ミニ大通の並木から 2021
【早春のグラス】
春のよみがえりの象徴として、ギリシア神話に登場する、アネモネ、ヒヤシンス、クロッカス、スイセンはどれもが球根植物です。それは原産地である地中海沿岸の気候と関係しています。
この地域は、乾季と雨季があり、自生する花は栄養を蓄えるべく、葉や茎が層状、あるいは球状になっているわけです。その球根植物を古代人は春の復活の象徴とイメージしたわけですが、私たちも、視覚的に春の兆しを感じることはいうまでもありません。
早春のグラスと名付けた、原種のチューリップ、ムスカリ、クロッカス、スイセンなどの球根付花はグラス付で、おひとつ¥1,100。厳冬の季節に、透明なタンブラーの中で瑞々しい球根を花や若葉とともにお楽しみいただけます。(2021.1)
【私の花器コレクション・10】
以前、この欄で述べたように、内藤美弥子さんの花器を展示販売したのは、今から3年前のことです。すぐに完売したこともあって、実は店にひとつも無かったわけですが、昨年末、内藤さんから提供していただきました。
何でも、底の部分にひびりがあり、どれもが販売に至らない品だといいます。むろん、使用するには問題ないわけで、むしろ、こちらとしては嬉しいお話となり、店の備品となりました。新たな私の花器コレクション。
やはり、その形や重さは使いやすく、あらゆる花や葉、色にも合う事があらためて確認できています。並んだ姿も美しく、手間を惜しまず、時間をかけて削り出され生まれる白磁の花器。またいつか展示販売をしたいものです。
(2021.2)
【私の花器コレクション・11】
少し大きめのブーケを飾るのに重宝しているのがこの壺型のガラス器です。数年前に、ワンコインショップで偶然見つけたもので、本来はキャニスターですが、安価な事もあって、今でもいくつか常備しています。
その大きさは、高さ20センチ、口径10センチと蓋を外せばブーケを飾る器としてはとても理想的です。また、モールガラスのデザインは、水を入れてしまえば、工業製品特有の質感をあまり感じさせません。
ちなみに、この花器については、お客様に「売り物ですか」とか「どちらで購入できますか」といったご質問を度々受けますが「ワンコインショップです」と答えると、皆さん一様に驚かれます。そのぐらいバランスの良いキャニスターなのです。(2021.3)
【チューリップのブーケ・ファゴ】
チューリップの切花を部屋に飾った経験がある方なら、茎が日に日に伸びていくことをご存知でありましょう。それがブーケに仕立ててあれば尚更で、半円形の整った花束が数日後にはどこかバロック絵画を思わせる動きのある姿になっています。
そんなチューリップの個性をより引き出すのは縦長に束ねるグラフィカルな様式、ブーケ・ファゴです。ファゴとはフランス語で薪というほどの意味で、この場合、花は概ね直線状に束ね、最後だけ螺旋状に束ねて仕上げます。
写真は花木の美しい4月に作ることができるチューリップのブーケ・ファゴです。とりわけ、茎の柔らかいチューリップと花木を束ねる場合、この技法は折れやすい茎を保護する効果があります。(2021.4)
【桜とライラックが咲く間】
ミニ大通の桜が咲き始める5月の店内は、毎週、香りの良い花で溢れます。まず、1日はスズラン。いわゆる幸せの香りです。それから、母の日がある第2週目がバラ。ミルラ香やダマスク香の優しさに包まれます。
続いて、第3週目は旬を迎えたシャクヤク。甘く瑞々しい香りに心が踊る方も多いでしょう。そして、第4週目が札幌に住む私にとっても身近なライラック。庭や公園でこの香りが漂っていることはいうまでもありません。
たしか、スウェーデンには「バードチェリーとライラックが咲く間」という素晴らしい季節を意味する言葉がありましたが、この時季の札幌がまさにその通り。休暇をとって出掛けたくなる5月は、ブーケ作りが週替わりで楽しい季節でもあります。(2021.5)
【夏至のリース】
ケルト人のミッドサマーにしろ、ゲルマン系の祭りにしろ、キリスト教の聖ジョンの日にしろ、神社の茅の輪くぐりにしろ、共通するのは北半球においての夏至であり、一年で一番強まる太陽の力です。
夏至のリースは、この時期に育った草花や枝を用いて仕上げたもので、その内容に決まりはありません。しかしながら、北半球で太陽の光を十分に浴びた新鮮な植物で作ることは大切です。
ゲルマン風に7種類とか、キリスト風にヨハネの薬草のオトギリソウを加えても良いでしょう。ちなみに、この写真ではトリフォリウム、リモニウム、ノコギリソウに、ドルイドの教えでは夏至の灌木でもある、ヒースを加えて、ケルト風に仕上げました。(2021.6)
