2015-12-01 11:30:00

ミニ大通の並木から 2015

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【ベビーティアーズについて】

 

属名のソレイロリアは、プラントハンターの名前にちなみますが、私たちに馴染み深い呼び方は、世界一小さな花が咲くことから名付けられた、ベビーティアーズでありましょう。コルシカやサルディーニャといった地中海の島に自生していたこの常緑つる性植物は、その若草色が春の訪れを感じさせてくれます。

 

この写真のように透明なガラスの器に入れると土の色が引き立って緑がより美しい姿です。また、透明なガラスだからこそ、水やりも、土が乾いたら湿らせれば良く、管理の点からもこれが最適な仕様であることはいうまでもありません。おひとつ、¥830。

 

ちなみに、イタリアではこの植物の育て方を表すかのごとく「ほったらかす」、イギリスではその緑を称えて「アイリッシュ・モス」というようです。ひとつの植物に様々な名前がある場合、それだけ多くのひとびとに愛されている証でもあります。(2015.2)

 

 

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【春の訪れ】

 

香りの良い、異なる3種のピンク色のバラと、ミモザ色、杏色、桃色のチューリップ、桜色のスイートピー、若草色のスノーボール、豆の花、ローズゼラニウムを束ね、ハランを巻いた器に、クラリネビウムの葉を一緒に飾ったこのブーケ。

 

実は先日、東京で開催された、クリスチャン・トルチュのレッスンで私が製作したものです。ガラスの器に葉を巻いて花器にする事。花と葉を螺旋状に束ねる事。季節感を考え、自然な技術、雰囲気で仕上げる事。その全てがこのブーケに詰まっております。

 

今から24年前、私はこういった彼の新しいブーケに衝撃を受け、花の世界に引き込まれました。でも、直接指導を受けたわけではない、いわゆる独学なので、いつか本人に自分が作ったブーケを見てもらいたいと思い続けていたわけです。その夢がこの日、やっとかないました。私の心に春が訪れたのです。(2015.3)

 

 

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【母の日に作るブーケ】

 

母の日にブーケを作るのは、今年で25回目になります。籠に盛ったフラワーアレンジメントから始まって、給水スポンジを用いずにスパイラルブーケを作るようになり、その器も葉で覆い、器付ブーケの形に落ち着いたのが、今から20年ほど前。

 

また、そのブーケも、スズランを提案した時代もあれば、蕾のシャクヤクを使って咲かなかったり、アスパラを器に巻いて萎びさせてしまったり、1種類の花と緑だけで寂し過ぎたりと、失敗が無かったとはいえません。

 

でもそのような経験があったからこそ、母の日に作るブーケは、季節の素材で美しく作るのはもちろんのこと、貰って嬉しくなるようなものに仕上げられるようになりました。もっとも、このようなロゼット咲きのバラであれば、誰が手にしても喜ばれることでしょう。(2015.4)

 

 

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【シャクヤクについて】

 

ヨーロッパの花屋がシャクヤクを「5月のバラ」と呼ぶように、5月に入るとこの花はバラ以上の美しさと華やかさで私たちを楽しませてくれます。中でも私のお気に入りは、花弁の多い八重咲きの品種です。たとえば、この写真のようにバラに少し加えて束ねますと、とてもエレガントなブーケに仕上がります。

 

フランス風にピヴォワンヌといえば、ギリシア神話の医薬神パイアンがその語源であることに気が付きますが、芍薬とも書くように、この花は西洋でも東洋でも古くから薬草として用いられてきました。もっとも、5月の花屋にとっては、人の心をときめかす薬草といったところでしょうか。

 

ちなみに、退廃する貴族を描いたルキノ・ヴィスコンティの映画「山猫」では、満開のシャクヤクがクローズアップされる場面が出てきます。その花弁がもうすぐ散ってしまう、華やかさと儚さを併せ持つのも、この花の魅力です。

(2015.5) 

 

 

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【デルフィニウムについて】

 

ギリシア人は蕾の形からイルカを示すデルフィン、イギリス人はヒバリの蹴爪というほどの意味のラークスパー、日本では飛燕草という具合に、この花には様々ないいまわしがありますが、私の感覚にぴたりと一致するのはフランスでの花ことば「野原のよろこび」です。

 

この写真のように、ヴェロニカ、オルラヤ、グリーンミスト、ワイルドオーツと束ねれば、夏の日差しを浴びた田園が手の中で出来上がります。いい換えてみれば、このシャンペトル風の素朴なブーケそのものが「野原のよろこび」ともいえましょう。

 

もっとも、農事歴では、郭公が鳴くと種を蒔く季節といいますが、花屋ではデルフィニウムがちょうど出回り始めます。郭公が鳴いたら田園風のブーケの始まりというわけです。ちなみに、この花は秋の草花と組み合わせても、また素敵なブーケに仕上がります。(2015.6)

 

 

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【亜麻について】

 

アンデルセンの童話にも「亜麻のこころ」というのがあるように、この花はヨーロッパの北国で昔からリネンや紙を作るべく栽培されてきた植物で、「最上級に有用な」というほどの意味の学名がついています。また、強く成長する植物であることから、病や悪魔を退ける活用の仕方もありました。

 

ただ、切り花には向いておらず、亜麻を楽しむとすれば、地植えか、この写真のように、苗を柳で編んだ籠などに入れて飾るのが最適です。花色は青が多いのですが宿根だと白も見つかります。もっとも、亜麻色に乾燥させてリースにしても素敵でありましょう。

 

ちなみに、私の住む北海道でも亜麻は身近な植物で、美しい亜麻畑が広がる当別町では毎年7月に亜麻まつりが開催されています。札幌から自転車で1時間。ツールドフランスをテレビ観戦して気分が高まったら、夜明けとともにさあ出発です。(2015.7)

 

 

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【リースあれこれ】

 

プリニウスの時代であれば、リースは今日でいうところのブーケのような存在でありましたから、その組み合わせ方や花材については、乾燥後の事を考える必要があるにせよ、決まりがあるわけではありません。とりわけ、緑の移ろいを楽しむようなものであれば、あれこれできるというわけです。

 

写真は、最近作りおろした10種類のリースになります。これは作家さんからのご依頼品で、木彫の動物と組みわせて展示する趣向だった事もあり、どれもが一点物でありました。テーマに沿って、ボマルツォのバロック庭園を妄想して仕上げたわけですが、そのほとんどが初めて作ったものばかり。

 

中にはビギナーズラックな出来栄えがあった、というのはここだけの話として、時には「視界を遮る生い茂った緑」とか「静寂と危険な気配」といったお題をいただき、考えて作るリースもまた新鮮な喜びがございます。

(2015.8)

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【アナベルについて】

 

アジサイの仲間であるアナベルは、北アメリカ原産の落葉低木、アメリカノリノキの園芸種です。手毬状に付けた花房は日本のアジサイに良く似ておりますが、茎は細く葉も薄いので、その違いはすぐにわかるかと思います。私の住む北海道では、夏から秋の庭や公園でも最近はよく見かけるようになりました。

