2008-12-01 11:30:00

ミニ大通の並木から 2007、2008

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【ヒヤシンスの鉢植え】

 

ヨーロッパの夏の窓辺を飾るのがゼラニウムの鉢植えならば、冬の部屋を彩るのがヒヤシンスの鉢植えです。その強い香りは好き嫌いもありますが、水耕栽培で育てた経験のある私たちにとっては、馴染み深い花でありましょう。

 

写真は私がこの時期に作るヒヤシンスの鉢植えです。大山木の葉で包んだ鉢に球根が少し見えるようにヒヤシンスを1本飾り、苔をあしらいます。こうすれば、花がしっかり支えられ、土も隠せるというわけです。

 

もっとも、このようなヒヤシンスの鉢植えはヨーロッパの花屋ではよく見掛けられます。フランスの花の本に「ヒヤシンスは鉢植えに1本が最も美しい」とあったのも納得です。

 

ちなみに、このヒヤシンスの鉢はクリスマスの頃に蕾であれば、新年にちょうど咲いてきます。年末年始のちょっとした贈り物にも最適です。(2007.12) 

 

 

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【ろうそくの花器】

 

2001年の春、「花器の提案」というギャラリーの企画展に参加することになって制作したのがろうそくの花器です。パラフィンろうを型に流し固めて作りました。

 

花器の形は大きさの異なる4種の四角柱。花や枝葉を飾る実用性と、積み木のように積み重ねて使うことを考えました。また、規則的な形だと手作りならではの歪みがより明確となります。プラリネのチョコレート、とまではいかなくても、ひとつひとつ微妙に違うのがこの花器の愛らしいところ。

 

もっとも、湯煎に掛けたり、時間と温度によって仕上がりが変わるなど、その作業はチョコレート作りと似てなくもありません。

 

先日、あの時の展示で買ったというお客様から、また作ってほしいと依頼を受けて、再び作り始めたろうそくの花器。注文をいただいたことはもちろんのこと、ずっと使ってもらえていたことが嬉しくて嬉しくて。おひとつ¥1,785(小)からの受注製作ですが、店頭にも今は少しだけ並んでいます。(2008.1)

 

 

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【「四月の花器」を使ったレッスン】

 

写真は先日のレッスン、「四月の花器」を使ったデコレーションで見本に作ったものです。チューリップとヒヤシンスの花に、ネコヤナギ、ロウバイ、ユーカリの枝葉を飾り、アクセントにレモンを添えています。

 

この「四月の花器」に花や枝葉を飾ることで、花と器のバランスや色合わせのコツが良くわかります。もちろん、花器はレッスン時にこちらでお貸ししていますので、「4月の花器」をお持ちでなくても、レッスンにご参加いただけますのでどうぞご安心を。

 

ちなみに、「四月の花器」にはパリの花屋クリスチャン・トルチュが一目見て50個注文したとか、ポンピドゥー・センターのコレクションになっているとか、私も12年間愛用しているといったエピソードがあるわけですが、一度この花器を使ってみれば、さもありなんと納得されることでしょう。(2008.2)

 

 

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【クロッカスの鉢植え】

 

花はその種類によって、切り花やブーケとして楽しめるもの、庭で眺めたり鉢植えとして楽しむべきものがありますが、切り花にはあまり向かないクロッカスの花はまさに後者でありましょう。春が近づくと私は写真のように白いクロッカスを少し小振りのテラコッタの鉢に飾ります。

 

テラコッタとはイタリア語で焼いた土というほどの意味ですから、クロッカスのように背丈のない大地との距離が近い植物には良く似合います。たしかイギリスの花屋ジェーン・パッカーの言葉だったと記憶しますが「テラコッタは土を連想させる」というわけです。

 

クロッカスの花は、ヨーロッパではかつて結婚式に飾る習慣があったように、始まりの象徴でもあります。庭で群生する美しい姿も素敵なものですが、この小さな一鉢が部屋の中に春を運んでくれることでしょう。おひとつ¥660、3月が旬です。(2008.3)

 

 

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【スズランのブーケ】

 