【ノーズゲイ】
ノーズゲイとは、英語で鼻先を楽しませる飾り、というほどの意味で、テューダー王朝時代に流行した花とハーブを集めた花束のことです。当時の人々は、伝染病の予防や下水の匂いを避ける目的で、この束で花を押さえていたといいます。
いわば、花のマスクというわけですが、自然の香りは不安な気持ちを取り除いてくれますから、近頃の私たちにも必要かもしれません。おうち時間に飾れば、気分が爽やかになるというもの。
そういえば、2012年ロンドンオリンピックでのセレモニー用の花束はノーズゲイでした。バラとハーブのグルーピングは、イギリスの名高い花屋、ジェーン・パッカーのデザインだったことはいうまでもありません。
(2021.7)
【私の花器コレクション・12】
この直径6センチ、高さ11センチのガラスタンブラーには様々な使い道があります。たとえば、葉を巻いてしまえば、スズランのブーケをしっかり飾ることが出来ますし、乾燥したラベンダーを500本巻き付ければ、夏を思い出すタンバルが仕上がるはずです。
また、この写真のように、水の中にカラジウムやアンスリウムの葉を横向きに入れて、アジサイを飾るだけで、涼しげな夏の卓上飾りも簡単に出来上がります。245mlとペットボトル半分ほどの容量が、花器として十分機能するわけです。
花器には花器として作られたもの、このように、花器として使えるものがあります。使えるかどうかの判断は、まず試してみるということです。このガラスタンブラーも、安価で手に入りやすい物の中から、東洋佐々木ガラス製のこのサイズに落ち着き、私の花器コレクションとなりました。(2021.8)
【センニンソウについて】
センニンソウは、漢字で仙人草と書くように、開花後の綿毛を仙人の髭に見立ててこう呼ばれます。常緑の蔓植物で日本や中国が原産です。クレマチスの一種ですが、花の咲く時期は夏から秋にかけてで、英語では秋のクレマチスと呼ばれています。
蔓がしっかりしているため、少し扱いにくい切り花ですが、ブーケとして楽しむのも悪くありません。秋の七草に忍ばせても良いですし、白いバラやダリアと組み合わせる場合は、節を切り分ければ上手くまとまります。
また、蔓の長さを活かして絡めながら束ねることができるのもセンニンソウの楽しさです。そのため、落ち着いた緑へと変化したアジサイや、八重咲きのアナベルがこの季節には欠かせなくなります。(2021.9)
【デメテルのリース】
オリュンポスの神々にちなんで、山ブドウのリースをバッカスのリースと呼んだように、この麦のリースはデメテルのリースと呼んでいます。環状にしたサンキライの枝を土台にして、麦だけを差し込んで茎ごと絡めた夏から秋にかけてのリースです。
そもそもデメテルとは、ギリシア神話で人間に穀物栽培を指南した豊穣神。その名には「母なる大地」というほどの意味がありますが、ロココ時代のフランスの画家、アントワーヌ・ヴァトーがデメテルの頭に麦の冠を描いていたのも、それが収穫の象徴だからです。
ちなみに、この写真のデメテルのリースはパン屋の開店祝いに仕上げました。直径が約40センチで、80本ほどの麦の穂が秋空に輝きます。新しい始まり、繁栄の象徴となりますように。(2021.10)
【聖バルブの麦】
聖バルブの麦とは、古代ローマ時代から伝わる南仏プロヴァンス地方の風習です。希望の麦とも呼ばれ、12月4日の聖バルブの日に、水を入れた皿に小麦を浸し、クリスマスの頃の芽の出方で翌年の豊凶を占います。
そこで、おうち時間が続く昨今、今年は皆さんにもこの風習を楽しんでいただこうと、小麦を小袋に詰めてご用意いたしました。20日で育つ麦の生命力に驚きながら、来年を占ってみようではありませんか。
もっとも、聖バルブの麦を知ったのは今から21年前のことで、新規に開店したパン屋のクリスマス飾りでした。シュトレンやキャンドルの灯りの側で美しく育った小麦の姿に、心が豊かになったものです。(2021.11)
【お正月のスワッグ】
新年を迎える壁飾りとして、松飾り、リースに続いて作り始めたのがお正月のスワッグです。大王松にオリーブ、金柑、シースターを螺旋状に束ね、仕上げにユズリハとナンキンハゼの種を添えています。
常緑、裏白、黄金といった縁起植物と、垂直という伝統美を意識したのはいうまでもありません。長さ約60センチで、おひとつ、4,400円。
さて、お陰様でミニ大通に根を付けて14年、レッスンを初めて20年が経ちました。皆さまには感謝の気持ちでいっぱいです。来年もどうぞ宜しくお願いいたします。
えっ、店内の聖バルブの麦の発芽がいまいちですねって?まあ、そんなことはいいっこなしよ。(2021.12)