 

このアナベルの魅力はその花色と花姿です。花色は蕾から咲き進むにつれて、緑から白に、白から再び緑に、そして緑から赤茶へという具合に変化していきます。また、乾燥した花姿も綺麗ですから、リースを作って楽しむというのも素敵な考え方でありましょう。

 

写真は、ちょうど1年前のレッスンで、八重咲きのアナベル「スターバーストグリーンホワイト」で束ねた田園風のブーケです。たしか、この日は即興でテーブル飾りも実演しました。アイビーとククミスを加えて仕上げた緑のマリアージュ、といった雰囲気で。(2015.9) 

 

 

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【秋バラについて】

 

バラの切り花が美しい時期は年に2度訪れます。ひとつは、春の終わりから7月にかけ一番花は、大輪なものが多いのが特徴です。そしてもうひとつは、本格的に秋が始まる10月頃で、秋バラという言い方をします。

 

その特徴といえば、初夏のものと比べて花が一回り小さい分、寒暖差によって色合いがはっきりしている印象です。紅茶でいうところの、セカンドフラッシュ、あるいはオータムナルというわけで、深い味わいがありますから、バロックブーケのように、多種の花材を束ねるには好都合になります。

 

中でも、私がもっとも手にする品種はシェドゥーブルで、その名の通り、白いバラの中では「傑作」です。微香ではありますが、花弁の多さや、クラッシックな咲き方はとても気品が溢れています。この写真のように、秋の果実や草花と合わせますと生きた17世紀のオランダ絵画が楽しめるわけです。(2015.10)

 

 

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【ナンキンハゼのリース】

 

ナンキンハゼは、私の住む北海道では馴染みが薄い樹木の為、美しい新緑や紅葉については写真でしか知りません。けれども、晩秋に市場に僅かながらに出回る、茶色い実が裂けた後の、蝋を含んだ白い種の姿でしたら身近な花材です。

 

この写真のように、土台にしたウンリュウヤナギに、鳥の巣のように絡めて作るナンキンハゼのリースは、私が作るリースの中で、もっとも長く楽しめることでしょう。なぜなら、葉や実で作るリースとは異なり、この硬質な白い種は乾燥しても大きな変化がなく、四季を通して楽しめるからです。

 

直径約35センチのナンキンハゼのリースは、おひとつ、¥8,640。数が限られる為、ご予約のみの販売になります。因みに、漢字では南京櫨と書きますが、南京には珍しいもの、小さくて可愛いものという意味があるようです。

(2015.11)

 

 

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12月【スワッグについて】

 

スワッグとは、「花綱飾り」というほどの意味で様々な形状がありますが、ここで、ご紹介するのはブーケを逆さかに吊るしたような作り方です。写真は、クリスマス向けに仕上げたものですが、少し立体的なことに気づかれたでしょうか。

 

実は、これもスパイラルブーケになっていて、枝葉を螺旋状に束ねる事で、自然な雰囲気の壁飾りに仕上がります。おひとつ、¥5,400。

 

さて、おかげさまで、ミニ大通りに根を付けて8年が経ちました。皆さまには感謝の気持ちでいっぱいです。来年もどうぞ宜しくお願い致します。

 

えっ、最近のレッスンでは、元ラガーマンとして、花よりもラグビーの話ばかりしてるでしょうって?まあ、そんなことはいいっこなしよ。(2015.12)

2014-12-01 11:30:00

ミニ大通の並木から 2014

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【アネモネについて】

 

アネモネは、ギリシア神話だと美少年アドニスとして、聖書では野の花として登場する地中海原産の植物で、昔から人びとに愛されている花のひとつです。とりわけ、フランスでは16世紀にトルコから輸入する以前から栽培が盛んで、さまざまな園芸種が存在します。

 

中でも、マリアンヌ種のパンダは、芯が黒く、緋色がかった蕾が特徴の白花で、私が最も好むアネモネです。かつては冬のパリの花屋でしか見かけませんでしたが、近ごろでは、北海道産も市場に出回りますから、もうパリの花屋をこの時期羨ましく思う必要がないというもの。

 

この写真のように、大葉のユーカリとモクレンでブーケは簡素に仕上げるのが定石です。ちなみに、ロシアのソチから520km離れたアルメニアの国花がアネモネであることは、あまり知られておりません。(2014.2)

 

 

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【ヘレボラスについて】

 

近年、雪どけとともに札幌の花屋を賑わすようになったフェチダスは、いわゆる有茎種のヘレボラスです。同類でクリスマスローズと呼ばれるるニゲルや、春咲きのオリエンタリスよりも、このフェチダスは切り花として長く楽しめることも人気の秘密でありましょう。

 

写真は、ちょうど1年前のレッスンで作った「早春の庭から」をテーマにしたブーケです。スノードロップやフリチラリアとともに、セラドングリーンの葉に萌黄色をしたフェチダスの花姿が、私たちに春の喜びを教えてくれます。

 

ちなみに、旅帰りのお客さまによれば、先日、黒いマリアで名高いスペインの岩山モンセラに登ったところ、野生のフェチダスが咲いていたそうです。これは旅に行かねばなりません。ちょうどこの山の麓では自転車のレース、カタルーニャ1周もあることですしね。(2014.3)

 

 

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【スノーボールについて】

 

申すまでもなく、アネモネやミルトなど、私たちが良く知る自生植物の多くは、ギリシア神話や聖書などに登場するわけですが、スノーボールの花は17世紀フランドルの画家たちが描くまで待たなければなりません。それもそのはず、このアジサイに似た手鞠花は、バロック時代に生まれた花卉植物なわけです。

 

いわんや、ブーケに適した花でありますから、ラナンキュラスやチューリップといった春の花とは美しく調和します。また、花色も素敵で、その若草色は、まるで雪の中から顔を出したふきのとうのように、春の目覚めを感じることでありましょう。

 

「光を意識してスノーボールを選ぶ」とは、シャンペトルブーケの先駆者で、フランス・ノルマンディー出身の花屋、カール・フューシュがいった言葉ですが、北国に住む私の春の心には良く響きます。(2014.4)

 

 

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【薔薇について】

 

私がこの仕事を始めた当時、花屋の薔薇といえば、剣弁咲きの、微香でしっかりした茎のものが主流で、どこか人工的な印象がありました。これは、挿して美しい、フラワーアレンジメント向きの品種が多かったからであることは、いうまでもありません。

 

それが、21世紀になりますと時代は変わって、束ねて美しい、ブーケ向きの品種が数多く栽培されるようになってきたました。ルドゥテが好んで描きそうな花姿のシェドゥーブル、ミルラ香のフェアビアンカなど、最近は、束ねても、贈っても、貰っても、飾っても、嬉しくなる薔薇が身近になっております。

 

中でも、この写真のピンクイブピアッジェは、詩人サッフォーが喜びそうなダマスクの強い香りが素晴らしい。手にしただけで、ローズガーデンを散策している気分になりましょう。もっとも、あなたが自転車乗りであれば、5月はこのローズ色にもときめくはずです。(2014.5) 

