2012-12-01 11:30:00

ミニ大通の並木から 2012

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【ラッパスイセンのブーケ】

 

ホメロスの詩にもあるように、スイセンの花は春の蘇り、すなわち復活の象徴です。そういったこともあって、新年に作るブーケには時おりスイセンを用います。ただ、新年を迎えるスイセンが凛とした白い房咲きを使うのに対し、年が明けた頃からは春の暖かさが感じられるラッパスイセンの登場です。

 

写真はちょうど今から1年前に束ねたもので、ネコヤナギ、ビバーナム、キヅタ、ミルトといった旬の枝葉がこの早春の花を引きたてます。もっとも、黄色い花はふだんあまり扱うこがありませんが、ミモザやヤドリギの果実がそうであるように、雪の中に見る明るい黄色は美しいものでありましょう。

 

ブーケはおひとつ、¥4,200から。そういえば、ラッパスイセンはウエールズの国花で、テレビのラグビー中継を観ていると、この時期に限っては、この花を胸元に飾って応援する女性達の姿があります。素敵な習慣です。(2012.1)

 

 

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【ガラスの鉢植え】

 

花市場に並ぶプラスチックに入った小さな鉢植え。これを仕入れて、そのまま売るのではなく、ちょっと洒落た感じに仕上げるためには二つの方法があります。ひとつは素焼きの鉢に植え替えて、マグノリアの葉などで包むやり方。もうひとつがこのガラス器に移して土や根を見せて楽しむというものです。

 

たとえば、写真のガラスの鉢植えは、左からスノードロッ(¥1,050)、ベビーティアーズ(¥750)、クローバー(¥950)になります。きっと私のように、雪の中で暮らす人にとって、この時期に見る土は近づく春を連想するのではないでしょうか。

 

もっとも、穴の空いていない器で鉢を育てるのは難しい、と思われるかも知れませんが、小さい鉢植えだからこそ、週に1度の間隔で土を湿らすだけで上手くできます。斯くて、ベビーティーアーズをいつも枯らしていた私がこのやり方で失敗しなくなったのですから。(2012.2)

 

 

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【イチゴのブーケ】

 

イチゴのブーケを作ることができるのは3月から4月。なぜかといえば、この時期に出回る鉢植えを切って束ねるからで、それも果実がまだ熟さないような青い状態であることが重要。食べて美味しいものを、そこまでしてわざわざ仕上げるのは、バロック時代に生まれたこの果実の小さな花束がそれだけ魅力があるからです。

 

もっとも、イチゴはバラ科の多年草で、本来、スズランが咲く頃の果実でありますが、陽気が暖かくなるにつれてイチゴを目にしますとやはり春の訪れを感じることでありましょう。イチゴのブーケはおひとつ、¥2,100。この春も少しだけ登場します。

 

ちなみに、イチゴは野イチゴやラズベリーなどを元にオランダで生まれ、江戸時代にオランダイチゴとして日本に伝わった比較的新しい果実で、当初は食用ではなく観賞して楽しむ植物であったことはあまり知られておりません。(2012.3) 

 

 

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【花の仕入れ】

 

花の仕入れは朝5時30分、いや最近は6時過ぎに札幌市内から約10km東にある花市場へ週に何度か足を運びます。とりわけ、切り花のセリが行われる月・水・金は欠かしません。私のような小さな花屋は、料理人が食材を選ぶような感じで仲卸業者を回ります。

 

出来上がるブーケを想像して、自分の目と経験から確かなものだけを選びますが、ミルトやマグノリアなど市場になかなか入荷しない花材は注文して手に入れています。もっとも、近頃は冬にバラやシャクヤク、春にダリアやアジサイ、夏にクリスマスローズが出回り、花屋は誘惑されることもしばしば。

 

でも、季節に正直な枝葉から選べば、変な間違いは起きないというもの。あとはイチゴのように、その季節、店内にあって楽しいかどうか、これが重要。たとえば、4月30日ならスズランを仕入れ、明日の幸せを準備するわけです。

