ミニ大通の並木から 2019
【ブーケ作り、リース作り】
多くの皆さんは、ブーケやリース作りに必要な事はセンスだと思われているようですが、それは違います。突然、イメージがわいて作れるというのは幻想です。言葉を知らなければ小説が書けないように、花を知らなければ作る事は出来ません。
自分が良いと思ったブーケやリースを糧にして、植生、季節、神話、宗教、民間習俗、そして、市場に流通する期間を把握する事で、より良い仕入れが出来て、美しいブーケやリースが生まれます。知識と経験が必要なのです。
しかし、ブーケやリース作りは、他人を真似る事で簡単に出来てしまう怖さがあります。今から20年前、パリから来た花屋にいわれました。「パリの花屋の真似はわかったから、あなたのブーケを見せて!」とね。(2019.1)
【ミモザをフワフワで】
ここ数年、ミモザをリースにして楽しむ花屋が増えた事もあって、ミモザは輸入品も含めて様々な種類が市場に多く出回るようになりました。とはいえ、ミモザは切り花としては日持ちがあまり良くありません。
雪国の室内ではすぐ乾燥してしまい、その輝かしい黄色はあっという間にくすんでしまいます。だから、仕入れたミモザは水揚げをした後、ビニール袋をで覆って湿度を加えて乾燥を防ぐ事が重要です。こうする事で、蕾もよく開きます。
この写真のように、そんな下ごしらえをしたミモザで作ったリースはフワフワの状態で仕上がるのはいうまでもありません。この春を祝うカーニバルの黄色を手にする時、フワフワで受け取るかどうかで、その喜びは違ってくるのです。(2019.2)
【緑のブーケ】
緑の枝葉で作るブーケの良いところはいくつかあって、まず、眺めているだけで心が安らぐという事。それから、花の質感が強調されて季節がより感じられるという点。また、飾る場所を選ばず、長く楽しめるという事も特筆すべきでありましょう。
とりわけ、春においては、枝の芽吹きや若草色のスノーボール、野菜のような球根花など様々な緑が集まりますから、ブーケ作り本来の醍醐味でもある「相反するいろいろなものを混ぜ合わせる」といった面白さが味わえます。
緑といえば、3月17日はセントパトッリックスデーで、緑を身につけて祝うアイルランドの祝祭日です。緑のブーケを飾って、ギネスを飲みなら、ドロレス・オリオーダンの歌声を聴くのが、私のセントパトリックスデー。(2019.3)
【オレンジ・プリンセス】
チューリップは花弁の特徴によって様々な呼ばれ方をします。一重咲き、八重咲き、パーロット咲き、フリンジ咲き、ユリ咲きなど、花弁の数や形から呼ばれるものもあれば、ビリデ咲き、レンブラント咲きなど、花弁の模様から名付けられたものなどです。
そんな中、この写真のオレンジ・プリンセスは、八重咲きであり、レンブラント咲きという珍しさがあります。花屋ではチューリップのシーズン最後に出回る草丈の短い品種で、花弁にある茶紫の透かし模様には、絵筆で描かれたような美しさがありましょう。
そしてご覧のように、このチューリップとスノーボールの組合せは、春の定番です。イースターのブーケとして、あるいは、サンジョルデイのブーケとして束ねる時、雪どけたミニ大通は春を迎えています。(2019.4)
【ブーケとサイクリング】
ご存知の方も多いかと思いますが、私の趣味はサイクリングで、14年ほど続いています。何がそんなに楽しいのかといえば、ブーケ作りのヒントがこの遊びには隠されているからです。
たとえば、田舎道で樹々や田園風景を眺めたり、季節を感じる花畑に出会ったりしますと、明日作るべきブーケの手本が見つかります。クリスチャン・トルチュがいうように、美しいブーケの組み合わせは身近な場所で既に存在しているのです。
それからもう一つ、天候の変化や道の間違い、パンクなど、予測不可能な事がおこります。その際、冷静な判断が必要となるわけですが、ブーケ作りもまた自然が相手。仕入れる時も束ねる時も、迷いがなくなったのはサイクリングを始めてからなのです。(2019.5)
【料理とブーケ作り】
ブーケのレッスンをしていて気が付いた事の一つに、ブーケ作りは料理に似ているというのがあります。たとえば、予算をもとに、旬の素材を吟味して、組み合わせを考えるという作は、まるで献立を考える気分です。
そして、材料を切り分け、主役、脇役、アクセントとなる花や枝葉をテーブルに並べる下処理は、料理でいうところの下ごしらえ。そう考えていたけければ、初めての方でも段取りを知ればブーケは上手く束ねられるのです。
先日、花婿がブライダルブーケを作る機会がありました。新郎が天ぷらを揚げる仕事をしていたので、折角だから束ねてみましょうとなったのです。初めてとは思えない手際の良さ。やはり、料理とブーケ作りは似ているのです。花嫁をより幸せに導きました。(2019.6)