 

 

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【アジサイについて】

 

夏の暑い時期でも、長く楽しむことができるアジサイは、この写真のように、旬のブルーベリーの枝葉などと束ねれば、素敵なブーケが簡単に出来上がります。中でも、白や緑色の切り花向けの品種は、部屋の中はもちろんのこと、私たちの心までも涼しくしてくれる一品です。

 

学名のハイドランジアには、水の容器といった意味があるようで、もうずいぶん昔、ルキノ・ヴィスコンティが、水の都ヴェニスの街を舞台にした映画を撮った時、この花を象徴的に登場させていたのも、そういった理由があるからにちがいありません。

 

もっとも、フランス語でいうオルタンシアが、ラテン語で庭を意味するホルトゥスという言葉が語源だと知れば、この日本生まれの花が、18世紀ヨーロッパに伝わり、庭園で愛され、西洋で盛んに品種改良されてきたということは容易に想像できます。(2014.6)

 

 

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【ラシラスについて】

 

スイトピーの仲間で、蔓にいくつもの花が付いてこの季節に出回るラシラスは、枝スイートピー、宿根スイートピー、サマースイートピー、ペレニアルピー、連理草など、花屋によってその呼び方は様々ですが、私はイギリスのガーデナーのように学名のラシラスと呼んでいます。

 

ラシラスは古代ギリシアのテオフラストスの薬種書にマメ科の植物の名として登場するように、園芸植物というよりも、野原に自生していた薬草です。だからブーケにする場合は、野原のスイートピーといった趣で束ねると素敵になりましょう。

 

もっとも、「四月の花器」をお持ちであれば、この写真のように、ブルーベリー、ブラックベリー、アネモネ・バージニアニ、グリーンスケールを飾れば、北方の夏が出来上がります。ちなみに、夏の北海道の浜辺に咲くハマエンドウもラシラスの仲間です。(2014.7)

 

 

 

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【ラベンダーについて】

 

ラベンダーをブーケにして楽しむと考えた時、私の念頭に浮かぶのは次の二つです。一つは、ラバンティ系のラベンダーが生育する、地中海沿岸の石灰岩の多い温暖で乾燥した地域を妄想した、オリーブやネズ、ローズマリーなどと束ねるプロヴァンス風のブーケ。

 

そしてもう一つは、この写真のように、私の住む北海道で栽培される寒冷地向きのアングスティフォリア系のラベンダーを、乾燥させて作るテーブル飾りです。この系統は香りが強くドライフラワーには最適とされ、中でも色が鮮やかな「濃紫3」という品種を使って仕上げています。

 

ちなみに、向かって右側は定番のタンバル、左側は新作の器付です。これは、ちょうど一月前、上富良野町の日の出公園から十勝岳温泉まで自転車に乗った時、沿道に続くラベンダーと白樺の対比が美しく、ちょっと閃めいて仕上げてみたというものです。(2014.8)

 

 

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【クレマチスについて】

 

ギリシア語で葡萄の枝というほどの意味クレマを語源とするクレマチスは、夏と秋が旬の蔓植物です。日本では「鉄線」とも呼ばれますが、イギリスでは「旅人の喜び」といって旅宿に植える風習があります。種類も豊富で、ブーケにする場合それぞれの特徴を見極めて束ねなければいけません。

 

たとえば、1本の蔓に花が沢山ついているものは、アジサイに絡めながら束ねると上手くまとまります。それから、花が小さい品種でしたら、可憐なバラと組み合わせても素敵でしょう。もっとも、この写真のように直立性で大輪の八重咲きの場合は、田園風に仕上げることで秋の月夜と楽しむことができます。

 

一方、北海道ではこの時期、白い小さな花を付けた仙人草を見かけますが、こちらは日本原産のクレマチスです。秋色のアジサイや白いバラなどと組み合わせますと、上品で洗練されたバロックブーケが出来上がります。(2014.9)

 

 

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【ダリアについて】

 

ふた昔前に、ダリアといえば、フラワーアレンジメントに不向きな過去の花として、市場にはあまり出回っておりませんでした。たしか、その当時手に入ったものは、北広島市の生産者が作る、蕾付の白いポンポン咲きの品

種ぐらいでしょうか。

 

それがここ数年、さまざまな品種のダリアが花屋に並ぶようになったわけですから驚きです。これは、最近束ねて美しいブーケを作る花屋が増えてきたということもありますが、やはり、この写真の「黒蝶」が21世紀になって登場したことによって、ダリアの魅力が見直されたのだと思います。

 

もっとも、この新品種が秋田県にあるダリア園で生まれ、世界中に広まったというのもさらなる驚きです。それは、日本の育種家が花屋の潮流までも作ったことも意味します。その華やかなボルドー色は私たちが求めていた新しい秋の花だったというわけです。(2014.10)

 

 

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【マルメロとマグノリアについて】

 

花の少ない季節になっても、自然の楽しみ方はまだございます。たとえば、この写真の左、マルメロを飾ってその良い香りに気分をよくするというのも晩秋ならではです。ヴィクトル・エリセの映画「マルメロの陽光」で主人公が毎年秋になるとマルメロを描いたように、私はこのアラブの果実を並べております。

 

もっとも、しばらく飾ったマルメロは、ポルトガル人のごとく、皮を剥いて煮詰めれば、いわゆる本来のママレードが出来上がりますし、ローマ人のように、入浴時に楽しむというのも素敵な行いでありましょう。心も温まるかもしれません。

 

それからもう一つ、この写真の右、ガラス器に巻いている葉がマグノリアです。その葉の裏はスエードの調な質感と薄茶色で、美しく乾燥しますから、自然素材の花器としても重宝します。秋から春までのブーケを飾る器としてぴったりなので、この時期には欠かせない枝葉です。(2014.11) 

 

 

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【お正月のタンバル】

 

松葉を巻いたガラス器に、新芽が赤く染まるメラレウカ、山シダの仲間シースター、そしてシクラメンを加えれば、昨年から作り始めた「お正月のタンバル」の完成です。

 

ソロモンの冠という呼び方があるシクラメンを、私が決まって松と組み合わてブーケに仕立てるのは、この花が冬の地中海沿岸地域の松林、とりわけ、アレッポ松の下に自生するからだというのはここだけの話。おひとつ、¥3,240。

 

さて、おかげさまで、ミニ大通りに根を付けて7年が経ちました。皆さまには感謝の気持ちでいっぱいです。来年もどうぞ宜しくお願い致します。

 

えっ、今年は趣味の自転車レースで初めて表彰台に上ったものの、その後、調子にのって挑んだツールド北海道では転倒してリタイヤしたでしょうって?まあ、そんなことはいいっこなしよ。(2014.12)

2013-12-01 11:30:00

ミニ大通の並木から 2013

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【ラナンキュラスについて】

 

17世紀に、冬でもバラのような花がほしいと湿地の国オランダで品種改良されたのがラナンキュラスです。すなわち、この花をバラと見間違えてしまうのはもっともな話で、ヨーロッパでは、冬のバラ、花屋のバラという呼び方があるといいます。