(2012.4) 

 

 

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【レッスンのプログラム】

 

お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、レッスンのプログラムは、その時期に店の主役となる花に基づいて組まれております。そこで、この5月に並ぶ店の花について、プログラムを例に、ちょっとご紹介してみましょう。

 

ます1週目はスズランの幸せ。小さなブーケが幸せを運ぶ1週間です。続いて2週目はバラを母の日に。優しい雰囲気のものや香りの良い品種が揃います。3週目はそろそろシャクヤクを。そして、4週目には値ごろになったシャクヤクをたっぷりと、といった具合です。

 

ちなみに、昨年の11月からテーマを週替わりにしてレッスンの種類を増やしました。理由は簡単で、プログラムを考えるのが私の密かな楽しみだからです。写真は、4月の後半に旬を迎えるスイートピーとアジアンタムで、最近のレッスンから。(2012.5)

 

 

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【野原の季節】

 

初夏の花屋は野原の季節。デルフィニウム、スカビオサ、カンパニュラ、クレマチス、オルラヤなどの草花が店に溢れます。作るブーケも、他の季節とは異なって、シャンペトと呼ばれる、田園から摘んだような雰囲気です。

 

たとえば、写真のブーケは劇場の入口にと依頼されたもので、私にしては珍しく青い花を中心に束ねています。1メートルほどの大きさです。まさに野原といった感じで、出来上がったブーケを店の前、すなわち、ミニ大通りに置いてみますと、まあ、ぴったりなこと!

 

もっとも、ミニ大通りは今がとりわけ美しい季節です。新緑の輝きやが目を喜ばせ、鳥の鳴き声や、葉音が耳を楽しませます。そんな自然のBGMが流れる環境の中で、オリーブやアジアイの鉢植えを店先に並べ、手の中で野原を作るのが6月の私。(2012.6)

 

 

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 【花のコロネ】

 

市場でアンスリウム・クラリネビウムの葉を見つけたら、花のコロネを作ってみたくなります。このコロネとはフランス語で円錐形というほどの意味で、たとえば、ハムのコロネといえば、サラダをハムで巻いたものですし、チョココロネという円錐形のパンは皆さんも良く御存じでありましょう。

 

もっとも、花のコロネは、今から17年ほど前にフランスで刊行された子供向けの花の絵本にその作り方が載っております。ここでは緑色のアンスリウムの葉で花を巻いておりましたが、写真のように、私のコロネは、同じアンスリウムの葉でも縞の入った品種です。

 

ベルベットを思わせる手触りのこの葉は、たとえば、白いラシラスの花を包みますと、涼しげな雰囲気となります。まあ、ちょっと風変わりな夏の小さな贈り物というわけです。花のコロネはおひとつ、¥1,260。さて、明日はこの葉が見つかるかなあ。(2012.7)

 

 

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【「山採り」の山ブドウ】

 

写真にあるように、山ブドウ、すなわち野生のブドウが入荷するのは札幌の短い夏が終わろうとしている8月の半ば頃です。この枝物は栽培されているわけではなく、ヤドリギなんかと同様に「山採り」と呼ばれる業者がこ

の季節、文字通り山から採ってきます。

 

この「山採り」。花屋にとってはとても貴重な存在で、ブーケや花飾り、そして店の雰囲気は、彼らのおかげで季節感と自然さを得ることができます。なんでも、フランスには、フォイヤジストと呼ばれる葉物や枝物を提供する業者があるそうで、「山採り」はまさに日本のフォイヤジストでありましょう。

 

ちなみに、今年はそんな「山採り」による山ブドウで直径約30センチのリースを作ることにしました。名付けてバッカスのリースで、おひとつ、¥3,150。壁に掛けて飾るのも良し、頭にのせてワインを楽しむのも可笑し。まあその出来栄えは今月下旬の店頭にて。(2012.8)

 

 

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【ブーケを飾るガラス器】

 