【フランボワジエについて】
フランボワジエとは、フランス語で木苺の木というほどの意味で、新芽の鮮やかな緑とプリーツ状の葉が美しい花材です。フランス語名で流通しているのは、この枝葉がフランスの花屋で昔から広く使われているからでしょう。
木苺の葉なんて庭にあると思うかもしれませんが、重要と供給で成り立つ花屋では入手が難しいものが多くあります。フランボワジエもそのひとつで、札幌の市場にはこの夏から本州産が少しずつ入荷し始めたのです。
もっとも、北海道でも長沼町の若い生産者がフランボワジエの栽培を始めるようで、先日、出荷してほしい時期や葉の大きさなどをお伝えしました。こういった生産者との繋がりは、ブーケをより季節感のある自然な仕上がりに近づけてくれます。(2019.7)
【グラジオラスのブーケ・ファゴ】
夏から秋にかけて庭を彩るグラジオラスは、長い花茎の先に複数の花をつける事もあって、どちらかといえば、大きな花飾りやブーケに向いています。そのため、日頃は取り扱う事がほとんどありませんが、真夏に作りたくなるのが、グラジオラスのブーケ・ファゴです。
この写真にように、切り分けたグラジオラスを垂直に束ねて、パニカムを少しだけ添えて仕上げます。ファゴとはフランス語で薪や薪束というほどの意味で、ブーケは自立しますから、水のはったお皿に置けば暑い季節でも一週間ほど楽しめるというわけです。
もっとも、このブーケは1995年にクリスチャン・トルチュが雑誌でも紹介していたことがありますから、ご存知の方もいるかもしれません。グラジオラスだからこそ出来る美しいブーケです。(2019.8)
【出張レッスンについて】
出張レッスンの始まりは、今から20年ほど前の事で、ギャラリーからの誘いで参加した企画展示がきっかけです。併設するカフェにおいて、飲み物付きで、スパイラルブーケ作りを体験していただくというものでした。
その当時、花を教えるといえば、場所は文化センターなどで、内容は資格取得やデザインを目的とする事が一般的だった時代です。その日限りのその場所で、季節を楽しんだこの時のレッスンは、どこか自由で新しさもあって、私の気質にぴたりと一致しました。
その後も遠く地方に出向いたり、野外で行なったり、料理教室と一緒だったり、ありとあらゆる場所で行なってきた出張レッスン。来月は厚真町の古民家を訪れて、板の間に座って秋のリースを作ります。(2019.9)
【シクラメンについて】
プリニウスの時代には薬草として、バロック時代のヨーロッパでは食用だったシクラメン、正確にはペルシア由来のシクラメン・ペルシカムも、今では秋から春までを彩る観賞用の鉢植えとして多くの品種が出回っています。
株の大きなものであれば、茎を螺旋状に引き抜いて切り花として小さなブーケに。また、美しく乾燥する白い花はリースの素材にもなります。むろん、葉を巻いたガラス器に入れて飾れば、ちょっと洒落た贈り物にもなるわけです。
ちなみに、秋のコッツウォルズなどではシクラメンの絨毯が見られますが、あれは原種でヨーロッパ由来のシクラメン・ヘデリフォリウムです。その名の通り、葉の形がアイビーに似ていて、私たちが知るこの写真のシクラメンとは種類が異なります。(2019.10)
【モミのガーランドについて】
ガーランドとは、紐に植物を括りつけた花飾りのひとつです。その歴史は古く、紀元前からあったといわれており、花網、花輪、花冠などの意味があります。今日ではクリスマス飾りとして、私たちに馴染み深いのはいうまでもありません。
たとえば、毎年11月中旬、アメリカのオレゴン州から上質なモミ枝が市場に入荷します。多くの花屋はこのモミを使って、リースやスワッグ、そしてこの写真のように、ガーランドを準備するわけです。
リトアニア産の細く目立たない麻紐を用いて長さ70センチ程に束ねて仕上げれば、壁飾りとしてはもちろんの事、卓上飾りとしてもお使いいただけます。おひとつ、¥5,500。期間を決めての予約販売です。(2019,11)
【ヤドリギの幸せ】
フランスの新年には、ヤドリギを飾る習慣があります。寒さに凍えた妖精がこの植物に移り住む逸話があるからだそうで、家に招き入れれば幸運が訪れるというわけです。
そんなエピソードを思い浮かべながら、今年もヤドリギを仕入れました。切り分けられるのは鮮度が良い証です。妖精が沢山居るにちがいありません。小分けにして販売しております。
さて、お陰様でミニ大通りに根を付けて12年が経ちました。皆さまには感謝の気持ちでいっぱいです。来年もどうぞ宜しくお願いいたします。
えっ、この秋の怪我で髭が剃れずにいたところ髭面が似合うと言われて調子に乗っているでっしょうって?まあ、そんなことはいいっこなしよ。(2019.12)