 

旬のキヅタやビバーナムと束ねれば、これぞ冬のパリのブーケという感じですし、色が豊富なのも大変よろしい。冬から春にかけて、私がいちばん多く束ねている花かもしれません。また、この写真のように花嫁には、スノーボールとともに結婚の象徴であるアイビーで結べばとても素敵です。

 

ちなみに、ラナンキュラスは、蛙を意味するラテン語ranaに由来します。これは、この花が蛙と同様の生育地を好むからですが、だからなのか、まだパリ7区にあった頃のジョルジュ・フランソワの店には、この花の側に決まって蛙の彫刻が飾られていたものです。(2013.1)

 

 

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【ミモザのリース】

 

北国に住む人びとにとって、暖かい地域で育つミモザは異国の木といえます。だから、この花が庭に咲いて、春を感じるといった経験が私にはありません。けれども、その明るい黄色を雪の降り積もる季節に目にした時は、春が近づいて来たなと感じます。

 

ミモザという名は、その葉が似るオジギソウからついた一般名で、正確にはアカシア属の花のことです。その中で、ハナアカシア、ギンヨウアカシアを私たちはこう呼んでいます。花屋では1月下旬から4月頃に入荷するでしょうか。ブーケにするなら、同じオーストラリアが原産のユーカリと束ねます。

 

むろん、リースにしても素敵です。いつものように、環状にしたヤナギに、鳥が巣を作るように絡めて仕上げます。ミモザは木の花ですから、小さく作らず30センチほどの大きさで仕上げたいものです。おひとつ、¥3,150。ちなみに、イタリアで3月8日はミモザの日。この春の環が黄金色に輝きます。(2013.2)

 

 

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【還暦祝いのブーケ】

 

還暦は、いわば誕生日のお祝いです。したがって、束ねる花は季節のもの、華やかな八重咲きで作るのが一番で、夏と秋はバラ、冬と春はラナンキュラスを束ねます。色合いは、この写真のように、ボルドー色を用いて作るのが最近の傾向です。

 

むろん、私が多く作る白と緑の色合いでも良いとは思うのですが、還暦祝いのブーケは一生に一度、熟成した大人が手にする特別なもの。ボルドーワインのような花色で、エレガントに祝福されるというのも素敵ではないでしょうか。

 

もっとも、ボルドー色の花は、それだけですと、ブーケの印象が暗く重たい感じになってしまいます。モーブ色や若草色の花も加えて、ブーケは軽やかに仕上げたいものです。おひとつ、¥6,300から。この場合、そのまま飾ることができる器付きが喜ばれます。(2013.3)

 

 

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【ブーケ・ロマンチック】

 

ロココ調なパステルカラーの花々を用いたブーケ・ロマンチックは、数年前から取り組んでいる花束の一つです。とりわけ、春の日差しが良く似合うブーケでありますから、白い雪からやっと解放されたこの季節に眺めますと、夢見心地な気分になりましょう。

 

その特徴としては、モーブやローズといった、いかにもヴァトーの絵画に出てきそうな柔らかな色の花で作ることです。むろん、花はバラやラナンキュラスであることが望ましい。そして、スノーボールやニンジンの花などを加えて、その甘美な雰囲気を引き立たせます。

 

それも、きっちりとはまとめずに、ふわっと、曲線を感じさせるロココの精神で束ねることが大切です。ちなみに、このブーケは母の日の注文で生まれました。「白と緑はちょっと」というお客様に、白と緑だけではできない、ブーケ・ロマンチックを提案したのです。(2013.4)

 

 

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【バラのタンバル】

 

バラのタンバルは、いろいろな楽しみ方ができるブーケです。たとえば、その香りに心を奪われたり、色のアクセントとして食卓を豊かにしてくれます。あるいは、手のひらに乗る小さな贈り物として、ちょっとした手土産にもなりましょう。

 

むろん、このブーケはバラが主役ですから、品種の選択も大切になります。白なら、フランス語で傑作というほどの意味を持つシェドゥーブル。私がこれまで扱ってきた白バラの中で最も美しい。それから、華やかなピンクでしたら、イブ・ピアッチェ。シャクヤク咲きで、こちらはダマスク香が素晴らしい。

 

いずれにせよ、バラ3輪にアジアンアムやジャスミンなどを優しく添えて、そのまますぐ飾れるように、葉を巻いた器に飾ります。バラのタンバルは、おひとつ、,150。5月からクリスマス頃まで、良いバラが入荷した時、店内にこっそり並びます。(2013.5)

 

 

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【ブーケ・シャンペトル】

 

スパイラルブーケにもいろいろあって、この写真のように、野原から摘んだように束ねたものは、ブーケ・シャンペトルといいます。もっとも、長らく花の仕事に携わっている方であれば、かつては、こういったブーケをトルチュ風と呼んでいたにちがいありません。

 

ブーケ・シャンペトルは、上からは丸く、横からは花の高さを揃えず立体的に束ねることで、どこからでも花が美しく見える仕上がりになります。とりわけ、花器に飾った時に、このブーケが、単なる自然風な花束ではないことがわかるのではないでしょうか。

 

シャンペトルとは、フランス語で「田園」とか「田舎」というほどの意味があります。花材について少し述べれば、夏から秋に作る上で欠かせないのが、オルラヤ、レースフラワー、アンゼリカ、ニンジンなどセリ科の花です。これらは、ブーケに風を感じさせるシャンペトルの大切な要素になります。(2013.6)

 

 

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【トケイソウのリース】

 

パッションフルーツの仲間でもあるトケイソウ。夏の季節、長沼町から130センほどの長さで花市場に出荷されます。ただ、この切り花はつる植物で自立しません。そこで、店内の棚に絡めて飾っていたところ、お客さんが「リースみたい」といったのがきっかけで生まれたのが、このトケイソウのリースです。

 

直径20センチほどの環状にしたウンリュウヤナギに、保水用のガラスチューブを差し込み、トケイソウを時計周りに絡めます。そして、茎とチューブをリリオペの葉で結んで固定すれば、この爽やかな夏のリースは完成です。おひとつ、¥3,150。(期間限定)

 

もっとも、この写真のように、壁に掛けても良いものですが、卓上に置いてテーブルリースとしても素敵でありましょう。ちなみに、トケイソウの花は順番に咲きますから、このリースの表情は時を刻むように花の咲く場所が移動して日々変わっていきます。(2013.7)

 

 

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【バッカスのリース】

 

ちょうど今から1年前、山ブドウを使ってリースを作る話をいたしましが、この写真がその完成品、バッカスのリースです。山ブドウを主役に、同じウコギ科のアイビーとシッサスを環状に絡めて仕上げています。たわわに実ったブドウが7房はあるでしょうか。

 

そもそも、バッカスとは、ローマ神話に出てくる豊穣とブドウ酒、酩酊の神です。人間にワイン作りを指南したわけですが、バロック期イタリアの画家カラヴァッチョの名高い『バッカス』でも描かれているように、頭には決まってブドウの冠を載せています。

 

だからここだけの話、昨年、このリース作りのレッスンでは、つい頭に被って楽しみました。バッカスのリースはおひとつ、¥3,150。ちなみに、緑色の果実はエビ色、乾しブドウと次第に変化して、このリースはワインのごとく、熟成していきます。(2013.8)だからここだけの話、昨年、このリース作りのレッスンでは、つい頭に被って楽しみました。バッカスのリースはおひとつ、¥3,150。

 

 

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【ククミスのヴェリーヌ】

 

ククミスとはウリ科キュウリ属の学名で、この緑色の小さな実は野生キュウリの原種です。今から20年ほど前なら、パリの花屋でしか見かけなかった観賞果実が、今では、和寒町で栽培されたものが、夏から秋にかけて手に入るではありませんか!

