ミニ大通の並木から 2023
【ラナンキュラスをコルシカ風に】
アプリコット色のラナンキュラスに、緑色のヘレボラス、それにオリーブの枝葉を加えれば、ラナンキュラスのコルシカ風の完成です。このブーケは花材が揃う期間が限られているため、2月のレッスンによく登場します。
コルシカ風とは緑色のヘレボラスとオリーブをブーケに加えた時の勝手な呼称です。どちらもコルシカ島に自生しているのでそう名付けました。もっとも、近年使っている品種のフェチダスは厳密にいえばコルシカ島原産でないというのはここだけの話。
ちなみに、このコルシカ風に限らず、19世紀風、田舎風、バロック風と、レッスンのタイトルは時に料理のメニューのような表記にしています。これは、ブーケ作りにはレシピがあって、料理に近いものと考えているからです。(2023.2)
【雪どけのリース】
笹葉のユーカリを土台に差し込み、オリーブとミモザを少し加えて、仕上げにハゴロモジャスミンとアイビーを絡めれば、雪どけのリースの完成です。春の日差しを浴びれば、複雑な緑の中に僅かな黄色が感じられます。
それは、雪どけの中から顔を出した草木が、意外にも色鮮やかだったり、福寿草の小さな黄色に気がつくあの嬉しい感覚です。もっとも、春のリースはなかなか閃かずにおりましたので、この新作に実は心が躍っております。
といいますのも、これはミモザが僅かしか入荷できなかった時、店内にあるもので偶然出来上がったリースだからです。 ChatGPTに「春のリースは?」と訊いたところで、こんな組み合わせはまだまだ教えてくれません。(2023.3)
【母の日に贈るブーケ】
今年の母の日は5月14日と、最も遅い日程で、ちょうど初夏の枝葉や草花が多く出回っている時期です。たとえば、この写真は昨年同日のブーケですが、ロゼット咲きのバラにリョウブとオルラヤ、スノーボールで仕上げています。
以前この欄で母の日に作るブーケについて「貰って嬉しくなるようなものに仕上げられるようになりました」と述べたように、この優しいロココ調な色合いは母の日に贈るブーケとしてぴったりでありましょう。
ちなみに、この組み合わせは作りやすさもあって、「ブーケ・マリアローザ」というタイトルで5月のレッスンでも行います。自分で作って手渡すことが出来るなら、これほど素晴らしい母の日に贈るブーケはありません。(2023.4)
【ヒメリョウブについて】
ヒメリョウブは別名がアメリカズイナというように、アメリカ原産の花木です。そのクリーム色を帯びた穂状花序は、ブーケのアクセントとなるばかりでなく、私たちに初夏の始まりを告げてくれます。
この写真のように、シャクヤクとの相性は抜群です。花の重さを、そのしなる枝がしっかりと支えてくれます。ブーケ作りは色合わせや季節感の他に作りやすさも重要ですから、この枝葉は5月の花屋に欠かせない存在でありましょう。
ちなみに、ヒメには小さいという意味があって、日本のリョウブより小さいのでそう呼ばれます。しかしながら、これらは全く別の植物であることを最近知りました。リンゴとヒメリンゴのような関係ではなかったわけです。(2023.5)
【ドウダンツツジについて】
これからの季節、ホテルなどの広い空間で見かけるドウダンツツジは、涼しげな新緑が私たちを爽やかな気分にさせてくれます。また、暑い場所でも花器の水が汚れにくく、長持ちすることもあって、ご自宅に飾る方も多いかもしれません。
しかしながら、購入する時期には注意が必要です。葉が柔らかい春先は萎れやすく、秋の美しい紅葉もすぐに枯れてしまいます。ぜひ、良質なものが出回る5月中旬から7月上旬にかけてお買い求めください。
それと、もう一つ気をつけたいことがあります。この枝を花束にはしないということです。切り分けて細かな葉をまとめてしまいますと、その魅力が台無しになってしまいます。潔くそのまま飾って楽しみたいものです。(2023.6)
【麦のタンバル】
フランスの花屋に古くから伝わる技法の一つであるタンバルは、円筒形の器に植物を覆って花器にする工夫です。ハランやマグノリアの葉で仕上げるのが定番ですが、時おり変化をつけて楽しむことがあります。