ご存じの方も多いと思いますが、5月1日はスズランの日といって、この日にスズランを手にした人にはその1年、幸せが訪れるといいます。フランスではスズラン売りが街に現れるようで、街で売るスズランを早朝の森で摘む場面がある映画は「クリクリのいた夏」だったでしょうか。

 

写真は今から10年ほど前に作ったスズランのブーケです。ちょうどアジアンタムの葉を添え始めた頃で、現在よりも少し控えめではありますが、スズランのブーケは昔からこんな雰囲気で作っています。もっとも、当時はスズランの日を知る人も少なく、毎年買いに来てくれたのは忍路のパン屋さんぐらいだったでしょうか。

 

さて、今年のスズランのブーケはレッスンに併せて4月29日(火)から店頭に並びます。写真より小さい束なら、おひとつ¥1,890。今年も幸せが届きますように。(2008.4)

 

 

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【ブーケ・マリアローザ】

 

母の日は日本では5月の第2日曜日ですから、私が毎年、母の日に作るブーケはもっぱら薔薇が主役です。北海道で栽培された薔薇がちょうど出回り始める時期でもありますし、申すまでもなく、薔薇はスパイラルブーケに適した花でもあります。

 

また、シャクヤクが「山の薔薇」と呼ばれることや、スノーボールのように学名に薔薇の意味であるロゼウムと付いた花が多くあることからも、薔薇がしばしば美しさの比喩となっていることが判ります。ヨーロッパで母の日に薔薇を贈るのも、そのためかもしれません。

 

表題にあるマリアローザとは、5月にイタリアで3週間開催される自転車ロードレースの勝者が着用するローズ色のジャージ名で、5月の薔薇のブーケを私は勝手にこう呼びます。200人の集団が自然の中を走る自転車ロードレースもまた薔薇のように美しいもの。とまあ今年も私の5月は薔薇でいっぱい!(2008.5) 

 

 

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【ブーケ・シャンペトル】

 

オート麦などの禾本科植物が出回り始めると、ブーケ・シャンペトルの登場です。シャンペトルとはフランス語で「田園の」というほどの意味で、パリの花屋で見かけるブーケの一つで、シャスタ・デージーやスカビオサ、リシアンサスといった田園に咲く背丈のある花がよく似合います。

 

また、ブーケは小さくまとめず、抱えるほどの大きさで仕上げた方がより田園の雰囲気になりましょう。もっとも、このブーケには田舎で摘んだ雑草を組み合わせるやり方がありますが、私は様々な経験から、近年は花市場で手に入る栽培されたもので作ることにしております。

 

写真は2年前の夏に作った花嫁のブーケ・シャンペトルです。花の茎もオート麦で包みましたから、麦を100本は使ったでしょうか。きっと花嫁が歩くたびに、カサカサと麦の祝福の声が聞こえたにちがいありません。(2008.6)

 

 

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【ラベンダーのブーケ】

 

夏のテーブル飾りに重宝するこのラベンダーのブーケ。白と緑のブーケしか作っていなかった以前の花屋「レ・フルール」でも作っていましたから、見覚えのある方もいらっしゃるでしょう。誰でも簡単に作れるブーケですから、ここでその作り方をご紹介いたします。

 

材料は、乾燥したラベンダーが400本と、直径5cm、高さ12cm程の円筒型グラスです。作り方は、両面テープを使ってグラスのまわりをラベンダーで覆います。この時、花の高さを揃えることが大切で、しっかりと覆ったら後はラフィアで縛って完成です。

 

もうずいぶん昔、パリの花屋が作っていたのを、見よう見まねで作り始めたこのブーケ。ラフィアを2箇所縛るのが私のゆずれないところ。今年も7月下旬から私が作ったものが店内に並びます。おひとつ,¥4,200。予約も承ります。(2008.7)

 

 

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【日々、ブーケを作り置くこと】

 

ヨーロッパの小さな花屋を見習って、開店以来、日々、ブーケを作り置いています。いわば、見本ともなる本日のブーケといったところですが、小さな花屋にとっては、品揃えや店飾り以上に、出来上がったブーケがその店を知る指標となるからです。

 

たとえば、こういう色合わせをするのかとか、季節の花で勝負しているのかとか、流行にとらわれず田舎風の仕上げなのかとか、夏は殺菌作用があるミントを加えているのか、といったその店ならではの考えも、ひとつのブーケから読みとれます。