 

そんな目新しいククミスを、小さなグラスに、3種3層で飾ったのがククミスのヴェリーヌです。近ごろのフランス料理で、デザートなどを層にして見せる盛り付けのように、透明なガラス器に入れることで、卓上を、ちょっと洒落た雰囲気に演出することができます。

 

ククミスのヴェリーヌは、おひとつ、¥800。ちなみに、プリニウスの博物誌には、いくつかのククミスが登場します。ひとつは薬草としての野生キュウリ。もうひとつは、ローマ皇帝ティベリウスの好物としてで、こちらは現在のメロンと考えるのが一般的です。(2013.9)

 

 

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【秋のバロックブーケ】

 

そもそも、バロックとは16世紀末から18世紀ぐらいにかけて興った芸術様式です。たとえば、カラヴァッチョの絵画、ミケランジェロの彫刻、ヴェルサイユ宮殿の建築、ボマルツォの庭園、シャルパンティエの音楽など、まあどれもがお腹いっぱいになりそうな、過剰でごてごてした印象の作品が並びます。

 

さりとて、どれもが飽きる事もない美しさで、自然の風景のように、人々に強い印象を残しますから、花屋がバロック風についつい魅せられてしまうのは、そんな理由がありましょう。

 

写真は秋のバロックブーケです。バラ、グロリオサ、コティヌス、ビバーナム、山ゴボウ、テマリシモツケなど、多種多様な花と枝葉、果実を束ねて、マグノリアの器に飾りました。おひとつ、¥5,250から。華やかさと上品な多色使いが求められるバロックブーケは、やはり秋が充実いたします。(2013.10)

 

 

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11月【アドベントのリース】

 

この時期、ドイツや北欧、フランスなどの花屋やクリスマス市で、4本のキャンドルを立てたリースがたくさん売られています。あれを、単なる卓上型のクリスマスリースだと思ったら大間違いで、アドベントの飾り物であることは、いうまでもありません。

 

今年は12月1日から始まる、クリスマスを待ち望む期間,アドベント。そこで、毎日曜日ごとに、灯すキャンドルの数を増やしながら気分を高めていくために、こういったリースがクリスマスのリースとは別に存在しているというのは、皆さんもよくご存知でありましょう。

 

写真のように、モミやコニファーなどの常緑樹を丸く絡めて、4色の「球根型のろうそく」を付けたアドベントのリース(直径約30センチ)は、おひとつ、¥5,900。そういえば、私が毎年購入するパン屋のアドベント菓子、シュトレンにも、4つのキャンドルが必ず添えられています。(2013.11) 

 

 

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12月【ユーカリのリース】

 

近ごろは、様々なユーカリが手に入るようになったこともあり、ちょっと作ってみたのがユーカリのリースです。イタリア料理のソース、クアトロ・フォルマッジのごとく、ポプラス、フォレスティアーナ、グロボラス、トレリアーナと4種の個性が混ざり合う事で、奥深いユーカリのリースが出来上がります。

 

クリマスはもとより、お正月、春、夏、秋と季節を問わず楽しめるのは、北国の庭では見かけることがない、オセアニアの異国情緒を感じるからなのかも知れません。ユーカリのリースはおひとつ、¥3,150。南半球が夏を迎える今が旬です。

 

さて、おかげさまで、ミニ大通りに根を付けて6年が経ちました。皆さまには感謝の気持ちでいっぱいです。来年もどうぞ宜しくお願い致します。えっ、最近は「いつからありましたか」ではなく「いつ開いているのですか」と聞かれているでしょうって?まあ、そんなことはいいっこなしよ。(2013.12)

2012-12-01 11:30:00

ミニ大通の並木から 2012

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【ラッパスイセンのブーケ】

 

ホメロスの詩にもあるように、スイセンの花は春の蘇り、すなわち復活の象徴です。そういったこともあって、新年に作るブーケには時おりスイセンを用います。ただ、新年を迎えるスイセンが凛とした白い房咲きを使うのに対し、年が明けた頃からは春の暖かさが感じられるラッパスイセンの登場です。

 

写真はちょうど今から1年前に束ねたもので、ネコヤナギ、ビバーナム、キヅタ、ミルトといった旬の枝葉がこの早春の花を引きたてます。もっとも、黄色い花はふだんあまり扱うこがありませんが、ミモザやヤドリギの果実がそうであるように、雪の中に見る明るい黄色は美しいものでありましょう。

 

ブーケはおひとつ、¥4,200から。そういえば、ラッパスイセンはウエールズの国花で、テレビのラグビー中継を観ていると、この時期に限っては、この花を胸元に飾って応援する女性達の姿があります。素敵な習慣です。(2012.1)

 

 

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【ガラスの鉢植え】

 

花市場に並ぶプラスチックに入った小さな鉢植え。これを仕入れて、そのまま売るのではなく、ちょっと洒落た感じに仕上げるためには二つの方法があります。ひとつは素焼きの鉢に植え替えて、マグノリアの葉などで包むやり方。もうひとつがこのガラス器に移して土や根を見せて楽しむというものです。

 

たとえば、写真のガラスの鉢植えは、左からスノードロッ(¥1,050)、ベビーティアーズ(¥750)、クローバー(¥950)になります。きっと私のように、雪の中で暮らす人にとって、この時期に見る土は近づく春を連想するのではないでしょうか。

 

もっとも、穴の空いていない器で鉢を育てるのは難しい、と思われるかも知れませんが、小さい鉢植えだからこそ、週に1度の間隔で土を湿らすだけで上手くできます。斯くて、ベビーティーアーズをいつも枯らしていた私がこのやり方で失敗しなくなったのですから。(2012.2)

 

 

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【イチゴのブーケ】

 

イチゴのブーケを作ることができるのは3月から4月。なぜかといえば、この時期に出回る鉢植えを切って束ねるからで、それも果実がまだ熟さないような青い状態であることが重要。食べて美味しいものを、そこまでしてわざわざ仕上げるのは、バロック時代に生まれたこの果実の小さな花束がそれだけ魅力があるからです。

 