以前、「こういったスパイラルブーケを飾るのに適当な器はどこで売っていますか?」といったご質問をよく受けました。探してもなかなか見つからないという話なので、私も探してみたところ、口が細かったり、高さがあったり、模様があったり、円柱でなかったり、高価だったりと、たしかにありません。

 

そこで、ちょうど1年前にやっと見つけたのが、写真のガラス器です。直径9センチ、高さ20センチは、レッスンで作るブーケはもちろんのこと、たいがいのブーケを飾るのにはぴったりで重宝します。ブーケを飾るガラス器は、おひとつ、¥1,050。手ごろな価格も大切でした。

 

もっとも、こういった器が必要だというのも、近頃は、自宅にブーケを、それもスパイラルブーケを飾る人が増えてきたということでありましょう。花の組み合わせや、花器とのバランスを考えて活けるのとは違って、ブーケにはポンと飾るだけで部屋の雰囲気が変わる手軽さがありますものね。(2012.9) 

 

 

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【枝葉のブーケ】

 

申すまでもなく、この店で束ねられるブーケの約8割は白と緑の色合いですが、次に多いのは、緑だけの組み合わせです。枝葉のブーケといった方が良いかもしれません。写真のように、ドングリとユーカリをたっぷり束ねることもあれば、イネ科の植物をちょっとアクセントに加えることもあります。

 

また、テマリシモツケのような銅葉色などもこのブーケにおいては大切な要素で、緑の濃淡だけで束ねる場合とは違った趣になるというもの。いずれにせよ、少し控えめながら、自然が溢れるように作るのが枝葉のブーケの特徴です。

 

もっとも、花らしい花をあえて用いませんから、このブーケ、派手さからは遠ざかります。でも、枝葉というのは季節に正直ですし、長く楽しめるものです。ちなみに、美しい枝葉は花の少なくなる秋から冬に充実しますから、枝葉のブーケは今が旬なのであります。(2012.10) 

 

 

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【私のリース作り】

 

何だか、雑貨や工作のように思えて、リースぎらいで通っていた私が、どういう風のふきまわしか、このところ、気軽にリースを作るようになりました。一昨年のクリスマスのリースに始まり、今年に入ってからは、月桂樹、ミモザ、時計草、山葡萄、豆柿でも作り、自分でも「ほぉ」と驚いてしまいます。

 

柳などを環状にした土台に、鳥が巣を作るように、枝葉を絡めて仕上げる私のリース作り。むろん、針金や接着剤などは使いません。そのため、ブーケのごとく立体的に仕上がります。作家の荒俣宏さんは、現代の花束は古代ローマのリースが起源と指摘していましたが、なるほど、リースもブーケの一種なわけです。

 

この冬は、モミやネズの枝葉などでクリスマスのリース、さまざまなユーカリによるリース、松やナンキンハゼの白い実を使ったお正月のリースを作ります。また、リースを主役にした舞台飾りを行うなど、私のリース作りは、どうやら、しばらく続きそう。(2012.11)

 

 

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【お正月のリース】

 

数年前から、年末に実付きのオリーブが出回るようになり、この冬初めて作ってみたのがお正月のリースです。環状にした小豆柳を土台に、譲り葉、シースター、オリーブ、南京櫨を、鳥の巣のごとく立体的に絡めます。そして、大王松の葉を、現代風フランス料理の一皿を思い出して盛り付ければ完成です。

 

伝統的な縁起植物と、その植生から導き出した松とオリーブの組み合わせは、仄かにお正月や地中海の初日の出が感じられます。南京櫨の白い実も愛らしくて、これなら、七草粥を食べた後でも、しばらく飾って楽しめそう。おひとつ、¥3,800(直径約28センチ)。

 

さて、ミニ大通りに根を付けて5年が経ちました。皆さまには感謝の気持ちでいっぱいです。来年もどうぞ宜しくお願い致します。

 

えっ、先日このリース作りのレッスンで、見本製作を失敗したって?そんな事はいいっこなしよ。(2012.12)