たとえば、今年初めて作ったのが麦のタンバルです。パン屋の周年祝いに合わせて3種類の麦でガラス器を包みました。これにブーケを飾りますと、麦の素朴な美しさが、白いバラをより華やかに引き立たせてくれるのはいうまでもありません。
写真左、ブーケとのセットは7,700円から。写真右、麦のタンバルはおひとつ、3,300円。今月はエピ・ド・ブレといった麦にまつわる行事もありますから、パン屋に限らず夏の贈り物としてもぴったりでありましょう。(2023.7)
【市場レッスン】
「仕入れ」「水揚げ」「ブーケ作り」といった3つの内容から成り立つ市場レッスンはこの夏から加わったプログラムです。「仕入れ」は市場に行って、作るブーケの花材を、その秘訣を聞きながらご自身で選んでいただきます。考えるレッスンとも呼べましょう。
続いて、店に戻って「水揚げ」を、その仕方を教わりながら行います。これは知るレッスンという位置づけです。そして、花材を最初からご自身で準備した「ブーケ作り」は、これまでのレッスン以上に、学ぶレッスンとなるかもしれません。
市場レッスンはお一人様、60,500円。毎週金曜日の朝6時から始まる、ブーケ作りにおいて最も大切な、束ねない時間からの330分。きっと花屋の気分が味わえます。(2023.8)
【ザクロのリース】
華道などの需要もあって、この時期に市場で時々見かけるのが果実のついたザクロです。枝ぶりにもよりますが、ずっしりと重たい果実は、ブーケにするには少し難しいので、数年前からはこのようにリースにして楽しむことにしています。
作り方は他のリースと同様で、環状にしたサンキライの枝に、小分けしたザクロの枝を絡めていけば完成です。この写真は出来立てですが、乾燥しても葉色が少しくすむ程度で、その雰囲気は何ら変わりません。
ちなみに、ザクロは北海道では育たないので、私にとってこの果実はどこか異国情緒を感じます。なにしろ、花屋になるまで、セルゲイ・パラージャノフの映画の中でしかザクロを知らなかったわけですから。(2023.9)
【スレッズとレッスン日誌】
新しいSNS、スレッズで時おり投稿しているのがレッスン日誌です。その名の通り、レッスンで使った花材と出来上がりの写真を添付して、その意図や作り方についてこのコラムほどの長さで述べています。
なぜスレッズなのかといえば、このSNSにはミニブログの要素があって、文書と写真が見やすいプラットフォームとなっているからです。スマートフォンからも読みやすく即時性もありますから、花屋にとって、これはとても適している気がしました。
もっとも、インスタグラムもレッスンの内容をお知らせする目的で8年前に始めたわけですが、写真共有アプリゆえ文章との親和性が高くはありません。スレッズの登場で、お伝えしたいことがより充実したわけです。(2023.10)
【スキミアについて】
日本原産のスキミアはヨーロッパで品種改良された園芸品種です。晩秋から冬に咲き、この写真のように蕾が緑色の他に赤色があります。欧米ではクリスマスの花としても親しまれていて、花屋に並ぶものの多くはオランダ産です。
何でも、ロンドンの花屋に勤めていたお客様の話によれば、イギリスのクリスマスはポインセチアではなくこのスキミアを飾るのが一般的だそうで、この時期の花屋はスキミアの鉢植えだらけになるというではありませんか。
そういえば、ミニ大通に面したマンションの花壇には立派なスキミアが植えられていて、雪の中でも堂々と咲いていますし、店から車で1時間ほどの野幌森林公園には野生のものが見つかります。スキミアは冬の身近な花なのです。(2023.11)
12月【ガレット・デ・ロワと3つのブーケ】
エピファニーにちなんだこのレッスンは、小さな3つのブーケを作って卓上に並べて飾り、ガレット・デ・ロワを楽しむというものです。目覚めを意味するアーモンド菓子を味わいながら、3人の王様にちなんだ植物とともに、1年の幸運を占います。
もっとも、切り分けたフェーブが当たらなかったとしても、私自身はこうやって、レッスンを続けられることが既に幸運であることはいうまでもありません。
さて、お陰様でミニ大通に根を付けて16年が経ちました。皆さまには感謝の気持ちでいっぱいです。来年もどうぞ宜しくお願いいたします。
えっ、今頃は韓国にいるはずなのに、何故か日本で呑気にコラムを書いているって?まあ、そんなことはいいっこなしよ。(2023.12)