もっとも、イチゴはバラ科の多年草で、本来、スズランが咲く頃の果実でありますが、陽気が暖かくなるにつれてイチゴを目にしますとやはり春の訪れを感じることでありましょう。イチゴのブーケはおひとつ、¥2,100。この春も少しだけ登場します。

 

ちなみに、イチゴは野イチゴやラズベリーなどを元にオランダで生まれ、江戸時代にオランダイチゴとして日本に伝わった比較的新しい果実で、当初は食用ではなく観賞して楽しむ植物であったことはあまり知られておりません。(2012.3) 

 

 

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【花の仕入れ】

 

花の仕入れは朝5時30分、いや最近は6時過ぎに札幌市内から約10km東にある花市場へ週に何度か足を運びます。とりわけ、切り花のセリが行われる月・水・金は欠かしません。私のような小さな花屋は、料理人が食材を選ぶような感じで仲卸業者を回ります。

 

出来上がるブーケを想像して、自分の目と経験から確かなものだけを選びますが、ミルトやマグノリアなど市場になかなか入荷しない花材は注文して手に入れています。もっとも、近頃は冬にバラやシャクヤク、春にダリアやアジサイ、夏にクリスマスローズが出回り、花屋は誘惑されることもしばしば。

 

でも、季節に正直な枝葉から選べば、変な間違いは起きないというもの。あとはイチゴのように、その季節、店内にあって楽しいかどうか、これが重要。たとえば、4月30日ならスズランを仕入れ、明日の幸せを準備するわけです。

(2012.4) 

 

 

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【レッスンのプログラム】

 

お気付きの方もいらっしゃるかもしれませんが、レッスンのプログラムは、その時期に店の主役となる花に基づいて組まれております。そこで、この5月に並ぶ店の花について、プログラムを例に、ちょっとご紹介してみましょう。

 

ます1週目はスズランの幸せ。小さなブーケが幸せを運ぶ1週間です。続いて2週目はバラを母の日に。優しい雰囲気のものや香りの良い品種が揃います。3週目はそろそろシャクヤクを。そして、4週目には値ごろになったシャクヤクをたっぷりと、といった具合です。

 

ちなみに、昨年の11月からテーマを週替わりにしてレッスンの種類を増やしました。理由は簡単で、プログラムを考えるのが私の密かな楽しみだからです。写真は、4月の後半に旬を迎えるスイートピーとアジアンタムで、最近のレッスンから。(2012.5)

 

 

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【野原の季節】

 

初夏の花屋は野原の季節。デルフィニウム、スカビオサ、カンパニュラ、クレマチス、オルラヤなどの草花が店に溢れます。作るブーケも、他の季節とは異なって、シャンペトと呼ばれる、田園から摘んだような雰囲気です。

 

たとえば、写真のブーケは劇場の入口にと依頼されたもので、私にしては珍しく青い花を中心に束ねています。1メートルほどの大きさです。まさに野原といった感じで、出来上がったブーケを店の前、すなわち、ミニ大通りに置いてみますと、まあ、ぴったりなこと!

 

もっとも、ミニ大通りは今がとりわけ美しい季節です。新緑の輝きやが目を喜ばせ、鳥の鳴き声や、葉音が耳を楽しませます。そんな自然のBGMが流れる環境の中で、オリーブやアジアイの鉢植えを店先に並べ、手の中で野原を作るのが6月の私。(2012.6)

 

 

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 【花のコロネ】

 

市場でアンスリウム・クラリネビウムの葉を見つけたら、花のコロネを作ってみたくなります。このコロネとはフランス語で円錐形というほどの意味で、たとえば、ハムのコロネといえば、サラダをハムで巻いたものですし、チョココロネという円錐形のパンは皆さんも良く御存じでありましょう。

 

もっとも、花のコロネは、今から17年ほど前にフランスで刊行された子供向けの花の絵本にその作り方が載っております。ここでは緑色のアンスリウムの葉で花を巻いておりましたが、写真のように、私のコロネは、同じアンスリウムの葉でも縞の入った品種です。

 

ベルベットを思わせる手触りのこの葉は、たとえば、白いラシラスの花を包みますと、涼しげな雰囲気となります。まあ、ちょっと風変わりな夏の小さな贈り物というわけです。花のコロネはおひとつ、¥1,260。さて、明日はこの葉が見つかるかなあ。(2012.7)

 

 

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【「山採り」の山ブドウ】

 

写真にあるように、山ブドウ、すなわち野生のブドウが入荷するのは札幌の短い夏が終わろうとしている8月の半ば頃です。この枝物は栽培されているわけではなく、ヤドリギなんかと同様に「山採り」と呼ばれる業者がこ

の季節、文字通り山から採ってきます。

 

この「山採り」。花屋にとってはとても貴重な存在で、ブーケや花飾り、そして店の雰囲気は、彼らのおかげで季節感と自然さを得ることができます。なんでも、フランスには、フォイヤジストと呼ばれる葉物や枝物を提供する業者があるそうで、「山採り」はまさに日本のフォイヤジストでありましょう。

 

ちなみに、今年はそんな「山採り」による山ブドウで直径約30センチのリースを作ることにしました。名付けてバッカスのリースで、おひとつ、¥3,150。壁に掛けて飾るのも良し、頭にのせてワインを楽しむのも可笑し。まあその出来栄えは今月下旬の店頭にて。(2012.8)

 

 

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【ブーケを飾るガラス器】

 

以前、「こういったスパイラルブーケを飾るのに適当な器はどこで売っていますか?」といったご質問をよく受けました。探してもなかなか見つからないという話なので、私も探してみたところ、口が細かったり、高さがあったり、模様があったり、円柱でなかったり、高価だったりと、たしかにありません。

 

そこで、ちょうど1年前にやっと見つけたのが、写真のガラス器です。直径9センチ、高さ20センチは、レッスンで作るブーケはもちろんのこと、たいがいのブーケを飾るのにはぴったりで重宝します。ブーケを飾るガラス器は、おひとつ、¥1,050。手ごろな価格も大切でした。

 

もっとも、こういった器が必要だというのも、近頃は、自宅にブーケを、それもスパイラルブーケを飾る人が増えてきたということでありましょう。花の組み合わせや、花器とのバランスを考えて活けるのとは違って、ブーケにはポンと飾るだけで部屋の雰囲気が変わる手軽さがありますものね。(2012.9) 

 

 

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【枝葉のブーケ】

 

申すまでもなく、この店で束ねられるブーケの約8割は白と緑の色合いですが、次に多いのは、緑だけの組み合わせです。枝葉のブーケといった方が良いかもしれません。写真のように、ドングリとユーカリをたっぷり束ねることもあれば、イネ科の植物をちょっとアクセントに加えることもあります。

 

また、テマリシモツケのような銅葉色などもこのブーケにおいては大切な要素で、緑の濃淡だけで束ねる場合とは違った趣になるというもの。いずれにせよ、少し控えめながら、自然が溢れるように作るのが枝葉のブーケの特徴です。

 