 

ちなみに、私が作り置くのは白い花のものと、写真のように季節がもたらす色のもので、この日はモーブ色のリシアンサス(トルコギキョウ)のシャンペトル風ミント添え。イギリスの庭師の服を連想させる上品な夏の色合いは、グラインドボーン音楽祭にも持って行けそうでしょ、皆さん!(2008.8)

 

 

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【果実が入ったブーケ】

 

ハプスブルク家の宮廷画家、アルチンボンドの『四季』は人間の横顔を植物で組み合わせた肖像画です。春は花、夏は禾本科植物や野菜、秋は果実、冬は枯れ枝や常緑樹で描いています。マニエリスム時代の嗜好として、私たちの四季のイメージを追い求めた結果というわけです。

 

9月に入れば、色付き始めた姫リンゴ、木イチゴ、山ブドウ、千成ホオズキ、ククミスの果実が夏の間はちょっと退屈だった店内に、自然の楽しさを思い出させてくれます。そのまま器に飾ってもガラス皿に並べるだけでも絵になる果実は、自然から私たちへの秋の贈り物というわけです。

 

誕生日、発表会、敬老のお祝い、結婚記念日、送別会、招かれた時の手土産、ツール・ド・北海道の表彰式。この時期のブーケに果実が入っていれば、贈られた人はきっと喜ぶに違いありません。(2008.9)

 

 

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【マグノリアのリース】

 

マグノリアの葉を土台に巻き付けて、花や針葉樹を飾ったりするのが、私が唯一作っているリースです。ご覧のように、マグノリアの葉は枝で固定して、試験管は枝に引っ掛け、針葉樹は巻き付けた葉の隙間に差し込みます。つまり、接着剤やワイヤーなど不要で出来上がります。

 

もっとも、リースはプリニウスの時代では贈り花であって、今日でいうブーケのようなものでした。いわばマラソン選手に贈られる月桂樹や夏至祭のツェッペルのように、素材を束ねたり重ねたりして、自然な雰囲気で作る事が大切というわけです。

 

写真は、実際にバレエの発表会に届けたもので、ユーチャリスの花を飾って仕上げました。壁掛けにもテーブル飾りにもなるこのリース。今年は10月下旬より店頭に並びます。ちなみにここでいうマグノリアは大山木。東京の原美術館そばに大きいのがあったなあ。(2008.9)

 

 

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【ネズの入荷】

 

店の近くにある近代美術館のヤドリギが現れるようになれば冬の始まりです。季節の花が少なくなるこれからの季節、ブーケの主役はむしろ常緑樹なのかもしれません。

 

実の成る木蔦やミルト、個性的な蕾を付けるユーカリやスキミア、暖かみを感じるモミやヒバなど、その多くは野山からの収穫で野趣に溢れ、初冬のブーケには欠かせない存在です。花材のジビエとでもいいましょうか。

 

中でも楽しみなのは、イタリアの魔女除けのお守りとして、グリム童話として、ビョークの映画として、あるいは、蒸留酒ジンの香り付けとして私たちに馴染み深い西洋ネズの枝葉が、この時期に少しだけ入荷することです。

 

写真は、房咲き水仙と常緑樹を束ね、フェネスサカモトの音楽を聴きながら、ネズの入荷を待ち望む11月、冬の朝。(2008.11)

 

 

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【ミニ大通りの花屋】

 

静寂な冬の並木。小鳥のさえずりがBGMとなる春の並木。木漏れ日が気持ち良い夏の並木。ヒメリンゴやクルミが賑わう秋の並木。ミニ大通りを眺めながら、ブーケを作り始めて一年が経ちました。

 

はたしてこの一年、「森の中でこっそり咲く花を見つけたような気分」の花屋になっていたのかどうか心配ですが、おかげさまで二度目のクリスマスを迎えることができます。有り難うございました。

 

写真は、エゾ松やネズが店内を包み、キャンドルの灯とクリスマスローズの鉢植えが暗闇に浮かぶ、12月のミニ大通りの花屋です。

 

えっ、ヤドリ木が飾られてないって?そんなこと言いっこなしよ。

 

来年も宜しくお願いいたします。(2008.12)