 

さて、おかげさまでミニ大通りに根を付けて4年が経ちました。皆さまには感謝の気持ちでいっぱいです。

 

まあ、確かに花の種類が少なく「ちょっと入りにくい」といわれることもありますが、時おり、「他とは違って入ってみたかったの」といってくださるお客様に救われる今日この頃。来年もどうぞ宜しくお願い致します。

 

えっ、ここで2012年3月で花屋になって20周年です、なんていおうとしたら、勘違いをしていて、それは今年の話だったなんて、そんなことはいいっこなしよ。(2011.12)