もっとも、花らしい花をあえて用いませんから、このブーケ、派手さからは遠ざかります。でも、枝葉というのは季節に正直ですし、長く楽しめるものです。ちなみに、美しい枝葉は花の少なくなる秋から冬に充実しますから、枝葉のブーケは今が旬なのであります。(2012.10) 

 

 

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【私のリース作り】

 

何だか、雑貨や工作のように思えて、リースぎらいで通っていた私が、どういう風のふきまわしか、このところ、気軽にリースを作るようになりました。一昨年のクリスマスのリースに始まり、今年に入ってからは、月桂樹、ミモザ、時計草、山葡萄、豆柿でも作り、自分でも「ほぉ」と驚いてしまいます。

 

柳などを環状にした土台に、鳥が巣を作るように、枝葉を絡めて仕上げる私のリース作り。むろん、針金や接着剤などは使いません。そのため、ブーケのごとく立体的に仕上がります。作家の荒俣宏さんは、現代の花束は古代ローマのリースが起源と指摘していましたが、なるほど、リースもブーケの一種なわけです。

 

この冬は、モミやネズの枝葉などでクリスマスのリース、さまざまなユーカリによるリース、松やナンキンハゼの白い実を使ったお正月のリースを作ります。また、リースを主役にした舞台飾りを行うなど、私のリース作りは、どうやら、しばらく続きそう。(2012.11)

 

 

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【お正月のリース】

 

数年前から、年末に実付きのオリーブが出回るようになり、この冬初めて作ってみたのがお正月のリースです。環状にした小豆柳を土台に、譲り葉、シースター、オリーブ、南京櫨を、鳥の巣のごとく立体的に絡めます。そして、大王松の葉を、現代風フランス料理の一皿を思い出して盛り付ければ完成です。

 

伝統的な縁起植物と、その植生から導き出した松とオリーブの組み合わせは、仄かにお正月や地中海の初日の出が感じられます。南京櫨の白い実も愛らしくて、これなら、七草粥を食べた後でも、しばらく飾って楽しめそう。おひとつ、¥3,800(直径約28センチ)。

 

さて、ミニ大通りに根を付けて5年が経ちました。皆さまには感謝の気持ちでいっぱいです。来年もどうぞ宜しくお願い致します。

 

えっ、先日このリース作りのレッスンで、見本製作を失敗したって?そんな事はいいっこなしよ。(2012.12)

2011-12-01 11:00:00

ミニ大通の並木から 2011

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【ヤドリギ】

 

私の冬の楽しみの一つはヤドリギ探しです。歩きながら、あるいは車を運転しながら落葉樹を見上げてはこの寄生植物を探します。見つけた時は、名高いフランス文学者のごとく「あ、ギーだよ。」とフランス語で叫ぶか、万葉の歌人のごとく「ほよ」と古名をいいながら、その姿や実の色を観察します。

 

そんなこともあって、先日依頼された「森の分室」と称した花飾りでは迷うことなくヤドリギを飾りました。古代ケルト人のドルイドやアイヌの人々が崇めてきた縁起の良いこの植物によって、神々しい冬の森の空間に仕上がったというわけです。

 

ちなみに、店の近くにヤドリギは近代美術館敷地内の樹木にありますが、残念ながらミニ通りの樹木にはありません。でもミニ大通りの花屋にはございます。ただしこちらのヤドリギは高価なこともあって仕入れるといつも店内に宿ったままなんだなあ。(2011.1) 

 

 

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【ミモザを窓辺に飾って】

 

ミモザは、パリのスーパーでおじさんが黒いラッピングをして売っている印象が強いし、他の花材との組み合わせが不向きなこともあって、以前はあまり扱わない花でした。ところがこの時期、ウインドーにミモザを飾ってみますと、雪の積もったミニ大通りに黄色い小粒が輝いて、これがすこぶるよろしい。

 

春の訪れといいますか、少し大袈裟にいえば、店内に南仏コート・ダジュールの暖かさが運ばれてきた、という感じになります。もっとも、福寿草がそうであるように、雪の中で見る黄色は、北国に住む私たちの気分を良くしてくれる情景でもありましょう。

 

そういえば、1968年のグルノーブル冬季五輪の記録映画『白い恋人たち』で、ミモザだけを束ねた表彰式のブーケを観ることができます。旬の花だといえばそれまでですが、あの色が銀世界に映えることを、フランスの花屋もきっと知っていたにちがいありません。(2011.2)

 

 

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【白い花あそび】

 

「うちの店でレッスンをしていただけませんか?器やアンティークのものに、ちょっとした花あしらいを提案してほしいんです。」

 

「なるほど、それは面白そうですね。春は始まりの季節ですし、やってみましょう。」

 

「良かった、宜しくお願いします。」

 

「それで、レッスンが11時開始でしたら、その後は2Fのカフェでランチですか?」

 

「はい、タルティーヌをご用意しようかと。」

 

「タルティーヌ!良いですね。少し温めた1センチ厚のカンパーニュに、菜の花のソースを塗って、サン・ジャックやディル、ピンクペッパーをのせたりしてね。」

 

とまあこんな具合で、ランチ付きの出張レッスン「白い花あそび」が始まります。(2011.3) 

 

 

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【春のミニ大通】

 

たしか、バルザックかミシェル・ブラスのどちらかが著書で「自然はたゆまなく繰り返す」といっていたように、もうすぐミニ大通りにも春がやって来ます。4月の始めまであった雪がなくなり、いつの間にか木々の芽吹いた緑が目立ち始め、5月の連休には桜やレンギョウに彩られるというわけです。

 

もっとも、ミニ大通に桜は西11丁目から西16丁目まで植えられていて、どういうわけか、店のある西17丁目には樫やクルミ、姫リンゴといった果樹しかありません。まあ、私がいる場所ですから、樹々に咲く花も白や緑ということなのでありましょう。

 

では、ミニ大通の花屋はどうかといえば、春が訪れますと初夏の花が旬になります。冬に春の花があるように、花屋は一足先の季節を提供するものだからです。写真のように、4月の中旬から母の日の頃のブーケでは、薔薇、ウツギ、ソケイが主役です。むろん、5月1日はスズランが今年も主役ですけどね。(2011.4)

 

 

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【ムング豆のボール】

 

ポリスチレンにムング豆を張り付けて作るこのオブジェは、今から15年ほど前にフランスで出版された子供向けの花の絵本でも紹介されていたことがありますから、ご存じの方もいるかもしれません。

 

その作り方は単純で、まず直径10センチほどの球体を両面テープで覆い、次に皿に盛ったムング豆の上で転がしながらある程度まで豆を球体に張り付けます。そして、隙間をひとつひとつ埋めていき、仕上げにエスプレッソ粉ほどに砕いた木屑をまぶして豆の隙間が目立たなくなったら完成です。

 

少し手間はかかりますが、パズルが出来上がったような爽快感が味わえるのがこのオブジェ作りの楽しいところ。ムング豆のボールはおひとつ、¥1,890。こういったオブジェは花や緑を引き立たせる役割がありますから、フランスでは子供向けの本にだって登場するのでありましょう。(2011.5) 

 

 

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【夏至祭のリース】

 

クリスマスが太陽を励ます冬至の行事であるならば、夏至祭はその対極にあって、強まる太陽に感謝する日であることはいうまでもありません。すなわち、どちらも生命の祝祭であるわけですが、それなら、夏至の日にもリースがあって良いのではないか、ということで出来上がったのがこの夏至祭のリースです。

 

プリニウスの時代からある花装飾のごとく、リースは環状に束ねたアイビーに木棒を付けたのが特徴で、夏至祭の時に広場に立つマイバウムを模しています。壁や扉に掛けるのではなく、花瓶や鉢植えにさして空間を飾れば、部屋の中で夏至祭の気分となりましょう。

 

夏至祭のリースは、おひとつ、¥1,260。リースの直径は約18センチですが、棒の長さは90センチと、ちょっと持ち運びにくいのはご愛嬌。ちなみに、ガラスチューブで保水しておりますから、夏至の前夜に摘んだ聖ジョンの草をここに飾っても素敵です。(2011.6)

 

 

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【オリーブの鉢植え】

 

部屋の中に置く緑の鉢植えを選ぶ時、大切なのはその環境に適したものを選ぶことです。たとえば、私が住む北海道の室内の場合、夏は湿度が低く、冬は暖かく乾燥しています。いわゆる、高温多湿な亜熱帯地域が原産の観葉植物なんぞは、案外育てるのに手間が必要かもしれません。

 

そこで、オリーブの鉢植えの登場です。皆さんも良くご存じのように、平和の象徴であるオリーブは地中海性気候の植物で、1年中暖かさと乾燥を好みます。すなわち、北海道の室内環境と似たところがあって、これが育てやすいというわけです。

 

オリーブの鉢植えはおひとつ、¥5,250。忘れない程度の水やりで管理できます。クネゴの復活を信じてツール・ド・フランス観戦で家を空けるという方も嬉しいかぎり。もっとも、私は今年もテレビで観戦。(2011.7)

 

 

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【トルミネアの鉢植え】

 

たとえば、ミシェル・ブラスのミルクジャムが冷蔵庫に入っていれば、いつものパンがより美味しくなるように、このトルミネアの鉢植えがあれば、家の中で花をちょっと飾る際、葉を鉢から摘んであしらうだけで、その花飾りは美しく洒落た感じに仕上がります。

 

まあ、その昔はクリスチャン・トルチュがスイートピーの小さなブーケを作る時に、最近ではカトリーヌ・ミュレーがテレビのフラワーレッスンで用いていたように、トルミネアは、夏の光を思わせるその明るいマーブル模様の葉で私たちの気分を良くしてくれる、というわけです。

 

トルミネアの鉢植えはおひとつ、¥1,260。花飾りやブーケ作りにおいて、常備しておくと便利な魔法の葉っぱです。ちなみに、庭に植える場合、この植物は北米西海岸の森林の下草だといいますから、湿り気のある日陰が適しています。(2011.8)

 

 

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【ダリアのブーケ】

 

たしかに、切り花にしたダリアは長く楽しめるわけではありません。けれども、季節の花を楽しんだり、贈ることを考えるならば、ダリアはやはり魅力的です。とりわけ、秋に向けてさまざまな実が目立ち始めるこの時期は、その華やかさが一層増してきます。

 

たとえば、小さなナスやリンゴ、野バラ、山ゴボウ、シンフォリカルポス、ホオズキなどと束ねたダリアのブーケは、いかにも秋の田舎の風景といったところ。もっとも、花嫁向けであれば、写真のように白いポンポン咲きに、ドングリなんかでまとめるとちょっと素敵でありましょう。

 

そう、ダリアといえば、エミール・クストリッツァの映画『黒猫・白猫』を思い出す人も多いかもしれません。ラマの音楽にのせて、秋の陽光に輝くダリア畑。私はブーケを束ねる時、その花が咲いている情景を頭の中に描きますが、ダリアに関してはいつもこの場面。

 

写真は今から10年ほど前に作ったダリアのブライダルブーケです。白いポンポン咲きのダリア、アイビー、ドングリの組み合わせは、今見直してみても新鮮な気分。もっとも、最近では黒い“黒蝶”など、ダリアも束ねたい品種がずいぶん増えました。(2011.9)

 

 

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【出産祝いのブーケ】

 

出産は新しい命の始まりでもありますから、そのお祝いのブーケではラナンキュラスやシクラメン、スイートピーなど春の花を加えて作るのが基本です。でも、だからといって、季節感がなくなってもいけませんので、夏から秋の頃にはバラで、それも大輪は避けて、蕾や小さなものを使うようにしています。

 

また、ブーケの色合いについては、私に依頼すると、とかく白と緑になりがちですが、大切なのはフレッシュであること。そして愛情や優しさが感じられる印象に仕上げることでありましょう。出産祝いのブーケはおひとつ、¥5,250から。

 

写真は秋に作ったもので、小さなバラに姫リンゴを加えて、器は藁で巻いています。申すまでもなく、お祝いのブーケは、そのまま飾ることができるように器を付けた方が贈られた相手には喜ばれるもの。とりわけ、出産祝いにはこの手法がぴったりです。(2011.10)

 

 

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【モスのボール】

 

球体のオブジェについては、以前に、マグノリアの葉やムング豆を素材にしたものをご紹介しましたが、そもそも、こういった飾り物として最初に作ったのがこのモスのボールです。モスとはいわゆる苔のことで、これもポリスチレンを土台にして仕上げます。

 

使っている苔は自然乾燥させた、トルコ産で板状のシートモスと、オランダ産で塊状のプールモスと呼ばれているものです。とりわけ、凹凸感を持つプールモスのボールなんぞは、「法然院を思い出すわ」と京都の美しい苔を知る方なら心が動くにちがいありません。

 

モスのボールはおひとつ、シートモス製だと直径25センチ(大)が¥5,250、直径15センチ(小)が¥3,150。プールモスだと直径20センチが¥7,350。

 

ちなみに、生命を象徴する苔もクリスマスに飾る緑のひとつです。(2011.11)

 

 

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【新年の松飾り】

 

松の枝を藁で包み、アクセントに南京黄櫨の白い実を飾れば新年の松飾りの完成です。写真のように、壁に掛けるのも良いものですが、そのまま横に置いて、床や卓の室礼にもなりましょう。松飾りはおひとつ、¥880。今月13日から店で販売致します。

 

さて、おかげさまでミニ大通りに根を付けて4年が経ちました。皆さまには感謝の気持ちでいっぱいです。

 

まあ、確かに花の種類が少なく「ちょっと入りにくい」といわれることもありますが、時おり、「他とは違って入ってみたかったの」といってくださるお客様に救われる今日この頃。来年もどうぞ宜しくお願い致します。

 

えっ、ここで2012年3月で花屋になって20周年です、なんていおうとしたら、勘違いをしていて、それは今年の話だったなんて、そんなことはいいっこなしよ。(2011.12)